AIを使った仕組みを開発会社に頼みたいけれど、いくら用意すればよいのかがわからない。PoC(実証実験)だけで数百万円と言われたり、会社によって見積もりが倍以上違ったりして、どれが妥当なのか判断できない。そんな悩みを持つ担当者は少なくありません。中小機構の調査でも、中小企業の79.8%が「適切なベンダーや製品を選定する情報」が足りないと答え、AIの導入を進めるために必要な公的支援として「試行導入などの機会」を挙げた企業も61.3%にのぼりました(出典:中小機構『中小企業のAI等の利活用に係る実態調査』2026年3月)。

そこで本記事では、AIシステム開発を外注するときの費用相場を、企画・PoC・本開発・運用保守のフェーズ別、小規模から大規模までの規模別、生成AI・予測・画像認識・AIエージェントなどの開発の種類別に整理します。あわせて、費用が決まる仕組み、見積もりの内訳と人月の考え方、生成AIのAPI利用料、見積書の読み方、費用を抑える方法、そして発注前に自社で概算と回収までの月数を出す手順と、PoCのあとに続けるか止めるかを決める表まで、開発会社に相談する前に知っておきたいことをまとめました。

この記事でわかること

  • フェーズ別・規模別の費用の目安
  • PoCの費用の内訳と期間の考え方
  • 見積書の読み方と継続の判断基準
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AIシステム開発の費用相場|フェーズ別・規模別の早見表

AIシステム開発の費用相場|フェーズ別・規模別の早見表

AIシステム開発は、いきなり完成品を作るのではなく、企画・PoC・本開発・運用と段階を踏んで進めるのが一般的です。費用もフェーズごとに性質が変わるため、まずは全体の早見表で目安をつかんでおきましょう。

フェーズ別の費用と期間の早見表

外部の開発会社に頼む場合の、フェーズごとの費用と期間の目安は次のとおりです。

フェーズ 費用の目安 期間の目安 手元に残るもの
企画・要件定義 40万〜200万円 2週間〜2か月 要件定義書、検証の計画
PoC(実証実験) 50万〜300万円 1〜3か月 検証の報告書、試作のモデルや画面
試作(MVP) 200万〜600万円 2〜4か月 一部の部署で実際に使える試作品
本開発 300万〜2,000万円 3〜6か月以上 本番で使うシステム
運用・保守 月5万〜200万円 稼働中ずっと 監視・改善・再学習

金額は一般的な目安です。データの状態、つなぐシステムの数、求める精度によって大きく変わり、大規模な本開発では3,000万円を超えることもあります。試作(MVP)は、PoCのあとに挟む場合と、省いて本開発に進む場合があります。

規模別の費用の早見表

同じフェーズを踏んでも、作るものの規模で総額は大きく変わります。企画から本開発までの初期の費用を、規模ごとにまとめると次のようになります。

規模 初期の費用の目安 期間の目安 運用(月額) よくある内容
小規模 100万〜500万円 2〜4か月 数万〜20万円 既存の生成AIを1つの業務に組み込む。要約、下書き、議事録など。つなぐシステムは0〜1
中規模 500万〜1,500万円 4〜8か月 20万〜50万円 社内文書の検索や需要の予測。部署をまたいで使い、2〜3のシステムとつなぐ
大規模 1,500万〜3,000万円以上 8か月〜 50万〜200万円 基幹システムとの連携、全社への展開、外観検査やAIエージェントなど高い精度と安全の作り込みが必要なもの

初期の費用には、企画・要件定義、PoC、本開発を含みます。規模を決めるのは金額ではなく、対象の業務の数、つなぐシステムの数、使う人数、求める精度の4つです。最初から中規模や大規模を狙わず、小規模の範囲で1つの業務を動かしてから広げるほうが、総額は抑えやすくなります。作るものの種類ごとの金額は 開発の種類別の費用相場 で見てください。

PoCの費用より、本番までの総額で考える

PoCの費用は、本番の運用までを含めた総額から見るとごく一部です。たとえば、社内の問い合わせに答えるAIを作る場合、企画50万円・PoC150万円・本開発600万円・運用費月20万円とすると、初年度だけで1,040万円になります(金額は計算の例です)。

PoCが安く済んでも、本番に進むには数倍の予算が必要になるのが普通です。PoCの見積もりを取る段階で、本番まで進んだ場合の総額の幅も聞いておくことが大切です。先に総額の見通しが立てば、そもそもPoCに進むべきかどうかも判断しやすくなります。

AI開発費用とAI導入費用の違い

AI開発費用は、AIを使ったシステムを作るための費用です。一方のAI導入費用は、既存のAIツールの利用料や社員への研修なども含めた、AIを使い始めるまでの費用全体を指します。本記事では、AIシステム開発を外部に頼む場合の費用に絞って解説します。ChatGPTのような既存のツールを契約して使う場合の費用や、導入の形態ごとの比べ方は AI導入の費用相場 で詳しくまとめています。

AIシステム開発の費用は何で決まるのか

AIシステム開発の費用は何で決まるのか

相場の数字を見る前に、AIシステム開発の費用がどんな仕組みで決まるのかを押さえておくと、見積もりの金額の差に振り回されにくくなります。ここでは、ふつうのシステム開発との違い、費用を左右する要素、作り方ごとのお金のかかり方を順に見ていきます。

ふつうのシステム開発と違う3つの点

1つめは、データの準備に大きな手間がかかることです。AIはデータを読んで動くため、データを集めて形をそろえ、正解の例を用意する作業が、画面や処理を作る作業と同じくらい重くなることがあります。

2つめは、精度を先に約束しにくいことです。実際のデータで試すまで、どこまで正しく答えられるかはわかりません。そのため、いきなり本開発の見積もりを出すのではなく、PoCで確かめてから次の段階の金額を決める進め方がとられます。くわしくは 精度の約束と完成の条件 で触れます。

3つめは、作り終えても手入れが続くことです。業務やデータが変わると精度が落ちるため、指示文の見直しや再学習の費用が、稼働しているあいだずっとかかります。

費用を左右する4つの要素

同じ「問い合わせに答えるAI」でも、見積もりが数倍違うことは珍しくありません。差を生むのは、主に次の4つです。

要素 費用が上がりやすい条件 費用を抑えやすい条件
開発の範囲 複数の部署で使う、画面や権限の作り込みが多い 1つの業務、1つの部署に絞る
データの状態 紙や画像のPDFが多い、保管場所がばらばら、正解の例がない 表計算やデータベースにまとまっている
外部との連携 基幹システムや複数のクラウドとつなぐ、リアルタイムで同期する つなぐ先が1つ、または手作業の受け渡しで足りる
運用の求め 高い精度、24時間の稼働、細かい操作の記録が必要 人が最終確認をする前提で使う

相場の幅が大きいのは、この4つの条件が案件ごとにまったく違うためです。自社の案件が4つの要素それぞれでどちら寄りかを把握しておくと、相場のどのあたりに入りそうかの見当がつきます。

受託開発・SaaS・生成AI活用で変わるお金のかかり方

AIを業務に取り入れる方法によって、お金が「最初にまとめてかかる」のか「毎月かかり続ける」のかが変わります。

方法 最初にかかる費用 毎月かかる費用 費用が増えるきっかけ
受託開発
開発会社に専用のシステムを作ってもらう
大きい(人件費が中心) 保守費、クラウドの利用料 仕様の追加、つなぐ先の増加
SaaS
できあがったAIツールを契約する
小さい(初期設定が中心) 1人あたりの利用料 使う人数の増加
生成AI活用
既存の生成AIをAPIで組み込む
中くらい(連携の開発が中心) APIとクラウドの利用料、保守費 呼び出す回数と文章の量の増加

受託開発は最初の負担が大きい代わりに、利用者が増えても費用は増えにくい形です。SaaSと生成AI活用は始めやすい一方で、使うほど毎月の費用が増えます。どの方法が安いかは、使う人数と期間で変わるため、2〜3年の総額で比べるのが確実です。

【フェーズ別】AIシステム開発の費用相場と中身

【フェーズ別】AIシステム開発の費用相場と中身

AIの開発は、作ってみないと精度がわからない、データによって結果が変わる、といった性質があります。経済産業省はこうした特徴をふまえ、段階ごとに確かめながら進める「探索的段階型」の開発方式を示しています。

段階 目的 主な成果物
アセスメント 一定量のデータで、学習済みモデルを作れる見込みがあるかを確かめる レポートなど
PoC 求める精度のモデルを作れるかを確かめる レポート、パイロット版の学習済みモデルなど
開発 学習済みモデルを作る 学習済みモデルなど
追加学習 納品されたモデルに、追加のデータで学習させる 再利用モデルなど

出典:経済産業省『AI・データの利用に関する契約ガイドラインの概要』2021年1月。実際の見積もりでは、これを企画・PoC・試作・本開発・運用保守の5つに分けて考えることが多いので、ここからはその分け方で費用の中身を見ていきます。

企画・要件定義|40万〜200万円

どの業務のどんな課題をAIで解くのか、使えるデータはあるのか、何をもって成功とするのかを決めるフェーズです。費用は40万〜200万円程度が目安で、プロジェクトの責任者とAIエンジニアが0.5〜2人月ほど関わるのが一般的です。

費用の中では小さなフェーズですが、ここで課題の選び方を誤ると、後のPoCや本開発の費用がまるごと無駄になります。「AIで解くべき課題かどうか」をこの段階で見極めることが、いちばん安くつく節約です。

PoC(実証実験)|50万〜300万円

小さく作って、実際のデータで求める精度が出るか、現場で使えるかを確かめるフェーズです。費用は50万〜300万円程度、期間は1〜3か月が目安です。既存の生成AIをAPIで呼び出して1つの業務だけを試すなら数十万円から、独自のデータで学習させる検証や、社内のシステムとつなぐ検証を含めると数百万円になります。

PoCの費用は次の章で詳しく見ていきます。PoCの進め方や、合格・不合格の決め方は AIのPoCとは で解説しています。

試作(MVP)|200万〜600万円

PoCで見込みが立ったあと、限られた部署や人数で実際の業務に使ってもらうための試作品を作るフェーズです。画面や操作の流れまで作るため、費用は200万〜600万円程度、期間は2〜4か月が目安です。

注意したいのは、デモとして動くものと、業務で毎日使えるものの間には大きな差があることです。権限の管理、ログの記録、エラーが起きたときの対応などは試作では省かれることが多く、本開発で改めて費用がかかります。

本開発|300万〜2,000万円

本番で使うシステムを作るフェーズで、AIシステム開発の費用の大部分を占めます。費用は300万〜2,000万円程度が目安で、基幹システムとの連携や複数の部署への展開を含む大規模な開発では3,000万円を超えることもあります。

費用を左右するのは、つなぐシステムの数、利用する人数、セキュリティの要件、求める精度の4つです。PoCで作ったものをそのまま本番に使える場合もあれば、作り直しになる場合もあるため、見積もりの前に確かめておきましょう。

運用・保守と追加学習|月5万〜200万円

稼働したあとも、システムの監視、不具合への対応、精度の見直しに費用がかかります。月5万〜200万円程度と幅が大きく、年間の保守費は初期の開発費の10〜20%程度を見ておくとよいでしょう。

AIは作って終わりではありません。業務の変化やデータの変化で精度が落ちるため、新しいデータで学び直させる追加学習や、生成AIの指示文(プロンプト)の見直しが定期的に必要になります。生成AIのAPIやクラウドの利用料は、使う量に応じて別にかかります。

AI PoCの費用相場を詳しく見る

AI PoCの費用相場を詳しく見る

PoCは、AIシステム開発の中でも最初にまとまった費用がかかるフェーズです。規模、進め方、費用の中身、期間の4つの面から、相場を詳しく見ていきます。

規模別のPoCの費用

規模 費用の目安 期間 主な例
小規模 50万〜200万円 1〜2か月 既存の生成AIで1つの業務を試す。データは手作業で用意する
中規模 200万〜500万円 2〜3か月 画面つきの試作、社内の1〜2システムとの連携、独自データでの学習
大規模 500万円〜 3か月〜 基幹業務、複数の部署、高い精度が求められる検査など

多くのPoCは小規模から中規模の範囲に入ります。大規模なPoCになりそうなときは、検証する範囲を分けて、小さなPoCを順番に行えないかを考えてみましょう。

自社で進める場合と外部に頼む場合

PoCは、何をどう確かめるかを決める「計画」と、実際に作って確かめる「実証」に分けられます。どちらを自社で担い、どちらを外部に頼むかで費用が変わります。

段階 自社で進める場合 外部に頼む場合
計画
目的・検証の方法・合格の基準を決める
30万〜100万円程度(社内の人件費) 40万〜200万円程度
実証
試作を作り、データで確かめる
50万〜200万円程度(社内の人件費と実費) 50万〜300万円程度

自社で進めると支払いは減りますが、AIに詳しい社員の時間が数か月単位で取られます。社内に経験者がいない場合は、計画だけを外部と一緒に作り、データの準備や現場での評価を自社で担う分け方もあります。

PoCの費用を形づくる4つの項目

項目 主な中身 費用の性質
人件費 検証の設計、試作、結果の分析と報告 PoCの費用の大半。人数×期間で決まる
データの整備 データを集める、形をそろえる、個人情報を外す、正解のラベルを付ける データの量と状態で大きく変わる
API・クラウドの利用料 生成AIのAPI、検証用のサーバーや保存先 小規模なPoCなら月1万〜5万円程度
評価の手間 正解の例を作る、AIの答えを人が採点する 社内の担当者の工数として見落としやすい

とくに生成AIのPoCでは、AIの答えが正しいかを人が確かめる作業に、思った以上に時間がかかります。評価を誰が何件行うのかを、見積もりの段階で決めておきましょう。

PoCの見積もりの前に決めておくこと

PoCの費用がふくらむ一番の原因は、確かめることが途中で増えていくことです。見積もりを依頼する前に、少なくとも次の4つを決めておきましょう。

決めること 例
確かめる問い 「問い合わせの一次回答をAIで作れるか」のように1つに絞る
合格の基準 「100件のうち85件以上を、担当者が手直しなしで使えると判定」
期間と費用の上限 「2か月・200万円まで。超えそうなら一度止めて相談する」
終わったあとの判断 合格なら本開発、不合格なら中止か範囲を変えて再検証

合格の基準と費用の上限を先に決めておけば、PoCを何度も繰り返して費用だけがかさむ事態を防げます。基準の立て方は AIのPoCとは で詳しく解説しています。

PoCが1か月延びると、費用はいくら増えるか

PoCの費用の大半は人件費なので、期間と費用はほぼ比例します。たとえば、AIエンジニアとシステムエンジニアの2人が、それぞれ月100万円の単価で関わるPoCなら、1か月延びるごとに200万円が上乗せされます(金額は計算の例です)。

期間が延びる理由で多いのは、データがそろわない、評価する人の時間が取れない、確かめることが増えた、の3つです。どれも発注する側の準備で防げるものなので、PoCを始める前に次のことを済ませておくと、期間も費用も見積もりどおりに収まりやすくなります。

延びる理由 始める前にしておくこと
データがそろわない 使うデータの場所と持ち出しの許可を、社内で先に取っておく
評価する人の時間が取れない 採点を担う社員と、週に使える時間を決めておく
確かめることが増えた 途中で出た新しい案は、次の段階に回すと決めておく

反対に、期間を短くしすぎると、評価の件数が足りず判断がつかないまま終わることもあります。1〜3か月という目安の中で、評価に必要な件数をこなせる期間を取りましょう。

【開発の種類別】AIシステム開発の費用相場

【開発の種類別】AIシステム開発の費用相場

何を作るかによっても、費用の桁は変わります。よく依頼される開発の種類ごとに、PoC・本開発・運用の目安をまとめました。

開発の種類 PoC 本開発 運用(月額)
生成AIの業務組み込み 50万〜200万円 200万〜800万円 数万〜30万円
社内文書の検索(RAG) 100万〜300万円 200万〜1,000万円 10万〜100万円
AIエージェント 50万〜300万円 500万〜3,000万円 15万〜100万円
需要予測・数値の予測 100万〜300万円 300万〜1,000万円 20万〜100万円
画像認識・外観検査 150万〜500万円 500万〜2,000万円 20万〜200万円
音声認識・議事録 50万〜200万円 100万〜600万円 数万〜数十万円
独自モデルの開発 300万円〜 1,000万円〜数千万円 数十万円〜

生成AIの業務組み込み

ChatGPTやClaudeなどの生成AIをAPIで呼び出し、文書の作成、要約、メールの下書き、データの読み取りなどを業務の流れに組み込む開発です。AIそのものを作らないため、費用は画面や既存システムとの連携の開発が中心になります。AI開発の中では最も費用を抑えやすい種類です。

社内文書の検索(RAG)

社内の規程やマニュアル、過去の資料を読み込ませ、質問に根拠つきで答えるAIです。費用を左右するのは、読み込ませる文書の量と整い方、部署ごとの閲覧権限の扱い、答えの正しさの評価です。紙の資料や画像のPDFが多いと、文字にする作業の費用が加わります。問い合わせ対応に使う場合は AIチャットボット導入ガイド もあわせてご覧ください。

AIエージェント

複数の手順をAIが自分で判断しながら進める仕組みです。メール・会計・顧客管理など、つなぐ先が増えるほど、接続の開発とテストの費用が増えます。AIが誤った操作をしないための確認の仕組みや、操作の記録も欠かせません。まず1つの業務の一部だけを任せるPoCから始めるのが一般的です。

需要予測・数値の予測

過去の売上や在庫、天候などのデータから、将来の需要や数値を予測する開発です。費用を左右するのは、使えるデータの期間と量、複数のシステムに散らばったデータを集める手間です。予測の精度と、その精度で業務上いくら得をするのかを、PoCで先に確かめておくのが安全です。

画像認識・外観検査

製品の傷や汚れの検出、書類の読み取りなどに使う開発です。学習用の画像を集め、正解のラベルを付ける作業に費用がかかるうえ、カメラや照明などの撮影環境を整える費用も加わります。製造ラインの外観検査のように高い精度が求められるものほど、費用は上がります。

音声認識・議事録

会議の議事録づくりや、通話の文字起こしと要約などに使う開発です。既存の音声認識のAPIを使えば費用を抑えられます。専門用語が多い、雑音が多い、話者を聞き分けたいといった条件が加わると、調整の費用が増えます。

独自モデルの開発

既存のAIでは求める精度が出ない場合や、機密のデータを外部のAPIに送れない場合に、自社のデータでモデルを学習させる開発です。大量のデータの準備、学習、精度の検証に専門の技術者が長く関わるため、1,000万円を超えることが珍しくありません。まずは既存のAIで足りないかを確かめてから検討しましょう。

生成AIの開発で見落としやすい、評価と安全対策の費用

生成AIを使う開発は、モデルを学習させないぶん安く見えますが、見積もりから抜けやすい作業が3つあります。

作業 中身 抜けていると起きること
評価用の問題集づくり 業務でよく出る質問と、その正しい答えの組み合わせを用意する 精度が上がったのか下がったのかを測れない
誤った答えへの対策 根拠を示させる、答えられないときは断らせる、人の確認を挟む もっともらしい誤りが業務に紛れ込む
入力と出力の安全対策 個人情報や機密を送らない仕組み、不適切な出力の止め方 情報の扱いの問題が起きてから作り直しになる

どれも本番で使う前には必ず必要になる作業です。見積もりにこれらの項目が見当たらないときは、どこに含まれているのか、誰が担う前提なのかを確かめましょう。

作り方で変わる費用|API活用・独自モデル・ノーコード

作り方で変わる費用|API活用・独自モデル・ノーコード

同じ業務をAIにするのでも、どう作るかで費用は大きく変わります。開発を伴う3つの作り方を比べると、次のとおりです。

作り方 初期費用の目安 向いている場合 注意したい点
既存のAIをAPIで組み込む 100万〜1,000万円 文書の作成・要約・検索など、生成AIで足りる業務 使う量に応じてAPIの利用料が増える
独自のモデルを学習させる 1,000万円〜 既存のAIでは精度が出ない、データを外に出せない データの準備と再学習に費用がかかり続ける
ノーコードのツールで作る 数十万〜200万円 小さな業務の自動化、PoCの試作 複雑な権限や大量の処理には向かない

既存のAIをAPIで組み込む

いまのAI開発で最も多い作り方です。AIの頭脳の部分は既存の生成AIを使い、自社の業務に合わせた画面、データの受け渡し、既存システムとの連携を作ります。モデルを一から作らないぶん、開発の期間も費用も抑えられます。一方で、利用が増えるほどAPIの利用料が増えるため、運用費の試算が欠かせません。

独自のモデルを学習させる

自社のデータでモデルを学習させる作り方です。業界に特有の判断を再現したい場合や、機密のデータを外部に送れない場合に選ばれます。データの準備とラベル付け、学習、精度の検証、学習用の計算環境に費用がかかり、稼働後も再学習の費用が続きます。

ノーコードのツールで作る

プログラムを書かずに、画面の操作でAIを使った業務の流れを組み立てる作り方です。PoCの試作や、小さな業務の自動化なら、開発会社に頼むより大幅に費用を抑えられることがあります。ただし、細かい権限の管理や大量のデータの処理が必要になると、あとから作り直しになることもあります。

開発を伴わず、既存のAIツールを契約して使う場合の費用は AI導入の費用相場 で解説しています。

AIシステム開発の見積もりの内訳|人月と単価の考え方

AIシステム開発の見積もりの内訳|人月と単価の考え方

AI開発の見積もりの大部分は、技術者の人件費です。見積もりがどう計算されているのかを知っておくと、金額が妥当かどうかを判断しやすくなります。

見積もりは「人月×単価」で決まる

人月は、1人が1か月働く作業量を表す単位です。2人が3か月関わるなら6人月になります。開発の費用は、多くの場合、この人月に技術者の月額の単価を掛けて出します。

たとえば、AIエンジニア1人(単価120万円)とシステムエンジニア1人(単価90万円)が2か月関わるPoCなら、(120万円+90万円)×2か月で420万円です。見積もりの金額が高いか安いかは、人月の数と単価に分けて見ると判断しやすくなります。

役割別の人月単価の目安

役割 月額の単価の目安 主な仕事
プロジェクトマネージャー 80万〜140万円 計画、進み具合と予算の管理、社内との調整
AIエンジニア・データサイエンティスト 80万〜160万円 モデルの選定と学習、プロンプトの設計、精度の評価
システムエンジニア 65万〜120万円 画面や処理の開発、既存システムとの連携
インフラエンジニア 70万〜120万円 クラウドの環境づくり、セキュリティ、監視

単価は、技術者の経験、会社の規模、依頼する地域によって変わります。大手のシステム会社やコンサルティング会社では、これより高くなることもあります。

フェーズごとの体制と人月の例

フェーズ よくある体制 人月の目安
企画・要件定義 責任者+AIエンジニア 0.5〜2人月
PoC AIエンジニア+システムエンジニアの1〜3人 1〜3人月
本開発 責任者+AIエンジニア+システムエンジニア+インフラの3〜6人 3〜20人月
運用・保守 担当者が一部の時間で関わる 月0.1〜1人月

見積書の人月が、この目安から大きく外れているときは、作業の範囲や前提がどう違うのかを確かめてみましょう。

費用の配分の目安

AI開発の費用は、人件費が6〜8割を占めるのが一般的です。工程で分けると、企画とPoCが1〜2割、データの整備が2〜3割、開発が4〜5割、テストと引き継ぎが1割程度になることが多くあります。

ふつうのシステム開発と比べて、データの整備の割合が大きいのがAI開発の特徴です。見積書にデータの整備の項目が無いか、極端に小さいときは、誰がその作業を担うことになっているのかを確かめましょう。

人件費のほかにかかる費用

費用 中身 かかり方
生成AIのAPI利用料 AIを呼び出した量に応じた料金 毎月、使った分だけ
クラウドの利用料 サーバー、データの保存先、検索用のデータベース、監視の仕組み 毎月
ツールのライセンス 開発や運用に使うソフトウェアの利用料 毎月か毎年
ラベル付けの外注 学習用の画像や文章に、正解を付ける作業 データの量に応じて
セキュリティ対応 ログインの仕組み、通信や保存の暗号化、操作の記録 開発時にまとめて

生成AIのAPI利用料|公式料金と試算のしかた

生成AIのAPI利用料|公式料金と試算のしかた

生成AIを組み込む開発では、APIの利用料が運用費の一部になります。料金は、AIに渡す文章(入力)と、AIが返す文章(出力)の量で決まり、量はトークンという単位で数えます。主な3社の公式の料金を見ておきましょう。

OpenAI API(GPT)

OpenAI API の公式ページの画像

ChatGPTを提供するOpenAIのAPIです。性能と料金の違う複数のモデルがあり、用途に合わせて選べます。

モデル 入力(100万トークンあたり) 出力(100万トークンあたり)
gpt-6-sol 2.00ドル 10.00ドル
gpt-6-luna 0.10ドル 0.50ドル

公式サイト:OpenAI API の料金

Claude API(Anthropic)

Claude API の公式ページの画像

Anthropicが提供するClaudeのAPIです。性能と料金の違う複数のモデルがあり、公式の料金ページではモデルごとに向いている使い方も示されています。

モデル 入力(100万トークンあたり) 出力(100万トークンあたり)
Claude Sonnet 5 2ドル 10ドル
Claude Haiku 4.5 1ドル 5ドル

公式サイト:Claude API の料金

Gemini API(Google)

Gemini API の公式ページの画像

Googleが提供するGeminiのAPIです。無料で試せる枠があり、有料の枠では入力したデータが製品の改善に使われない設定になっています。

モデル(有料の枠) 入力(100万トークンあたり) 出力(100万トークンあたり)
Gemini 3.8 Flash 0.75ドル(2027年1月1日から1.50ドル) 3.75ドル(2027年1月1日から7.50ドル)
Gemini 3.5 Flash-Lite 0.30ドル 2.50ドル

公式サイト:Gemini API の料金

3社とも、2026年10月時点で公式の料金ページに掲載されている標準の料金です。Gemini 3.8 Flashは2026年12月31日までの料金で、2027年1月1日から上の括弧内の料金に変わると公式ページに示されています。料金は改定されることが多いため、試算の前に必ず公式サイトで確かめてください。

API利用料を試算する5つの手順

01

1日に何回AIを呼び出すかを決める

利用する人数と、1人が1日に使う回数から出します。例:1日500回

02

1回あたりの入力と出力の量を見積もる

RAGでは、質問に加えて参照する社内文書も入力に入ります。例:入力3,000トークン、出力500トークン

03

1か月の量に直す

例:月20日使うと、入力3,000万トークン、出力500万トークン

04

公式の料金を掛ける

例:入力2ドル・出力10ドルのモデルなら、30×2+5×10で月110ドル。1ドル150円とすると月1万6,500円

05

増えた場合も試算しておく

利用者の増加や、AIエージェントのように1回の依頼で何度もAIを呼び出す仕組みでは、量が数倍になることがあります

1回あたりのトークンの量は、PoCで実際に測るのが確実です。本番の利用量で試算し、想定の数倍に増えても払える金額かを確かめておきましょう。

AIシステム開発の見積書の読み方

AIシステム開発の見積書の読み方

AIシステム開発の見積書は、合計の金額だけを見ても良し悪しは判断できません。ここでは、見積書のどこを読めばよいかを、例を使って見ていきます。見積もりの範囲をそろえるための基本の確認項目は 見積書で確かめる7つの項目 でまとめています。

見積書の例と読むところ

社内文書を検索して答えるAIの本開発で、次のような見積書が出たとします(説明のための例です)。

項目 人月 金額
要件定義 1.0 120万円
データの整備 1.5 150万円
検索とプロンプトの設計 1.0 130万円
画面・連携の開発 2.0 190万円
テスト・精度の評価 1.0 100万円
プロジェクト管理 0.5 60万円
合計 7.0 750万円
別途 − APIとクラウドの利用料(実費)、保守費(月額)

読むところは3つです。まず、工程ごとに人月が書かれているか。「開発一式」のようにまとめられていると、何にいくらかかるのかがわかりません。次に、項目の人月を単価で割り戻して、役割に見合った単価になっているか。最後に「別途」の中身です。APIやクラウドの利用料、保守費が別になっている場合は、月々いくらになるかの試算も出してもらいましょう。

前提条件と対象外の作業を確かめる

見積もりの金額は、必ず何かの前提の上に立っています。「データは発注側が整えた状態で渡す」「連携するシステムは1つ」「利用者は50人まで」といった前提が書かれているか、書かれていなければ質問しましょう。前提が変われば、金額も変わります。

あわせて、対象外の作業も確かめます。データの整備、社員向けの説明会、本番環境の用意などが対象外になっていると、あとから別の費用がかかります。

精度の約束と完成の条件

経済産業省の資料では、AIの開発には、契約の初めの段階では作るものを確定しにくく、まだ見ていないデータに対する性能を保証することも技術的に難しい、という特徴があると整理されています(出典:経済産業省『AI・データの利用に関する契約ガイドラインの概要』)。

そのため、精度を「必ず95%にします」と言い切る見積もりより、どのデータで、どう測り、基準に届かなかったらどうするかが書かれた見積もりのほうが信頼できます。完成の条件と、基準に届かなかったときの扱いを、契約の前に決めておきましょう。

契約の形で費用の払い方が変わる

開発の契約には、作業した時間に対して払う形(準委任)と、完成したものに対して払う形(請負)があります。準委任では、完成を約束しない代わりに、途中で方針を変えやすくなります。請負では、完成を約束してもらえる代わりに、仕様の変更には追加の費用がかかります。

経済産業省の「探索的段階型」の考え方では、PoCの段階は導入検証の契約、開発の段階はソフトウェア開発の契約というように、段階ごとに契約を分けて結ぶ形が示されています。結果が読みにくいPoCは時間に対して払う形、仕様が固まった本開発は完成に対して払う形、と分けることもよくあります。

作ったものとデータの権利

AIの開発では、プログラムのほかに、学習に使ったデータ、学習済みモデル、開発で得たノウハウなど、さまざまなものが生まれます。経済産業省の資料では、データやノウハウには法律上の決まりがない場合が多く、権利の帰属や利用の条件を契約で決めることが大切だとしています。

作ったモデルを他社にも使われてよいか、契約を終えたときにデータやプログラムを引き継げるかは、費用にも関わります。権利を自社にすべて残す条件にすると、見積もりが高くなることもあるため、何を自社に残したいのかを先に決めておきましょう。

会社によって見積もりが違う理由

同じ依頼でも見積もりが倍以上違うのは、前提にしている作業の範囲、体制と単価、使う技術、リスクの見込み方が会社ごとに違うためです。安い見積もりは、データの整備や評価の作業が入っていないだけのこともあります。金額の差の理由を、項目ごとに聞いてみましょう。

追加の費用が出やすい5つの場面

契約したあとに費用が増えるのは、たいてい次のような場面です。見積書の前提条件の欄と照らし合わせ、どれが起きたら追加になるのかを先に聞いておくと安心です。

場面 よくある例 先に決めておくこと
データが想定と違った 件数が足りない、形式がばらばら、手書きが多い データの整備を誰がどこまで行うか
精度が基準に届かない 追加の学習や指示文の作り直しが必要になる 届かなかったときに、追加で何回まで試すか
つなぐ先が増えた 途中で別の部署のシステムともつなぎたくなる 今回の範囲に入れるシステムの一覧
使う人が増えた 試験の部署から全社に広げる 人数が増えたときのAPI・クラウドの費用の試算
社内の確認に時間がかかった 情報システム部門やセキュリティの審査で止まる 社内の審査の担当と期間

相見積もりは条件をそろえてから比べる

2〜3社から見積もりを取るときは、金額を並べる前に条件をそろえます。各社が別々の前提で出した見積もりは、合計だけを比べても意味がありません。

そろえる方法はシンプルで、すべての会社に同じ資料と同じ質問を渡すことです。資料には、依頼の前にまとめておく7つのことを1枚にまとめ、質問は見積もりのときに聞いておきたい質問をそのまま使えます。返ってきた見積もりは、工程ごとの人月、単価、前提条件、対象外の作業、別途の費用の5つを横に並べて比べましょう。合計が安い会社が、対象外の作業が多いだけということはよくあります。

初年度ではなく、2〜3年の総額で比べる

開発費が安くても、毎月の運用費が高ければ、数年で逆転することがあります。比べるときは、次の式で2〜3年の総額を出しておきましょう。

総額 = 初期の費用(企画・PoC・本開発)+ 毎月の費用(保守費・API・クラウド)× 12か月 × 年数

冒頭の例(初期の費用800万円・運用費月20万円)なら、初年度は1,040万円、3年では800万円+20万円×36か月で1,520万円になります(金額は計算の例です)。毎月の費用は利用者が増えると上がるため、今の人数と、広げたときの人数の2通りで試算しておくと、予算の見込み違いを防げます。

開発会社に見積もりを依頼するときの進め方

開発会社に見積もりを依頼するときの進め方

見積もりの精度は、依頼する側がどれだけ条件を伝えられるかで決まります。2〜3社に同じ資料と同じ質問で依頼すると、金額を同じ条件で比べられます。相談先の選び方は AI導入支援とは?おすすめ会社の比較と選び方 で詳しく解説しています。

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依頼の前にまとめておく7つのこと

項目 まとめておく内容
目的 何の作業時間を減らしたいのか、何を良くしたいのか
対象の業務と利用者 部署、人数、1日に使う回数
使うデータ 種類、量、保管場所、形(表計算・PDF・紙など)、個人情報の有無
求める精度 どのくらい正しければ業務で使えるか、誰が確かめるか
つなぐシステム 顧客管理、会計、チャットツールなど、連携したい先
予算と時期 PoCと本開発それぞれの予算の上限、使い始めたい時期
稼働後の体制 社内で誰が運用を担うか、どこまで外部に任せたいか

すべてが決まっていなくてもかまいません。決まっていないことは「未定」と書いて伝えるほうが、見積もりの前提のずれを防げます。

見積もりのときに聞いておきたい質問

各社に同じ質問をすると、答え方の違いから、進め方や考え方の違いが見えてきます。

質問 確かめたいこと
PoCのあと、本番まで進んだ場合の総額の幅は? PoCだけでなく全体の予算感
工程ごとの人月と単価は? 金額の根拠
データの整備は誰が、どこまで行う前提か 見積もりに入っていない作業
精度はどう測り、届かなかったらどうするか 完成の条件と追加の費用
APIとクラウドの月額はいくらになりそうか 稼働後の費用
PoCで作ったものは本番で使えるか 作り直しの有無
契約を終えたとき、何を引き継げるか 権利と引き継ぎ
似た開発の経験はあるか 見積もりの確かさ

見送ったほうがよい見積もり

次のような見積もりは、金額が安くても、あとから費用がふくらんだり、使えないものができたりするおそれがあります。

見積もりの様子 起きやすいこと
精度を根拠なく言い切っている データを見る前の約束は、あとで条件が付け足されやすい
「一式」だけで内訳がない 何が含まれているかわからず、追加の費用を断りにくい
データの整備が入っていない 開発が始まってから、整備の費用や社内の作業が発生する
PoCの終わりの条件がない 検証が続き、費用だけが増える
運用費が書かれていない 稼働後の月額が、想定より大きくなる

自社で作るか、外部に頼むか

社内にAIやシステムに詳しい人がいれば、自社で作ることで支払いを抑えられます。ただし、その人の時間と、辞めたときに運用が止まるリスクも費用として考える必要があります。技術の実装は外部に頼み、業務の要件と合格の基準、データの準備は自社が責任を持つ、という分け方がよく選ばれます。社内で作れる体制を整えたい場合は AI内製化ガイド も参考にしてください。

AIシステム開発の費用を抑える7つの方法

AIシステム開発の費用を抑える7つの方法

AI開発の費用は、作り方と進め方しだいで大きく変わります。開発を外部に頼む場合に効果の大きい方法を、7つにまとめました。

既存の生成AIをAPIで使う

モデルを一から作らず、既存の生成AIをAPIで呼び出せば、学習の費用がほぼかからなくなります。まずは既存のAIで求める結果が出るかを確かめ、足りない部分だけを作るのが近道です。

PoCで確かめることを1つに絞る

あれもこれも確かめようとすると、PoCの費用はすぐに倍になります。「この業務で、この精度が出るか」という1つの問いに絞り、必要な機能だけを作りましょう。

仕様とデータの追加に上限を決める

途中で「このデータも入れたい」「この機能も欲しい」と増やすたびに、人月が増えます。追加するときは次の段階に回すというルールを、始める前に決めておきます。

データの準備を社内で担う

データを集めて形をそろえる作業や、正解のラベルを付ける作業は、業務を知っている社員のほうが早く正確にできることがあります。社内で担う範囲を決めておけば、外部に払う人月を減らせます。

ノーコードで試作してから頼む

ノーコードのツールで簡単な試作を作ってから相談すると、欲しいものが伝わりやすくなり、見積もりの前提のずれが減ります。小さな業務なら、試作のまま使い続けられることもあります。

本番を見据えて作り直しを減らす

PoCで作ったものを本番で使えない作りにすると、本開発でゼロから作り直すことになります。PoCの段階から、本番で使う予定のAIやクラウドを選んでおくと、作り直しの費用を減らせます。

一括で頼まず、工程ごとに分けて発注する

企画から本開発までをまとめて頼むと、先が読めない部分の不安を見込んで、見積もりが高めに出ることがあります。企画、PoC、本開発と工程ごとに分けて発注すれば、前の工程の結果を見てから次の金額を決められるため、見込みの上乗せが小さくなりやすくなります。

工程を分けておけば、PoCの結果が思わしくないときに、本開発へ進まずに止めることもできます。止める判断の目安は、このあとの続けるか止めるかを決める表で紹介します。

本番に進むと増える費用と、費用がふくらむパターン

本番に進むと増える費用と、費用がふくらむパターン

PoCがうまくいっても、本番に進むと新しい費用が加わります。よくあるパターンを知っておけば、予算の見込み違いを防げます。

本番で新たにかかる費用

費用 PoCとの違い
権限とログイン 部署や役職ごとに見られる情報を分ける
操作の記録と監視 だれが何を入力し、AIが何を返したかを残し、異常に気づけるようにする
利用量の増加 利用者が増えると、APIとクラウドの利用料が増える
既存システムとの連携 PoCでは手作業だったデータの受け渡しを自動にする
精度の見直しと再学習 業務やデータが変わっても精度を保つ
問い合わせと運用 社員からの質問や不具合に対応する窓口を用意する

PoCを繰り返して本番に進めない

合格の基準があいまいなままPoCを始めると、「もう少し試したい」が続き、本番に進めないまま費用だけがかさみます。PoCを始める前に、合格の基準と期限、費用の上限を決めておくことが対策です。

PoCと本番でデータが違う

PoCでは整ったデータで高い精度が出たのに、本番の雑多なデータでは精度が落ちることがあります。PoCの段階から、本番に近いデータで確かめておくことが、あとの作り直しの費用を防ぎます。

作ったものが現場で使われない

技術的には動いても、現場の業務の流れに合っていなければ使われません。使われなければ、それまでの開発費はすべて無駄になります。開発の途中から現場の担当者に触ってもらい、使い方の説明や定着の手間も予算に入れておきましょう。

発注前のセルフチェック|概算の出し方と、続けるか止めるかの決め方

発注前のセルフチェック|概算の出し方と、続けるか止めるかの決め方

開発会社に相談する前に、自社でおおまかな費用の幅をつかんでおくと、見積もりが出たときに高いか安いかをすぐに判断できます。ここでは、概算を出すための項目と手順、PoCが終わったあとに続けるか止めるかを決める表をまとめました。社内の稟議の資料づくりにもそのまま使えます。

概算を出すために書き出す8つの項目

次の8つを書き出すと、本記事の早見表のどのあたりに入りそうかが見えてきます。

項目 書き出す内容 費用への影響
作るものの種類 生成AIの組み込み、RAG、予測、画像認識など 種類別の表で、PoCと本開発の幅が決まる
対象の業務の数 まず1つか、複数か 増えるほど人月が増える
データの形 表計算・データベース・PDF・紙・画像 紙や画像が多いほど整備の費用が増える
データの量 件数、期間、保管場所の数 集める手間と評価の手間に効く
つなぐシステム システムの名前と数 1つ増えるごとに連携の開発とテストが増える
利用者の数 最初の人数と、広げたときの人数 API・クラウドの月額と権限の作り込みに効く
求める精度 人が最終確認をするか、AIの答えをそのまま使うか そのまま使うほど、評価と対策の費用が増える
社内で担える作業 データの準備、評価、運用の窓口 担える範囲が広いほど外部に払う人月が減る

自社で概算の幅を出す5つの手順

書き出した項目をもとに、次の順で概算の幅を出します。数字は本記事の目安を使うため、実際の見積もりとはずれますが、予算の上限を決める材料になります。

01

種類別の表から、PoCと本開発の幅を拾う

例:社内文書の検索(RAG)なら、PoC100万〜300万円、本開発200万〜1,000万円

02

4つの要素で、幅の下寄りか上寄りかを決める

開発の範囲・データの状態・外部との連携・運用の求めのうち、上がりやすい条件がいくつ当てはまるかで判断します

03

企画の費用を足す

課題やデータがまだ固まっていなければ、企画・要件定義の40万〜200万円を足します

04

毎月の費用を出す

保守費は開発費の年10〜20%を12か月で割り、API利用料は5つの手順で試算して足します

05

2〜3年の総額にまとめる

初期の費用+毎月の費用×12か月×年数で、下限と上限の2つの総額を出します

出した幅と見積もりが大きく違うときは、その会社がどの前提で計算しているのかを聞くきっかけになります。自分たちで出した概算の幅を手元に置いてから見積もりを読むと、金額の差の理由を質問しやすくなります。

概算の例|社内文書を検索するAIの3年間の総額

手順だけでは掴みにくいので、実際に1つ計算してみます。1つの部署の50人が、社内の規程やマニュアルを質問して調べられるようにする開発(RAG)を外部に頼む場合の例です。

項目 金額 どう出したか
企画・要件定義 80万円 40万〜200万円の幅の下寄り。対象の文書と業務が決まっているため
PoC 150万円 RAGのPoCは100万〜300万円。1部署・1つの文書群に絞るため下寄り
本開発 500万円 RAGの本開発は200万〜1,000万円。権限の作り込みと1システムとの連携を含むため中ほど
初期の合計 730万円 上の3つの合計
保守費(月) 約6万円 本開発500万円の年15%(75万円)を12か月で割る
API利用料(月) 約7千円 50人×1日4回×月20日、入力3,000・出力500トークン、入力2ドル・出力10ドルのモデルで試算
クラウド利用料(月) 約2万円 サーバーと検索用の保存先
毎月の合計 約9万円 保守費+API+クラウド
3年間の総額 約1,050万円 730万円+9万円×36か月

同じ条件でも、幅の下寄りで進めば初期340万円・3年で約530万円、上寄りになると初期1,500万円・3年で約2,050万円です。3倍以上の差が出るので、下限と上限の2つを出しておき、見積もりがどちらに寄っているかで前提の違いを探します。金額はすべて本記事の目安を当てはめた計算の例で、実際の見積もりとはずれます。

かけた費用をどのくらいで回収できるか

総額が出たら、その金額を何で取り戻すのかを数字にしておきます。社内の稟議では、費用の妥当性より「いつ回収できるか」を聞かれることが多いためです。次の5つの順で出します。

01

今かかっている時間を測る

対象の業務に、誰が月に何時間かけているかを数えます。推測ではなく、担当者に1週間だけ記録してもらうのが確実です

02

AIで置き換わる割合を決める

全部ではなく一部です。PoCの結果から、何割を任せられそうかを見積もります。確認の手間が残る分も引きます

03

1か月の削減額に直す

減る時間に、その業務を担う人の時間あたりの人件費を掛けます

04

回収までの月数を出す

初期の費用÷(1か月の削減額−毎月の費用)で計算します。毎月の費用を引き忘れると、回収の見込みが実際より短く出ます

05

使い続ける期間と比べる

回収までの月数が、そのシステムを使い続ける期間より短いかを見ます。業務の見直しが近い業務では、短い期間で回収できるかが条件になります

上の例で計算すると、対象の業務に月400時間かかっていて、PoCで3割を置き換えられると見込めた場合、減る時間は月120時間です。時間あたりの人件費を3,000円とすると削減額は月36万円で、初期730万円・毎月9万円なら、730万円÷(36万円−9万円)で約27か月、2年3か月ほどが回収の目安になります。

この計算は、開発会社の試算を受け取る前に自社で出しておきましょう。置き換わる割合をどれだけ見込むかで答えが何倍も変わるため、前提を自社で持っていないと、示された回収期間が妥当なのか判断できません。回収までの月数が使い続ける期間より長くなるときは、対象の業務を絞るか、削減効果のより大きい業務から始めることを考えます。

PoCのあと、続けるか止めるかを決める表

PoCが終わったら、結果を次の表に当てはめて、本開発に進むか、範囲を変えてやり直すか、止めるかを決めます。判断の軸は、PoCを始める前に決めた合格の基準と、本番まで進んだ場合の総額です。

PoCの結果 判断 次にすること
合格の基準に届き、総額も予算内 本開発に進む 本番のデータと人数で、本開発と運用の見積もりを取り直す
合格の基準に届いたが、総額が予算を超える 範囲を絞って進む 対象の業務や部署を減らし、効果の大きい部分だけを本開発にする
あと少しで届かず、原因がはっきりしている 1回だけ範囲を変えて再検証 データの追加や指示文の見直しなど、直す点と上限の費用を決めてから再開する
基準に遠く届かず、原因もはっきりしない 止める わかったことを報告書に残し、別の業務やAIを使わない方法を検討する
精度は出たが、現場が使いたがらない いったん保留 業務の流れのどこに合わなかったのかを聞き取り、使い方を見直す

止めるのは失敗ではありません。PoCを小さく区切っておけば、止めたときに失うのはPoCの費用だけで済みます。再検証を何度も重ねず、1回までと決めておくことが、費用を守るいちばんの方法です。

契約の前に知っておきたい公的な補助制度

国には、中小企業のITやAIの導入を対象にした補助制度があります。たとえばデジタル化・AI導入補助金(中小企業デジタル化・AI導入支援事業)の通常枠では、ソフトウェアの購入費、クラウドの利用料、導入のコンサルティングや設定、保守サポートなどが対象の経費として示され、事業を行う期間は交付の決定のあとからと決められています(出典:デジタル化・AI導入補助金2026 通常枠)。

こうした制度は、対象になる経費、申請できる時期、申請の窓口になる事業者などの条件が制度ごとに細かく決まっていて、すべての開発や依頼先が対象になるわけではありません。検討するときは、開発会社と契約する前に制度の公式サイトで最新の条件を確かめてください。制度の種類は AI導入に使える補助金・助成金ガイド でまとめています。

AIシステム開発とPoCの費用に関するよくある質問

AIシステム開発とPoCの費用に関するよくある質問
Q. AI開発は最低いくらから頼めますか?
既存の生成AIをAPIで呼び出し、1つの業務に絞った小さなPoCなら、数十万円から頼める場合があります。本番で使うシステムまで作る場合は、300万円程度からを見ておくとよいでしょう。
Q. PoCだけを頼むことはできますか?
できます。PoCだけを別の契約にして、結果を見てから本開発に進むかを決めるのが一般的です。その場合も、本番まで進んだときの総額の幅を、PoCの見積もりと一緒に聞いておきましょう。
Q. PoCにはどのくらいの期間がかかりますか?
1〜3か月が目安です。既存の生成AIで1つの業務を試すだけなら数週間で終わることもあります。独自のデータで学習させる場合や、社内のシステムとつなぐ場合は長くなります。
Q. PoCから本開発に進むのは、どのくらいの割合ですか?
案件ごとの差が大きく、一律の目安はありません。大切なのは割合ではなく、自社のPoCで決めた合格の基準に届いたかどうかです。基準に届いたか、総額が予算に収まるかで判断します。判断の目安は PoCのあと、続けるか止めるかを決める表 をご覧ください。
Q. 見積もりを頼むときは、どんな情報を用意すればよいですか?
目的、対象の業務と利用者の数、使うデータの種類と量と形、求める精度、つなぐシステム、予算と時期、稼働後の体制の7つがあると、見積もりの前提がずれにくくなります。決まっていない項目は「未定」と書いて渡してかまいません。詳しくは 依頼の前にまとめておく7つのこと をご覧ください。
Q. 見積もりは無料で出してもらえますか?
概算の見積もりは無料で出す会社が多くあります。ただし、データを見て詳しく調べたうえでの見積もりや、要件定義そのものは有料になるのが一般的です。どこまでが無料かを最初に確かめておきましょう。
Q. 自社で開発するのと外注するのでは、どちらが安いですか?
支払いの金額だけを比べると自社のほうが安くなりやすいですが、社員の時間、採用や育成の費用、担当者が辞めたときのリスクまで含めると、外注のほうが安く済むこともあります。技術の部分だけを外注し、業務の要件とデータの準備を自社で担う分け方もあります。
Q. 運用が始まってからは、毎月いくらかかりますか?
保守の費用、APIの利用料、クラウドの利用料を合わせて、月5万〜200万円程度と幅があります。年間の保守費は、初期の開発費の10〜20%程度が目安です。APIの利用料は使う量で変わるため、本番の利用量で試算しておきましょう。
Q. AIの開発費は経費になりますか?
自社で使うために開発したソフトウェアは、無形固定資産として計上し、原則5年で減価償却します(出典:国税庁 No.5461 ソフトウエアの取得価額と耐用年数)。PoCの費用などの扱いは内容によって変わるため、顧問の税理士に確認してください。
Q. 補助金はAI開発に使えますか?
対象になるかどうかは、制度ごとに決まった条件によります。対象の経費、申請の時期、申請の窓口になる事業者などが細かく定められていて、交付の決定より前の費用は対象にならないものもあります。すべての開発や依頼先が対象になるわけではないため、開発会社と契約する前に、制度の公式サイトで最新の条件を確かめてください。

まとめ

まとめ

AIシステム開発の費用は、フェーズ、開発の種類、作り方によって、数十万円から数千万円まで大きく変わります。PoCの金額だけで判断せず、本番と運用までの総額を見通したうえで、見積もりの中身を比べることが大切です。最後に、本記事のポイントを振り返ります。

01
AIシステム開発の費用は、企画40万〜200万円、PoC50万〜300万円、本開発300万〜2,000万円、運用は月5万〜200万円が目安
02
PoCは総額の一部。見積もりの段階で、本番まで進んだ場合の総額の幅も聞き、2〜3年の総額で比べる
03
見積もりは人月×単価で決まる。工程ごとの人月、前提条件、別途の費用を読み、相見積もりは条件をそろえて比べる
04
生成AIのAPI利用料は、本番の利用量で試算し、増えた場合も払えるかを確かめる
05
既存のAIを使い、PoCで確かめることを1つに絞り、データの準備を社内で担えば、費用は抑えられる
06
PoCのあとは、合格の基準と総額で、続けるか、範囲を絞るか、止めるかを決める

AIツールの利用料や研修も含めた導入全体の費用は AI導入の費用相場 もあわせてご覧ください。