勤務シフトをつくるのに、毎月12時間。555床の前橋赤十字病院では、管理栄養士がノーコードの道具で生成AIのアプリを自分たちで作り、この作業を1.5時間に縮めました。病院のAIというと画像診断を思い浮かべがちですが、いま効果が数字で出ているのは、文書・記録・問診・事務といった診療のまわりの仕事です。2024年4月からは、勤務医の時間外・休日労働に年960時間を原則とする上限が設けられ、病院は医師の時間をどう生み出すかを問われています(出典:厚生労働省『医師の働き方改革』概要)。
そこで本記事では、病院・クリニックのAI導入事例を18件、医療文書・診察と看護の記録・問診と電話予約・会議と事務の4つの業務に分けて紹介します。すべて2024年10月以降に病院や官公庁、提供会社が公表した事例で、病院の規模・使ったAI・効果の数字・出典をそろえて載せました。病院がAIでできること、うまく進めた病院の共通点、費用と期間、使える制度、個人情報の注意点もあわせてまとめています。
この記事でわかること
- 業務別の病院のAI事例がわかる
- 中小病院の始め方がわかる
- 費用・期間・補助金がわかる

この記事の監修者
AIBUILDERZ編集部
AI導入支援サービス「AIBUILDERZ」を運営するチームです。AI研修からシステムの導入・構築・定着まで、企業のAI導入を一気通貫で支援しています。
病院・クリニックのAI導入事例 一覧
本記事で紹介する18件を、1つの表にまとめました。病院名を押すと、それぞれの事例の説明に移ります。規模の欄は、出典に病床数や職員数が書かれているものだけを載せています。
| 病院 | 規模 | 業務 | AI | 効果 | 発表 |
|---|---|---|---|---|---|
| 内田病院 | 公表なし(慢性期病院) | サマリー・意見書 | 生成AI | 数値の公表なし | 2025年10月 |
| 蘇生会総合病院 | 290床 | リハビリのサマリー | 生成AI | 23分→10分(約57%減) | 2026年6月 |
| 織田病院 | 公表なし | 看護サマリー | 生成AI | 54.2%短縮(3回目以降) | 2024年11月 |
| 村上総合病院 | 公表なし | 手術記録・サマリー | 生成AI | 手術記録が約半分(一部の科) | 2025年9月 |
| 済生会二日市病院 | 公表なし | 看護サマリー | 生成AI | 業務コスト36%減 | 2025年5月 |
| 九州がんセンター | 公表なし(国立病院機構) | 初診カルテ・議事録 | 生成AI | 22分→12分、議事録70%減 | 2026年7月 |
| 中部徳洲会病院 | 408床 | サマリー・紹介状 | 生成AI | 退院サマリー月91.7時間減 | 2026年3月 |
| 藤田医科大学岡崎医療センター | 400床 | 看護・退院サマリー | 生成AI | 看護サマリー月152.5時間減 | 2026年3月 |
| リノクリニック東銀座ほか | クリニック | カルテ記録 | 音声認識・生成AI | 月24〜36時間相当(見積もり) | 2026年8月 |
| 生和会グループ | 公表なし(グループ) | リハビリの診療録 | 音声認識・生成AI | 約66%短縮、3か月で2,000時間超 | 2025年7月 |
| 相澤病院 | 公表なし | カンファレンスの記録 | 音声認識・生成AI | 60分→10分、算定件数も増加 | 2026年7月 |
| 大阪国際がんセンター | 公表なし | 看護記録・問診 | 音声認識・生成AI | 記録時間42.2%短縮 | 2025年10月 |
| 兵庫医科大学病院 | 公表なし(大学病院) | 説明・ICの記録 | 音声認識・生成AI | 数値の公表なし | 2025年6月 |
| 今村総合病院 | 428床 | AI問診 | AI問診・AI-OCR・音声認識・生成AI | 転記9分→1分 | 2026年3月 |
| JCHO大阪病院 | 505床 | 予約変更の電話 | 音声AI | AI対応85%、電話時間は目標未達 | 2026年9月 |
| 富山西総合病院 | 公表なし | 規程・データ分析 | 生成AI | 数値の公表なし | 2026年5月 |
| 名古屋医療センター | 618床 | 会議の議事録 | 音声認識・生成AI | 総時間34%減、14日→8日 | 2026年9月 |
| 前橋赤十字病院 | 555床 | シフト・議事録 | 生成AI | シフト月12時間→1.5時間 | 2026年3月 |
病院でAIの導入が求められる背景
病院でAIの活用が広がっている背景には、医療の働き方をめぐる3つの事情があります。
医師の時間外労働に上限ができた
2024年4月から、勤務医の時間外・休日労働に上限が設けられました。原則となるA水準は年960時間で、地域医療の確保や研修のための特例(連携B・B・C-1・C-2水準)でも年1,860時間です。長時間働く医師には、面接指導や休息時間の確保も求められます(出典:厚生労働省『医師の働き方改革』概要)。
国はあわせて、タスク・シフト/シェアと業務の効率化を、医療機関の中で進める取り組みとして挙げています。医師を増やすだけでは追いつかないため、医師でなくてもできる仕事と、機械に任せられる仕事を切り分けることが求められています。
記録と文書の仕事が、診療の時間を圧迫している
厚生労働省の事例集は、電子カルテなどへの入力が多くの医療従事者にとって大きな負担になり、忙しい時間帯は後回しにされて、診療時間の外で入力する状況が生まれていると指摘しています(出典:厚生労働省『ICT活用による勤務環境改善の取組事例紹介』)。
本記事の事例でも、看護師が1日平均94分を記録の作業に使っていた病院や、看護サマリー1件に60分ほどかかっていた病院がありました。サマリー、紹介状、議事録、問診の転記と、病院には「書く仕事」が多くあります。
国がICTによる効率化を後押ししている
厚生労働省は令和7年度に、ICTで勤務環境を改善するモデル医療機関を選んで機器の導入費用を支援し、その結果を2026年3月に事例集にまとめました。音声入力、AI問診、AI文書作成などの分類ごとに、導入の手順や効果が載っています(出典:厚生労働省『ICT活用による勤務環境改善の取組事例紹介』(令和8年3月))。
同じ事例集は、ICTの導入が進まない理由として、今ある院内のシステムとの連携の難しさ、院内の調整の負担、効果が読めないことの3つを挙げています。本記事の事例は、この3つにどう向き合ったかという視点でも読めます。
病院・クリニックでAIができること
医療のAIは、大きく「診療のまわりの業務を効率化するAI」と「診断や治療を支えるAI」に分けられます。今回の18件はすべて前者で、使い道は次の4つに分けられます。後者についても最後に触れます。
医療文書の下書き(サマリー・紹介状・初診カルテ)
電子カルテや看護記録の内容から、退院サマリー、看護サマリー、診療情報提供書(紹介状)、主治医意見書などの下書きを生成AIが作ります。人がゼロから書かずに、確かめて直す作業に変わるのが特徴です。今回の事例で最も件数が多く、効果の数字もそろっている使い道です。
診察・看護の記録(音声入力)
診察やカンファレンス、患者への説明の会話をAIが文字にし、SOAP形式などに要約してカルテの下書きにします。医師がキーボードから離れて患者の顔を見て話せるようになる、という声が多い使い道です。
問診・電話予約の受付
患者がスマートフォンやタブレットでAI問診に答えると、その内容が電子カルテに取り込まれます。紙の問診票の転記やスキャンがなくなります。予約の変更の電話をAIが受ける使い方も出てきました。
会議の記録・事務・管理部門
議事録づくり、勤務シフトの作成、規程やマニュアルの改定、データ分析のプログラムづくりなど、患者の情報を扱わない業務です。一般の企業と同じ生成AIのツールを使えるため、病院の中でも始めやすい領域です。
画像診断・診断の支援(医療機器としてのAI)
CTや内視鏡の画像から病変の候補を示すAIなど、診断や治療の判断を支えるAIもあります。これらは医療機器として薬機法の承認を受けて使うもので、最終的な診断は医師が行います。本記事では、病院の業務の多くを占める文書・記録・事務の事例を中心に扱います。
医療文書(サマリー・紹介状・初診カルテ)のAI活用事例
退院サマリー、看護サマリー、紹介状、初診カルテなど、医療文書の下書きをAIで作る事例です。今回の事例で最も件数が多く、効果の数字もそろっています。
内田病院|入院の長い慢性期病院が、膨らんだカルテからサマリーと意見書の下書きをAIで作る
| 病院 | 医療法人大誠会 内田病院(群馬県沼田市) |
|---|---|
| 規模 | 公表なし |
| 業務 | 退院時看護サマリー、診療情報提供書、主治医意見書の作成、ICや回診の記録 |
| AIの種類・ツール | 生成AI(OPTiM AI ホスピタル/オプティム。外部のインターネットにつながずに動く) |
| 効果 | 数値の公表なし |
| 発表 | 2025年10月 |
| 出典 | オプティム プレスリリース(PDF) |
慢性期の医療を担う内田病院では、長期の療養や在宅への復帰の支援で患者と長く関わるため、カルテの情報が膨大になりがちです。看護サマリーや診療情報提供書の作成に時間がかかり、医師や看護師が診療とケアに使える時間が限られていました。
同院は、外部のインターネットにつながずに動く生成AIのサービスを入れ、退院時の看護サマリー、診療情報提供書、主治医意見書の下書きを、カルテや看護記録、リハビリの記録から作るようにしました。インフォームドコンセント(IC)や回診の会話を文字にして要約する機能も使っています。
時間の数字は公表されていませんが、文章の質が上がり、職員が表現に悩む時間が大きく減ったとしています。院長は、ICや回診で記録をとるスタッフの負担が「激減した」と話しています。
入院が長く記録の多い患者ほど、経過の要約をAIに任せたときの差が大きくなります。
蘇生会総合病院|290床の病院のリハビリ科が、サマリーの作成時間を23分から10分に
| 病院 | 医療法人社団蘇生会 蘇生会総合病院(京都府京都市) |
|---|---|
| 規模 | 290床(法人の従業員873名) |
| 業務 | リハビリテーションサマリーの作成 |
| AIの種類・ツール | 生成AI(ユビー生成AI/Ubie) |
| 効果 | 作成時間の中央値が23分から10分に(約57%削減)。年間約300件で約3,900分(約65時間)の削減に相当 |
| 発表 | 2026年6月 |
| 出典 | 医療法人社団蘇生会 プレスリリース(PR TIMES) |
同院のリハビリテーション科は、年に約300件のリハビリテーションサマリーを作っています。療法士が1件ずつ書いていたため、時間の負担に加え、書き方のばらつきや、急な作成依頼への心理的な負担が課題でした。Excelのマクロによる半自動化も試してきました。
2025年から、生成AIが下書きを作り、担当の療法士が確かめて直して仕上げる流れに切り替えました。導入前の16件と導入後の22件で、作成時間を比べています。
作成時間の中央値は23分から10分に縮みました。年間の件数に当てはめると、約65時間分にあたります。この結果は国際医学誌のCureusに掲載されました。
件数が多く、書く型が決まっている文書から始めると、効果を数字で確かめやすくなります。
織田病院|佐賀県の病院が、院内に置いた生成AIで退院時の看護サマリーを54.2%短縮
| 病院 | 社会医療法人 祐愛会織田病院(佐賀県鹿島市) |
|---|---|
| 規模 | 公表なし |
| 業務 | 退院時看護サマリーの作成 |
| AIの種類・ツール | 生成AI(OPTiM AI ホスピタル/オプティム。院内に置くオンプレミス型で、電子カルテ MI・RA・Is と連携) |
| 効果 | 1件あたりの作成時間が平均16.31分から、初回の利用で10.90分(33.2%削減)、3回目以降は7.47分(54.2%削減) |
| 発表 | 2024年11月 |
| 出典 | オプティム プレスリリース(PDF) |
看護師が退院時に書く看護サマリーや、医師の診療情報提供書の作成が大きな負担になっていました。インターネットにつなぐ生成AIのサービスでは、病院が求めるセキュリティの要件を満たすのに費用がかかるという事情もありました。
同院では2024年4月から10月にかけて、外部のインターネットにつながずに院内で動く生成AIを電子カルテと連携させ、看護サマリーの下書きを作る使い方を臨床の現場で試しました。
1件あたりの作成時間は、導入前の平均16.31分が、初回の利用で10.90分、3回目以降は7.47分になりました。使い慣れるほど短くなっています。
最初の数回の結果だけで判断せず、慣れたあとの数字まで測ると、AIの効果を正しくつかめます。
村上総合病院|県内で初めて医療向けの生成AIを入れ、手術記録の作成時間が約半分になった科も
| 病院 | 新潟県厚生農業協同組合連合会 村上総合病院(新潟県) |
|---|---|
| 規模 | 公表なし |
| 業務 | 議事録、退院サマリー、手術記録、栄養情報提供書、療養計画書の作成など |
| AIの種類・ツール | 生成AI(ユビーメディカルナビ 生成AI/Ubie) |
| 効果 | 一部の診療科で手術記録の作成時間が約半分に |
| 発表 | 2025年9月 |
| 出典 | 新潟県 新潟の未来図鑑withデジタル |
慢性的な人手不足のなかで、電子カルテへの入力や、退院サマリー、手術記録などの文書を作る手間が問題になっていました。導入にあたっては、病院長の前向きな姿勢が大きかったといいます。
面談や会議の音声から議事録を作るほか、入院中の経過を貼り付けて退院サマリーを作ったり、手術記録や栄養情報提供書、AI問診の内容から療養計画書を作ったりしています。
手術記録の作成時間が約半分になった診療科もあります。一方で、診療科ごとに医師の方針ややり方が違い、科ごとにプロンプトを作って試す必要があるため、病院全体への広がりはまだ途中です。毎月、各部署が集まって活用を進める会議を開いています。
診療科ごとに使い方が違う前提で、部署ごとにプロンプトを作って持ち寄る場を設けると、院内に広げやすくなります。
済生会二日市病院|看護サマリーの84%でAIを使い、関連する業務のコストを36%削減
| 病院 | 社会福祉法人恩賜財団済生会支部 福岡県済生会二日市病院(福岡県筑紫野市) |
|---|---|
| 規模 | 公表なし |
| 業務 | 退院時看護サマリー、診療情報提供書の作成 |
| AIの種類・ツール | 生成AI(OPTiM AI ホスピタル/オプティム。オンプレミス型) |
| 効果 | 12日以上入院した患者の退院時看護サマリーの84%でAIが作成を支援し、業務コストを36%削減。1件あたりの作成時間は平均22.8分から14.7分(2回目の利用) |
| 発表 | 2025年5月 |
| 出典 | オプティム プレスリリース(PDF) |
看護サマリーや診療情報提供書の作成に多くの時間が割かれ、医師や看護師が本来の診療やケアに使える時間が限られていました。
2024年12月から2025年3月にかけて、外部のインターネットにつながないオンプレミス型の生成AIを試しました。AIのサーバーを院内に置く作業や運用の支援は、インターネットイニシアティブと連携して整えています。
12日以上入院した患者の退院時看護サマリーの84%でAIが下書きを支援し、業務コストは36%減りました。1件あたりの作成時間は平均22.8分から14.7分になっています。
入院の日数などで対象の患者を区切ってから始めると、AIを使う範囲と効果を測りやすくなります。
九州がんセンター|医師事務作業補助者が紹介状から初診カルテの下書きを作り、1人あたり10分短縮
| 病院 | 独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター(福岡県福岡市) |
|---|---|
| 規模 | 公表なし |
| 業務 | 初診時カルテの下書き、退院サマリー、IC・カンファレンスの記録、会議の議事録 |
| AIの種類・ツール | 生成AI(ユビー生成AI/Ubie) |
| 効果 | 初診カルテの作成が1患者あたり平均22分から12分(月の新患約300件で月約50時間、年換算で約600時間以上の削減)。議事録づくりの労力を70%削減 |
| 発表 | 2026年7月 |
| 出典 | Ubie プレスリリース(PR TIMES) |
医師の働き方改革やタスク・シフト/シェアが求められるなか、がん専門病院として高度な医療を続けながら、記録の業務と事務作業の負担を減らすことが課題でした。
同院は独自の利用規程を作り、AIの出力は下書きにとどめ、最終確認は必ず医療職が行うと決めました。電子カルテの前日分のデータを毎日自動でつなぐ仕組みも院内で整えています。医師事務作業補助者は、紹介状から初診時のカルテの下書きを作っています。
初診の入力は1患者あたり平均22分から12分になり、月の新患約300件で約50時間を生み出しました。会議の議事録づくりの労力も70%減っています。国立病院機構で初めての、医療向け生成AIの活用事例です。
「AIの出力は下書き、最後は医療職が確かめる」と規程で先に決めておくと、安心して使える範囲を広げられます。
中部徳洲会病院|医師10名と2部署から始め、3か月で退院サマリーの作成時間を月91.7時間削減
| 病院 | 医療法人徳洲会 中部徳洲会病院 |
|---|---|
| 規模 | 408床(職員1,169名) |
| 業務 | 退院サマリー、看護サマリー、診療情報提供書の作成 |
| AIの種類・ツール | 生成AI(電子カルテ生成AIサービス/ソフトウェア・サービス) |
| 効果 | 導入3か月後、月あたりの作成時間が退院サマリーで約91.7時間(約41.0%)、看護サマリーで約77.1時間(約23.9%)、診療情報提供書で約163.6時間(約25.3%)減少 |
| 発表 | 2026年3月 |
| 出典 | 厚生労働省『ICT活用による勤務環境改善の取組事例紹介』(PDF・p.200〜) |
医師や看護師が、退院サマリーや紹介状、看護サマリーの作成に多くの時間を使い、時間外の勤務が当たり前になっていました。看護サマリーは1件に60分ほどかかることもありました。
同じグループの病院で先に入れた事例を見学して確かめたうえで、文書の案をAIが作るサービスを入れました。看護部は退院や転院の多い2部署、医師は紹介状を多く書く診療科から10名を選び、小さく始めています。
導入1か月目は看護サマリーの時間がかえって増えましたが、3か月後には、月あたりの作成時間が退院サマリーで約91.7時間、看護サマリーで約77.1時間、診療情報提供書で約163.6時間減りました。一方で、AIの文章を確かめずにそのまま写す例も見られ、職員への教育が課題に挙がっています。
小さく始めた部署の数字を1か月目と3か月目で比べると、慣れによる変化まで見えてきます。
藤田医科大学岡崎医療センター|看護サマリーを1件25分から15分にし、月152.5時間を減らす
| 病院 | 学校法人藤田学園 藤田医科大学岡崎医療センター |
|---|---|
| 規模 | 400床(職員841名) |
| 業務 | 退院サマリー、看護サマリーの作成 |
| AIの種類・ツール | 生成AI(GaiXer Medical Agent/メディカルAIソリューションズ) |
| 効果 | 看護サマリーが1件25分から15分(月約152.5時間・約40.0%減)。退院サマリーが1件10分から5分(月約29.2時間・約17.4%減)。いずれも運用開始1か月目 |
| 発表 | 2026年3月 |
| 出典 | 厚生労働省『ICT活用による勤務環境改善の取組事例紹介』(PDF・p.193〜) |
退院サマリーや看護サマリーの作成に、1件あたり30分から1時間以上かかることもありました。忙しい時期には後回しになり、時間外労働の一因になっていました。担当者によって書く内容や表現がばらつく問題もありました。
電子カルテの情報から、退院サマリーと看護サマリーの草案を自動で作るAIの文書作成システムを入れました。厚生労働省のモデル医療機関の事業の一つとして取り組んでいます。
運用開始1か月目で、看護サマリーは1件25分から15分に、退院サマリーは10分から5分になり、看護サマリーの作成時間は月に約152.5時間減りました。AIが下書きを作るので、文書が苦手な職員でも書き始めやすくなったといいます。
ゼロから書く負担が減ると、時間だけでなく、文書が苦手な職員の心理的な負担も軽くなります。
診察・看護の記録(音声入力)のAI活用事例
診察やカンファレンス、患者への説明の会話を、AIで文字にして記録の下書きにする事例です。
リノクリニック東銀座ほか|自由診療のクリニックが、会話からカルテを作るAIで記録を月24〜36時間分減らす
| 病院 | リノクリニック東銀座、La Vie clinic、のりこ皮ふ科クリニック(医療法人松本医院)ほか |
|---|---|
| 規模 | 公表なし(クリニック) |
| 業務 | 診療・カウンセリングのカルテ記録 |
| AIの種類・ツール | 音声認識・生成AI(medicalforce AI音声カルテ/アトミックソフトウェア) |
| 効果 | 積極的に使うクリニックで、カルテ記録の作業時間に換算して月24〜36時間相当、診療1件あたり6分を削減(録音の長さから見積もった値) |
| 発表 | 2026年8月 |
| 出典 | アトミックソフトウェア プレスリリース(PR TIMES) |
美容外科や皮膚科のクリニックでは、診療やカウンセリングの会話をカルテに残す作業が負担でした。別のAIで文字起こしと要約をして、カルテに貼り付ける手間をかけていた院長もいます。
電子カルテの画面のボタンから録音を始めると、会話からカルテの記録ができる機能を、2026年5月から先行して使っています。6月から7月20日までの約7週間で、録音された会話は累計220時間を超えました。
積極的に使うクリニックでは、カルテ記録の作業時間に換算して月24〜36時間相当、診療1件あたり6分が減りました。カウンセラーがタイピングしながら話を聞く必要がなくなり、患者の顔を見て話せるようになったという声も出ています。
電子カルテの画面からそのまま使えるかどうかが、忙しい診療の中で使い続けられるかを分けます。
生和会グループ|リハビリ病院が、1回目の検証で縮まなかった記録の時間を、2回目で約66%短縮
| 病院 | 彩都リハビリテーション病院(大阪府箕面市)、川西リハビリテーション病院(兵庫県川西市)ほか(生和会グループ) |
|---|---|
| 規模 | 公表なし |
| 業務 | リハビリの診療録、そのほかの書類の作成 |
| AIの種類・ツール | 音声認識・生成AI(medimo/株式会社medimo) |
| 効果 | 診療録の作成時間を約66%短縮、作成の負担感を約50%軽減。グループの院内業務で3か月に約2,000時間以上を削減 |
| 発表 | 2025年7月 |
| 出典 | 生和会グループ SDX研究所 プレスリリース(神戸新聞NEXT に転載) |
リハビリの病院では、セラピストの診療録づくりなど、患者に直接かかわらない業務が重くなっていました。
会話からAIが診療録を作る「medimo」を、臨床の現場で検証しました。1回目の検証では、記録の質と負担感はよくなったものの、作成時間は縮みませんでした。そこで、使う環境と運用の手順を見直し、ノウハウを共有する教育の仕組みを整えて2回目に臨みました。
2回目では、すべてのセラピストで時間が縮み、平均の削減率は約66%になりました。診療録以外の書類にも使い、3か月で約2,000時間以上を減らしています。この結果を受けて、関西の9つのリハビリ病院への導入を決めました。
1回目で効果が出なくても、使い方と教育を見直して測り直すと、結果が大きく変わることがあります。
相澤病院|退院前カンファレンスの記録を60分から10分にし、実施件数を月4件から最大20件へ
| 病院 | 社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院(長野県松本市) |
|---|---|
| 規模 | 公表なし |
| 業務 | 退院前カンファレンスの記録、診療録・看護記録、医療文書の作成、外国人患者への対応 |
| AIの種類・ツール | 音声認識・生成AI(ユビー生成AI/Ubie。業務用iPhoneのアプリ) |
| 効果 | 退院前カンファレンスの記録作成が60分から10分に。カンファレンスの実施が月4件から最大20件、退院時共同指導料の算定が月2件から最大14件に |
| 発表 | 2026年7月 |
| 出典 | Ubie プレスリリース(PR TIMES) |
2024年9月から、医師や看護師、外国人患者の受け入れを支える国際課のスタッフなど約80名で、生成AIの文章作成・要約と音声認識を試しました。
業務用のiPhoneから音声認識と文章作成を使えるアプリが、とくに入退院支援室の退院カンファレンスの記録で効果を上げたことから、院内全体への正式な導入を決めました。今は30種類以上の使い方が動いています。
退院前カンファレンスの記録は60分から10分になりました。記録の手間が減ったことで、カンファレンスの実施は月4件から最大20件に、退院時共同指導料の算定は月2件から最大14件に増えています。
記録の手間が減ると、時間が浮くだけでなく、これまで手が回らなかった業務を増やせます。
大阪国際がんセンター|1日平均94分の記録作業に、音声と生成AIを入れて看護カンファレンスの記録を42.2%短縮
| 病院 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター |
|---|---|
| 規模 | 公表なし |
| 業務 | 看護カンファレンス・電話サポートの記録、患者の日々の体調の問診 |
| AIの種類・ツール | 音声認識・生成AI(IBM Watson Speech to Text、IBM watsonx.ai/日本IBM) |
| 効果 | 看護カンファレンスの記録作業時間を42.2%短縮(手で書く記録との比較検証) |
| 発表 | 2025年10月 |
| 出典 | クラウド Watch(インプレス) |
看護部長によると、看護師は1人あたり1日平均94分、勤務時間の約20%を記録の作業に使っていました。
医薬基盤・健康・栄養研究所、日本IBMとの共同研究の成果として、看護カンファレンスと電話サポートの会話から記録の案を作る仕組みと、患者がAIのアバターと話して体調を入力する問診の仕組みを作り、2025年9月から実際の運用に入りました。どちらも院内のポリシーに沿って電子カルテとつないでいます。
看護カンファレンスでは、手で書く記録と比べて作業時間が42.2%縮みました。正確性や網羅性などの項目でも、AIの記録が高く評価されています。
記録の中でも、会話が長くまとめる量の多い場面から選ぶと、効果が出やすくなります。
兵庫医科大学病院|大学病院で初めて、説明の会話をAIで要約し、インターネットを通さずにカルテへ
| 病院 | 兵庫医科大学病院(兵庫県西宮市) |
|---|---|
| 規模 | 公表なし |
| 業務 | 病状説明・インフォームドコンセントの記録 |
| AIの種類・ツール | 音声認識・生成AI(medimo/株式会社medimo) |
| 効果 | 数値の公表なし |
| 発表 | 2025年6月 |
| 出典 | 兵庫医科大学病院 プレスリリース(神戸新聞NEXT に転載) |
医療が高度になり、患者への説明の時間も長くなる傾向にあります。説明の内容や患者の反応をカルテに残すには、診療のあとに思い出しながら書く必要があり、時間と気持ちの負担になっていました。
2025年6月、院内専用のスマートフォンで説明を録音し、文字に起こした内容を生成AIが約1,000字に要約するツールを入れました。要約は2次元バーコードに変え、電子カルテの端末で読み取って、インターネットを通さずに取り込みます。
効果の数字はまだ公表されていませんが、バーコードにしてから記録が終わるまでは1分ほどです。まず各診療科から1名ずつの医師が使い始め、年度内にすべての医師へ広げる予定です。
電子カルテをインターネットにつながなくても、バーコードのような受け渡しの工夫でAIの結果を取り込めます。
問診・電話予約のAI活用事例
AI問診や予約変更の電話など、患者とのやりとりの入り口にAIを入れた事例です。うまくいかなかった点まで公表されている事例も載せています。
今村総合病院|AI問診と紹介状の読み取りで、問診のカルテへの転記を1件9分から1分に
| 病院 | 公益財団法人慈愛会 今村総合病院 |
|---|---|
| 規模 | 428床(職員1,101名) |
| 業務 | 外来の問診、紹介状の取り込み、診療録の下書き |
| AIの種類・ツール | AI問診・AI-OCR・音声認識・生成AI(今日のAIカルテ360/プレシジョン) |
| 効果 | 1件あたり、患者への問診記載の案内が17分から7分、問診内容の電子カルテへの転記・取り込みが9分から1分に。導入1か月目で月約70.7時間と約47.5時間を削減 |
| 発表 | 2026年3月 |
| 出典 | 厚生労働省『ICT活用による勤務環境改善の取組事例紹介』(PDF・p.160〜) |
紙の問診票を使い、総合受付と各診療科の2段階で問診をしていました。設問の重複や回答の漏れがあり、看護師が追加で聞き取ることもあって、電子カルテへの転記やスキャンまで含めると1件に平均20分かかっていました。他院からの紹介状も手で入力していました。
患者が来院前や来院時にスマートフォンやタブレットでAI問診に答え、紹介状はタブレットで読み取って自動でデータにする形に変えました。診察中の会話は文字にされ、生成AIが問診や紹介状の内容とあわせて診療録の下書きを作ります。
問診の案内は1件17分から7分に、電子カルテへの転記・取り込みは9分から1分になりました。導入1か月目で、それぞれ月に約70.7時間、約47.5時間が減っています。経験の差による聞き取りのムラもなくなったといいます。
問診から記録までを一続きでつなぐと、転記という作業そのものをなくせます。
JCHO大阪病院|予約変更の電話の85%をAIが受けるようになっても、看護師の電話時間は減らなかった
| 病院 | 独立行政法人地域医療機能推進機構 大阪病院(JCHO大阪病院) |
|---|---|
| 規模 | 505床 |
| 業務 | 受診予約の変更の電話受付 |
| AIの種類・ツール | 音声AI(AI電話/Dr.JOY) |
| 効果 | 予約センターでのAI電話の対応比率が40%(導入初期)から85%に。電話対応を苦痛と答えた看護師は94%から80%に。外来看護師の予約関連の電話時間は1日430分から507分(目標301分)で、目標に届かず |
| 発表 | 2026年9月 |
| 出典 | 厚生労働省 看護業務効率化の取組事例(PDF) |
外来の看護師が、1日の業務時間のうち約6時間を電話の対応に使い、患者へのケアの時間が圧迫されていました。回線が混み合って電話がつながらず、予約の変更をめぐる苦情も続いていました。
受診予約の変更の電話を、AIの電話で受ける流れに変えました。これをきっかけに、診療科ごとにばらばらだった予約変更のルールもそろえ、変更を受け付けられる時間帯も大きく広げています。
予約センターでAIが対応する比率は、導入初期の40%から85%に上がりました。一方で、AIで変えた予約を確かめる患者の電話が既存の窓口に入るなどして、外来看護師の予約関連の電話時間は1日430分から507分に増え、目標には届いていません。音声の聞き取りの設定を見直しながら、改善を続けています。
患者の不安から確認の電話が増えることもあるため、AIへの切り替えと同時に、患者への案内の仕方まで設計しておく必要があります。
会議・事務・管理部門のAI活用事例
議事録、勤務シフト、規程づくり、データ分析など、患者の情報を扱わない業務でAIを使う事例です。
富山西総合病院|事務長が管理部門にClaudeを入れ、後回しの規程づくりとデータ分析を片づける
| 病院 | 富山西総合病院(医療法人社団藤聖会) |
|---|---|
| 規模 | 公表なし |
| 業務 | 規則・マニュアル・帳票の改定、DPCデータの分析 |
| AIの種類・ツール | 生成AI(Claude) |
| 効果 | 数値の公表なし |
| 発表 | 2026年5月 |
| 出典 | Web医事新報【識者の眼】(富山西総合病院 事務長の寄稿) |
管理部門には、規則やマニュアルの改定、帳票の修正など、作業の時間がとれずに後回しになっていた仕事がたまっていました。
2026年、事務部門の管理職向けに生成AIの「Claude」を入れました。文書の作成に加え、DPCデータの分析では、AIにはプログラムだけを作らせ、データは自分のパソコンに置いたまま実行する「ツールはOK、データはローカルに」という方針で使っています。
後回しにしていた文書が短い時間で、相当の精度で作れるようになり、分析のコードを書く時間も縮みました。一方で、院内で合意をとる手間は変わらず、AIの出力が正しいかを人が見極めることが欠かせないと述べています。
患者や経営の情報を入れずに「作り方」だけをAIに頼む使い方なら、管理部門でもすぐに始められます。
名古屋医療センター|医療安全の会議録を音声認識と生成AIで作り、総時間を34%削減
| 病院 | 独立行政法人国立病院機構 名古屋医療センター |
|---|---|
| 規模 | 618床 |
| 業務 | 医療安全に関する会議の議事録 |
| AIの種類・ツール | 音声認識・生成AI(ScribeAssist/アドバンスト・メディア) |
| 効果 | 会議録づくりの総時間が834分から553分(34%削減)。完成までの日数が14日から8日に。費用は初期約298万円・年間約94万円、年間の効果額は約66万円 |
| 発表 | 2026年9月 |
| 出典 | 厚生労働省 看護業務効率化の取組事例(PDF) |
医療安全に関する会議の数が倍に増える一方、議事録はICレコーダーの音声を手で書き起こしていました。専門性が高い内容のため、医療安全管理室の看護師が確認に多くの時間を使っていました。
会議の文字起こしと要約を自動で行うシステムを入れました。発言が重なると精度が落ちるとわかったため、冒頭で名乗る、発言を遮らない、司会が議題をはっきり示すといった、会議の進め方のルールも作っています。
会議録づくりの総時間は834分から553分に減り、完成までの日数も14日から8日に縮みました。一方で、要約が簡潔すぎて加筆が必要になり、確認と修正の時間は増えました。責任者の承認の工程が、新たな詰まりになっているとも分析しています。
AIの精度は会議の進め方にも左右されるため、道具と一緒に会議のルールを変えると効果が上がります。
前橋赤十字病院|職員がノーコードで生成AIのアプリを作り、勤務シフトづくりを月12時間から1.5時間に
| 病院 | 日本赤十字社 前橋赤十字病院 |
|---|---|
| 規模 | 555床(職員1,513名) |
| 業務 | 勤務シフトの作成、議事録の作成、院内の資料の検索(医療情報を含まない業務) |
| AIの種類・ツール | 生成AI(AWSのクラウドとノーコードツール「Dify」で作ったアプリ/オープン) |
| 効果 | 勤務シフトの作成が月12時間から1.5時間(約87.5%減)、議事録の作成が月7.0時間から1.2時間(約82.9%減)。いずれも運用開始1か月目 |
| 発表 | 2026年3月 |
| 出典 | 厚生労働省『ICT活用による勤務環境改善の取組事例紹介』(PDF・p.183〜) |
複雑な条件を考える勤務シフトは、手持ちのシフト作成ソフトでは作れず、各部門が調整に多くの時間を使っていました。院内には会議体が多く、施設基準を保つための議事録づくりも重い仕事でした。
医療文書には品質を確かめた製品を使う一方、医療情報を含まない業務では、変化の速い技術を柔軟に選べる院内の基盤を作ろうと考えました。AWSのクラウドとノーコードツールの「Dify」を組み合わせ、管理栄養士がシフト作成の、総務課が議事録のアプリを作っています。
運用開始1か月目で、勤務シフトの作成は月12時間から1.5時間に、議事録の作成は月7.0時間から1.2時間になりました。規程やマニュアルを探すアプリも準備しています。職員が自分で業務改善の道具を作れる環境ができたことも、成果に挙げています。
医療文書は検証済みの製品、それ以外は院内で作る道具と、扱う情報の重さで使い分けると、安全と柔軟さを両立できます。
病院がAIを導入するメリット
今回の18件から見えるメリットは、時間の削減だけではありません。
文書と記録の時間が減る
藤田医科大学岡崎医療センターでは看護サマリーの作成時間が月に約152.5時間、中部徳洲会病院では診療情報提供書の作成時間が月に約163.6時間減りました。1件あたりの数分の差でも、件数の多い文書では月に百時間を超える差になります。
患者と向き合う時間が戻る
音声で記録する仕組みを入れたクリニックでは、タイピングしながら話を聞く必要がなくなり、患者の顔を見て話せるようになったといいます。内田病院でも、ICや回診で記録に気を取られず、話し合いに集中できるようになりました。
記録の質がそろう
大阪国際がんセンターでは、正確性や網羅性などの項目でAIの記録が高く評価されました。今村総合病院では、経験の差による問診の聞き取りのムラがなくなっています。書く人によるばらつきが減るのも、AIの効果の1つです。
手が回らなかった業務を増やせる
相澤病院では、記録の時間が減ったことで退院前カンファレンスの実施が月4件から最大20件に増え、退院時共同指導料の算定も増えました。浮いた時間を何に使うかまで決めておくと、AIの効果が病院の経営にもつながります。
中小病院・クリニックが参考にしたい共通点
今回の18件には、大学病院から自由診療のクリニックまでが含まれます。規模にかかわらず、うまく進めた病院には共通する進め方が4つあります。
件数の多い文書を1つ選んで始めている
蘇生会総合病院は年約300件のリハビリテーションサマリー、済生会二日市病院は12日以上入院した患者の看護サマリーと、対象をはっきり絞っています。中部徳洲会病院も、2部署と医師10名から始めました。件数が多く型の決まった文書を1つ選ぶと、効果を数字で示しやすく、院内の理解も得やすくなります。
患者の情報を院内で完結させている
織田病院や済生会二日市病院、内田病院は、インターネットにつながずに院内で動く生成AIを選びました。兵庫医科大学病院は、要約をバーコードにして電子カルテに取り込んでいます。富山西総合病院は、データを渡さずにプログラムだけをAIに作らせています。情報の扱いを先に決めておくと、院内の合意がとりやすくなります。
1回で判断せずに測り直している
織田病院では、初回の利用で33.2%だった削減が、3回目以降は54.2%になりました。生和会グループは、1回目の検証で時間が縮まなかったあと、運用と教育を見直して約66%の短縮にたどり着いています。最初の数字だけで見切らないことが大切です。
現場が自分たちで使い方を作っている
村上総合病院は診療科ごとにプロンプトを作り、毎月の会議で活用を広げています。前橋赤十字病院では、管理栄養士や総務課の職員がノーコードの道具でアプリを作りました。規模の小さい病院でも、まず1人が使いこなし、その使い方を院内に広げる形なら始められます。
導入にかかる費用と期間の目安
病院のAIの費用は、汎用のツールを使うのか、電子カルテと連携する医療向けの製品を入れるのかで大きく変わります。今回の事例に出てきた使い方ごとに、目安をまとめました。
使い方ごとの費用の目安
| 使い方 | 主な形 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 管理部門で汎用の生成AIを使う | 法人向けの生成AIのサービスを契約する | 1人あたり月数千円程度から |
| 会議の議事録 | 音声認識と要約のソフトウェアに、マイクなどの機器を足す | 名古屋医療センターの例では、初期約298万円、年間約94万円 |
| 医療文書の下書き・音声でのカルテ記録 | 電子カルテと連携する医療向けの製品を入れる | 製品と連携の範囲、院内にサーバーを置くかどうかで大きく変わる。見積もりで範囲をそろえて比べる |
| AI問診・AI電話 | 患者が使う問診や電話のサービスを、電子カルテや予約の仕組みとつなぐ | 外来の規模とつなぐ仕組みの数で変わる |
| 院内でアプリを作る | クラウドの基盤とノーコードの道具で、業務ごとのアプリを作る | 作るアプリの数と基盤の範囲で変わる |
見積もりの内訳や比べ方は、AI導入の費用相場とAI開発・PoCの費用相場で詳しく説明しています。
事例に見る、試し始めてから本運用までの期間
今回の事例のうち、試した時期とその後がわかるものを並べました。多くの病院が、数か月の試行や一部の部署での利用を経てから、院内全体へ広げています。
| 病院 | 試し始め | その後 |
|---|---|---|
| 織田病院 | 2024年4月〜10月に臨床の現場で利用 | 2024年11月に結果を公表(看護サマリー54.2%短縮) |
| 済生会二日市病院 | 2024年12月〜2025年3月に試行 | 2025年5月に導入を公表 |
| 相澤病院 | 2024年9月に約80名で試行 | 2026年7月に院内全体へ正式導入 |
| 兵庫医科大学病院 | 2025年6月に各診療科の医師1名ずつで開始 | 年度内にすべての医師へ広げる予定 |
| 中部徳洲会病院 | 2部署と医師10名で開始(導入1か月後の2025年12月に測定) | 導入3か月後の2026年2月に効果を確かめ、全病棟へ順に広げる方針 |
厚生労働省の事例集では、モデル医療機関が出した計画をもとに、導入までの期間の参考値を載せています。4つの病院の例で、AI文書作成は1か月から7か月、音声入力は6か月から8.5か月、AI問診は3か月から12.5か月ほどでした(出典:厚生労働省『ICT活用による勤務環境改善の取組事例紹介』)。
病院・クリニックのAI導入で使える主な制度
病院のAI導入には、医療機関の働き方改革を支える制度と、中小企業向けの補助金の両方が使える場合があります。主なものは次の3つです(2026年10月時点)。
| 制度 | 内容 | 主な条件 |
|---|---|---|
| 地域医療介護総合確保基金(区分Ⅵ 勤務医の労働時間短縮に向けた体制の整備) | 医師労働時間短縮計画に基づく取り組みの経費を、都道府県を通じて補助する。労働時間の短縮に役立つ機器の購入費も対象。令和8年度の予算額は95億円 | 医師の労働時間短縮計画を作って取り組む医療機関など |
| 医師等の労働時間短縮に資する機器等の特別償却制度(働き方税制) | 医療従事者の労働時間の短縮に役立つ30万円以上の機器・ソフトウェアについて、取得価格の15%を初年度に上乗せして償却できる。AIによる音声認識ソフトウェアも例に挙がっている | 都道府県の医療勤務環境改善支援センターの助言を受けて計画を作ること。令和7年4月から令和9年3月までに使い始めたもの。大学病院・公立病院・社会医療法人などは対象外 |
| デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金) | AIの機能を持つソフトウェアやクラウドのサービスの導入費を補助する。通常枠は5万円以上450万円以下、補助率1/2以内(条件を満たすと2/3以内) | 医療法人は常時使用する従業員300人以下 |
特別償却は、税金のかかる黒字の法人や個人が対象です。どの制度も、申請の時期や対象の機器は年度や回ごとに変わるため、申請の前に公式の資料で最新の条件を確かめてください。補助金の全体像は、AI導入に使える補助金でまとめています。
AIに任せられないこと・導入の注意点
最後の確認は医療職が行う
九州がんセンターは、AIの出力は下書きで、最終確認は必ず医療職が行うと規程で決めました。中部徳洲会病院では、AIの文章を確かめずにそのまま写す例が見つかり、職員への教育を課題に挙げています。医療の文書の責任は人が持つ前提で、確かめて直す手順を業務の流れに組み込むことが欠かせません。
患者の情報を外に出さない
厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」は、2026年6月に第7.0版に改められました。改定の資料では、二要素認証が令和9年度から遵守事項になると示されています(出典:厚生労働省『医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版』)。電子カルテとつなぐAIを入れるときは、院内で完結するのか、クラウドを使うのか、提供会社がこのガイドラインや経済産業省・総務省のガイドラインに沿っているのかを確かめましょう。汎用の生成AIを使う場合も、入力した情報が学習に使われない法人向けの契約を選び、患者の情報を入れないといったルールを先に決めておきます。
かえって仕事が増える場面もある
JCHO大阪病院では、AIで予約を変えた患者が確かめの電話をかけるなどして、看護師の予約関連の電話時間は増えました。名古屋医療センターでは、議事録の初稿は速くなった一方で、確認と修正の時間が増えています。AIに任せる工程の前後で、人の仕事がどう変わるかまで見ておく必要があります。
院内の合意づくりは省けない
富山西総合病院の事務長は、文書のたたき台は速く作れても、院内で合意をとって運用に乗せる手間は変わらないと述べています。村上総合病院でも、診療科ごとの方針の違いが全院への広がりを遅らせています。導入の前に、誰が決めて、誰が使い方を広げるのかを決めておきましょう。
病院でAIを導入する進め方
今回の事例に共通する流れを、5つのステップにまとめました。
負担の大きい文書や記録を1つ選ぶ
サマリー、紹介状、議事録、問診の転記など、件数が多く時間のかかる業務を1つ選びます。今1件に何分かかり、月に何件あるのかを測っておきます。
情報の扱いを決める
院内で完結させるのか、クラウドを使うのか、AIに入れてよい情報はどこまでかを決めます。AIの出力は下書きとし、最後は医療職が確かめるといった院内の規程もこの段階で作ります。
部署や人を絞って試す
協力的な診療科や病棟、数名の医師から始めます。電子カルテとの連携や、現場の流れに無理なく入るかを確かめます。
1か月目と3か月目で測り、運用を直す
最初に測った時間と比べます。慣れると数字は変わるため、1回で判断せず、使い方や教育を見直しながら測り直します。
院内に広げ、浮いた時間の使い道を決める
効果が確かめられたら、ほかの部署や文書に広げます。浮いた時間を患者への説明やカンファレンスなど、どの業務に回すかも決めておきます。
よくある質問
Q. 小さなクリニックでもAIを導入できますか?
Q. 病院の業務でChatGPTやClaudeを使ってもよいですか?
Q. AIが作った文書に誤りがあった場合、責任は誰にありますか?
Q. 試し始めてから本運用までどのくらいかかりますか?
Q. 診断をするAIも同じように導入できますか?
Q. AIを入れても効果が出ないことはありますか?
まとめ
医療以外の業界の事例は製造業のAI活用事例で、AI導入の全体の流れは中小企業のAI導入でまとめています。あわせてご覧ください。
出典一覧
本記事の事例と数字の出典です。事例は発表の新しい順に並べています。
事例の出典
- JCHO大阪病院(2026年9月):厚生労働省 看護業務効率化の取組事例(PDF)
- 名古屋医療センター(2026年9月):厚生労働省 看護業務効率化の取組事例(PDF)
- リノクリニック東銀座ほか(2026年8月):アトミックソフトウェア プレスリリース(PR TIMES)
- 九州がんセンター(2026年7月):Ubie プレスリリース(PR TIMES)
- 相澤病院(2026年7月):Ubie プレスリリース(PR TIMES)
- 蘇生会総合病院(2026年6月):医療法人社団蘇生会 プレスリリース(PR TIMES)
- 富山西総合病院(2026年5月):Web医事新報【識者の眼】(富山西総合病院 事務長の寄稿)
- 中部徳洲会病院(2026年3月):厚生労働省『ICT活用による勤務環境改善の取組事例紹介』(PDF・p.200〜)
- 藤田医科大学岡崎医療センター(2026年3月):厚生労働省『ICT活用による勤務環境改善の取組事例紹介』(PDF・p.193〜)
- 今村総合病院(2026年3月):厚生労働省『ICT活用による勤務環境改善の取組事例紹介』(PDF・p.160〜)
- 前橋赤十字病院(2026年3月):厚生労働省『ICT活用による勤務環境改善の取組事例紹介』(PDF・p.183〜)
- 内田病院(2025年10月):オプティム プレスリリース(PDF)
- 大阪国際がんセンター(2025年10月):クラウド Watch(インプレス)
- 村上総合病院(2025年9月):新潟県 新潟の未来図鑑withデジタル
- 生和会グループ(2025年7月):生和会グループ SDX研究所 プレスリリース(神戸新聞NEXT に転載)
- 兵庫医科大学病院(2025年6月):兵庫医科大学病院 プレスリリース(神戸新聞NEXT に転載)
- 済生会二日市病院(2025年5月):オプティム プレスリリース(PDF)
- 織田病院(2024年11月):オプティム プレスリリース(PDF)
公的なデータの出典
- 厚生労働省『ICT活用による勤務環境改善の取組事例紹介』(2026年3月)
- 厚生労働省「医師の働き方改革」
- 厚生労働省『医師の働き方改革』概要(PDF)
- 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版」(2026年6月)
- 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン改定について」(2026年5月)
- 厚生労働省「勤務医の労働時間短縮に向けた体制の整備に関する事業」(地域医療介護総合確保基金 区分Ⅵ)
- 厚生労働省「医師及びその他の医療従事者の労働時間短縮に資する機器等の特別償却制度(働き方税制)」
- デジタル化・AI導入補助金 公式サイト
- デジタル化・AI導入補助金2026 公募要領(通常枠)
