AIを業務に使えないか試してみたいが、PoC(概念実証)をどう進めればよいのかがわからない。試してはみたものの、結果をどう判断すればよいのか決められず、本番に進めないまま終わってしまった。AIの導入を任された担当者から、よく聞かれる悩みです。IPA(情報処理推進機構)の調査では、AIを導入した企業のうち「期待以上」「期待どおり」の効果が出たと答えた企業は合わせて31.8%にとどまり、半数(50.6%)は「一定の効果はあった」という答えでした。効果の中身も「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%と大半を占め、「売上や利益が向上した」は3.9%でした(出典:IPA「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公開」2026年7月)。

AIは、やってみるまで精度や効果が読みにくい技術です。だからこそ、本番の前に小さく試すPoCが欠かせませんが、何を確かめ、どうなれば合格とし、どうなれば止めるのかを先に決めておかないと、試しただけで終わってしまいます。そこで本記事では、AI PoCの進め方を、目的と仮説の立て方、対象業務の選び方、評価データの作り方、成功基準と止める基準の決め方、期間と体制、費用の内訳、本番化の判断、PoCで終わってしまう原因まで、順を追って解説します。そのまま使える計画書の項目と合否判定シート、本番化のセルフチェック、AIコンサルや開発会社に頼むときの確認点もまとめました。

この記事でわかること

  • AI PoCの進め方を7段階で把握
  • 合否判定シートをそのまま使える
  • 本番化の判断を確認表で迷わない
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AIのPoC(概念実証)とは

AIのPoC(概念実証)とは

PoCは「Proof of Concept」の略で、日本語では「概念実証」と訳されます。新しい考えや技術が、本当に実現できるのかを、小さく作って確かめる取り組みのことです。まずは、AIのPoCが何のために行われるのか、似た言葉とどう違うのかを整理しておきましょう。

AIのPoCは「本番に進むかを決めるための検証」

AIのPoCでは、自社のデータと業務を使って、AIが期待した精度を出せるか、業務の時間や手間が本当に減るかを確かめます。目的は、AIを動かしてみることそのものではありません。PoCの目的は、本番の開発に費用をかけてよいかを判断する材料をそろえることです。

経済産業省の『AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)』も、PoCを「新たな概念やアイデアを、その実現可能性を示すために、部分的に実現すること」と説明し、その結果をもとに次の開発に進むかどうかを判断する段階として位置づけています(出典:経済産業省『AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)』)。

PoC・プロトタイプ・MVP・本番開発の違い

PoCと混同されやすい言葉に、プロトタイプ、MVP、実証実験があります。それぞれ確かめる内容と、作るものの大きさが違います。

段階 確かめること 作るもの 使う人
PoC(概念実証) AIで実現できるか、効果が出るか 検証に必要な最小限の仕組みと評価の結果 担当者と一部の現場
プロトタイプ 画面や操作の形が使いやすいか 見た目や操作を確かめる試作品 担当者と一部の現場
実証実験(パイロット) 実際の現場で回るか 現場で一定期間使える仕組み 対象の部署
MVP 利用者に価値があるか 必要な機能だけを備えた最初の製品 実際の利用者
本番開発 安定して使い続けられるか 権限・監視・保守まで備えたシステム 全社・全利用者

実際には、PoCの後半で現場の一部に使ってもらい、実証実験に近い形で確かめることもよくあります。言葉の違いよりも、今回の検証で何を確かめるのかをはっきりさせることが大切です。

AIでPoCが欠かせない理由

決めたとおりに動くことを確かめればよい通常のシステムと違い、AIはデータから答えを推測する仕組みです。同じような入力でも正しく答えるときと誤るときがあり、どこまでの精度が出るかは、自社のデータで試してみるまでわかりません。

経済産業省の契約ガイドラインでは、こうしたAIの性質をふまえて、開発を「アセスメント」「PoC」「開発」「追加学習」の段階に分け、段階ごとに次へ進むかを確かめながら進める「探索的段階型」の進め方を提案しています。必要な性能が出ないとわかった時点で、次の段階に進まない選択ができるため、失敗したときの損失を小さく抑えられます。

PoCをしなくてよいケースもある

すべてのAI導入にPoCが必要なわけではありません。ChatGPTやMicrosoft 365 Copilotのような既存の生成AIツールを、文章の下書きや要約に使うだけなら、少人数で使い始めて効果を測れば十分です。月額の利用料だけで試せるため、正式なPoCを組むより早く判断できます。

PoCが必要になるのは、自社のデータとつなぐ、業務のシステムに組み込む、自社専用に学習させるといった、費用と期間のかかる開発を伴う場合です。開発を伴うAI導入の費用の目安は AI導入の費用相場 で解説しています。

AIのPoCで確かめる4つの観点

PoCで確かめる4つの観点

AIのPoCというと、精度が出るかどうかだけを確かめるものと思われがちです。しかし、精度が高くても現場で使われなかったり、費用に見合わなかったりすれば、本番には進めません。PoCでは、次の4つの観点をあわせて確かめます。

観点 確かめる問い 主な指標の例
技術 AIが求める精度で動くか 正解率、誤りの件数、応答の速さ
業務の効果 作業の時間や手間が減るか 1件あたりの作業時間、修正にかかる時間
現場での使われ方 担当者が使い続けられるか 利用した人の割合、そのまま使えた割合
費用対効果 本番にかける費用に見合うか 年間の削減額、運用費、回収までの期間

技術:求める精度が出るか

自社の実際のデータで、AIがどこまで正しく答えられるかを確かめます。整えたサンプルではなく、現場で実際に発生する書類や問い合わせを使うことが大切です。難しい入力や例外的な入力でどう誤るかも、あわせて記録しておきます。

業務の効果:作業が本当に減るか

AIの出力を人が確認して直す時間も含めて、作業時間がどれだけ減るかを測ります。AIの精度が高くても、確認に時間がかかれば効果は小さくなります。AIを使う前と後で、同じ担当者が同じ種類の作業をしたときの時間を比べると、差がはっきりします。

現場での使われ方:使い続けられるか

ITに詳しい一部の人だけでなく、ふだんその業務をしている担当者に使ってもらい、使い続けられるかを確かめます。入力の手間が増えていないか、どんな場面で使わなかったかも記録しておくと、本番での改善点が見えてきます。

費用対効果:本番の費用に見合うか

PoCで測った削減時間に人件費をかけて、年間の効果額を出します。そのうえで、本番の開発費と毎月の運用費を見積もり、何年で回収できるかを確かめます。PoCの間は利用量が少ないため、AIの利用料は目立ちません。対象を広げたときの利用量で試算しておくことが大切です。

生成AIとAIエージェントで足しておく観点

生成AIは、同じ質問をしても毎回少しずつ違う答えを返すことがあります。そのため、1回うまく答えたかどうかではなく、同じ入力を何度か試したときの答えのぶれ、事実と違う内容が混ざる頻度、参照した文書を根拠として示せるかを確かめておきます。

AIエージェントのように、AIがほかのシステムを操作したり、メールを送ったりする仕組みでは、さらに観点が増えます。どこまでの操作をAIに任せ、どこで人が承認するのか、誤った操作をしたときに止めたり取り消したりできるのか、AIが何をしたかの記録が残るのかを、PoCの段階で確かめておきましょう。任せた作業を最後までやり切れた割合と、人が途中で止めた回数も、あわせて記録しておくと判断の材料になります。

AIのPoCの進め方7ステップ

AIのPoCの進め方7ステップ

AIのPoCは、次の7つのステップで進めます。ステップ1〜5が設計、ステップ6が検証、ステップ7が判断です。検証を始める前のステップ1〜5で、PoCの成否の大半が決まります。

01

目的と仮説を決める

どの業務の、どんな課題を解決したいのかを1文で書き、「AIを使えば◯◯の時間を半分にできる」のように、確かめたい仮説を数字で置きます。

02

対象の業務と範囲を絞る

1回のPoCで確かめる業務は1つにします。部署・利用者・書類の種類も絞り、判断に必要な最小の範囲を決めます。

03

今の数字を測り、評価データを作る

AIを使う前の作業時間や誤りの件数を測ります。あわせて、AIの出力を採点するための評価データ(実際の入力と、正解または合格の条件)を用意します。

04

成功基準と合否のラインを決める

技術と業務の指標ごとに、どの数字なら本番に進むか、見直すか、止めるかを決め、判断する人と事前に合意します。

05

期間・体制・データの扱いを決める

期間と判断の日、社内の役割、外部に頼む範囲を決めます。使うデータを外部のAIに入れてよいかも、この段階で情報システムや法務の担当者に確かめます。

06

小さく作って検証する

最小限の仕組みを作り、評価データで精度を測ります。一定の水準に達したら、現場の担当者に実際の業務で使ってもらい、時間や修正の量を記録します。

07

結果を評価し、本番化を判断する

決めておいた合否のラインに照らして、本番に進む、範囲を絞る、見直して再検証する、止めるのいずれかを決め、レポートにまとめます。

ステップごとに残しておくもの

それぞれのステップを終えたら、次のものを書面やファイルで残しておきます。残したものがそのまま、本番化を判断する会議や稟議の資料になります。

ステップ 確かめること 残しておくもの
01 目的と仮説 何を解決し、何を確かめるか 目的の1文、数字で書いた仮説
02 対象と範囲 どこまでを検証の対象にするか 対象の業務・部署・利用者・書類の種類の一覧
03 今の数字と評価データ 比べる基準と採点の材料 今の作業時間と誤りの記録、評価データ
04 成功基準 どの数字なら進み、どこで止めるか 合否のラインと止める基準、合意した記録
05 期間・体制・データ だれがいつまでに何をするか、データを使ってよいか 日程表、役割の表、データの扱いの確認結果
06 検証 精度と業務の効果、現場での使われ方 精度の測定結果、試用の記録、誤りの一覧
07 判断 進む・絞る・見直す・止めるのどれにするか 合否判定シート、評価レポート、本番化の概算

前のステップに戻ってよい場面と回数

ステップ6で精度が足りないとわかったとき、評価データの入力の種類を見直したり、AIへの指示の書き方を変えたりするために、ステップ3や4に戻ることはよくあります。戻ること自体は問題ではありません。

ただし、戻る回数に上限がないと、検証がいつまでも終わりません。「調整は2回まで」「判断の日は動かさない」のように、戻ってよい回数と期限をステップ4の時点で決めておきましょう。成功基準そのものを途中で下げることは、判断する人と改めて合意しない限り避けます。

次の章からは、ステップ1〜5の設計の中身と、ステップ7の判断のしかたを、順に詳しく見ていきます。

PoCの目的と仮説の立て方

PoCの目的と仮説の立て方

AIのPoCの設計は、目的と仮説を言葉にするところから始まります。「AIで何かできないか」という問いのままでは、何を作り、何を測ればよいのかが決まりません。

解決したい課題を1文で書く

まず、「どの業務の」「どんな課題を」「どうしたいのか」を1文で書きます。たとえば「請求書の入力に経理の担当者が毎月40時間かかっており、これを半分にしたい」のような形です。経済産業省の契約ガイドラインも、「とりあえずAIを導入したい」という漠然とした考えのまま開発を頼むケースが少なくないことを挙げ、何を解決したいのかという課題の設定が重要だとしています。

確かめたい仮説を数字で置く

課題が決まったら、「AIを使えば、請求書1件あたりの入力と確認の時間を5分から2分に減らせる」のように、確かめたい仮説を数字で置きます。仮説が数字になっていれば、PoCの結果が仮説どおりだったのかを、だれが見ても同じように判断できます。

仮説は1つのPoCで1〜3つに絞りましょう。確かめたいことを増やすほど、作るものも測るものも増え、期間と費用がふくらみます。

AIを使う前の数字を測っておく

仮説と比べるために、AIを使う前の作業時間、処理件数、誤りの件数を測っておきます。今の数字を測っていないと、PoCのあとで効果があったのかどうかを判断できません。「1件あたり何分」「月に何件」の2つだけでもよいので、担当者に1〜2週間記録してもらいましょう。

PoCの対象業務の選び方

PoCの対象業務の選び方

対象業務の選び方は、PoCの設計の出発点です。最初のPoCでどの業務を選ぶかで、その後のAI導入の進みやすさが変わります。効果がはっきり出れば社内の協力を得やすくなり、反対に判断のつかない結果になると、次の取り組みが進みにくくなるためです。

対象業務を選ぶ5つの問い

候補の業務ごとに、次の5つの問いに「はい」がいくつ付くかを数えてみてください。「はい」が多い業務ほど、PoCの対象に向いています。

問い 「はい」の目安
件数が多く、くり返し発生する業務か 月に数百件以上、または毎日発生している
かかっている時間を測れる業務か 1件あたりの時間や月の合計時間がわかる
正解や合格の条件を言葉にできる業務か ベテランがどう判断しているかを説明できる
AIが誤っても、人が気づいて直せる業務か 社外に出る前や確定する前に、人が見る工程がある
AIに読ませるデータが手元にあるか 過去の書類や記録がデータで数百件以上ある

最初のPoCに向かない業務

お金の支払いや契約の判断、医療や安全に関わる判断のように、誤ったときの影響が大きい業務は、最初のPoCには向きません。また、件数が少ない業務や、担当者ごとにやり方がばらばらな業務も、効果を測りにくいため避けたほうが無難です。最初は、効果が大きい業務よりも、効果を測りやすく、誤っても直せる業務を選びましょう。

生成AIと予測・認識のAIでの違い

同じAIのPoCでも、使うAIの種類で設計の重心が変わります。文章の作成や要約、社内の文書検索に使う生成AIは、既存のサービスを使えるため作る部分は小さく、評価の基準づくりと現場での使われ方の確認が中心になります。一方、画像の検査や需要の予測のように、自社のデータで学習させるAIは、データを集めて整える作業と、精度を上げる試行錯誤に時間がかかります。

評価データの作り方

評価データの作り方

PoCの設計で最初に用意するのは、画面でもプログラムでもなく、AIの出力を採点するための評価データです。評価データがないと、出力を見た人の印象で良し悪しが決まり、改善できたのかどうかもわかりません。

実際の業務の入力を集める

評価データには、現場で実際に発生した書類や問い合わせを使います。よくある入力だけでなく、読み取りにくい書類、例外的な問い合わせ、項目が欠けた入力も含めておきましょう。整えたサンプルだけで評価すると、本番で想定していなかった誤りが出やすくなります。

件数は業務によって違いますが、入力の種類ごとに傾向が読み取れるだけの数が必要です。まずは数十〜100件ほどで始め、誤りが出た種類の入力を足していく進め方が現実的です。

正解と採点の基準を決める

集めた入力ごとに、期待する出力、または合格とする条件を決めます。決めるのは、その業務に詳しい担当者です。担当者によって判断が分かれた例は記録しておき、話し合って基準をそろえます。正解を決める作業は手間がかかりますが、ベテランの判断の基準が言葉になること自体が、PoCの成果の1つになります。

生成AIは観点ごとの採点表で評価する

文章の要約や回答の下書きのように、正解が1つに決まらない作業では、観点ごとの採点表を作り、人が採点します。

観点 合格の条件の例
正しさ 事実と異なる内容や、根拠のない内容を含まない
抜け 回答に必要な項目がすべて入っている
根拠 参照した社内の文書や規程を示している
表現 社内の言葉づかいや表記のルールに合っている
そのまま使えるか 担当者が直さずに、または少しの修正で使える

採点する人によって結果がぶれないよう、条件はできるだけ具体的に書きます。一部の出力を2人で採点し、結果がどれだけ一致するかを確かめておくと安心です。

調整用と評価用のデータを分ける

AIへの指示の書き方や、参照させる情報を調整するときに使うデータと、最後に精度を測るデータは分けておきます。調整に使ったデータで精度を測ると、実力より良い結果が出てしまうためです。

AIに「学習させる」のか「参照させる」のか

自社のデータをAIに使わせる方法には、大きく2つあります。1つは、自社のデータでAIそのものを学習させる方法です。画像の検査や需要の予測ではこちらが中心で、学習用のデータを集めて正解を付ける作業に時間がかかります。学習したデータの内容はAIの中に取り込まれるため、あとから一部だけを消すことは簡単ではありません。

もう1つは、社内の規程や手順書をAIに検索させ、その内容をもとに答えさせる方法です。RAG(検索拡張生成)とも呼ばれます。文書を差し替えれば答えの中身も変わるため、更新しやすいのが特長です。その分、どの文書を読ませるか、閲覧の権限をどう守るかの設計が大切になります。どちらの方法で確かめるのかによって、用意するデータも、データの扱いで確かめることも変わるため、PoCの計画の段階で決めておきましょう。

成功基準と合否の決め方

成功基準と合否の決め方

成功基準は、PoCの設計の中で最も大切な部分です。「便利そう」「使えそう」という感想で終わらせず、本番に進むかどうかを数字で決められるようにしておきます。

技術の指標と業務の指標をセットで決める

成功基準は、AIの精度などの技術の指標と、作業時間などの業務の指標をセットで決めます。精度だけを基準にすると、「精度は95%出たが、確認に時間がかかって作業は減らなかった」という結果でも合格になってしまいます。業務別の指標の例は次のとおりです。

対象の業務 技術の指標の例 業務の指標の例
請求書・注文書の読み取り 項目ごとの読み取りの正解率 1件あたりの入力と確認の時間
問い合わせの回答の下書き 採点表で合格した回答の割合 1件あたりの対応時間、そのまま使えた割合
社内の文書検索 正しい文書を示せた割合 探す時間、担当部署への問い合わせ件数
議事録・報告書の作成 抜けや誤りの件数 作成と修正にかかった時間
需要の予測 予測と実績の誤差 欠品や在庫の余りの数
製品の外観検査 不良の見逃しの割合、良品を不良とした割合 検査にかかる人数と時間

精度以外の条件も決めておく

精度がどの水準なら十分かは、精度の数字だけでは決まりません。次の3つをあわせて考えます。

1つ目は、AIが誤ったときの影響です。社内の文書の分類を誤る場合と、お客様への回答を誤る場合では、影響の大きさがまったく違います。また、見つけるべきものを見逃す誤りと、問題のないものを問題ありとする誤りでは、許せる範囲が違います。2つ目は、人の確認にかかる時間です。人が確認してから使う前提なら、確認の時間を含めて、AIを使わない場合より短くなるかを確かめます。3つ目は、運用にかかる費用です。AIの利用料に加え、精度を見守り、調整を続ける人の手間も見積もっておきます。

合否のラインは始める前に合意する

成功基準は、PoCを始める前に、本番化を判断する人と合意しておきます。結果が出てから「この精度で十分か」を話し合うと、期待や思い入れで判断がぶれるためです。どの数字なら進む、見直す、止めるのかを、検証の前に決めておくことが大切です。

止める基準も先に文章にしておく

合格のラインだけを決めておくと、届かなかったときに「もう少し続ければ届くかもしれない」と考えてしまいがちです。そこで、どの結果が出たら止めるのかも、始める前に文章にしておきます。止める基準の例は次のとおりです。

止める基準の例 止める理由
評価データでの精度が、決めた下限に届かない 現場での試用に進んでも、確認と修正の手間が減らない
決めた回数の調整をしても、精度が伸びない 今の方法やデータでは、これ以上の改善が見込みにくい
使いたいデータを外部のAIに入れられないとわかった 前提の作り方では本番に進めない
現場の担当者が試用の時間を確保できない 業務の効果と使われ方を確かめられない
本番の費用の概算が、見込める効果額を大きく超える 合格しても投資の判断が通らない

止める基準を決めておくと、止めるという判断がだれかの失敗ではなく、約束どおりの結果として扱えます。延長する場合も、延長は1回までとし、延長して確かめることと期限を決め直してから進めましょう。

指標ごとに書き込む合否判定シート

成功基準と止める基準は、指標ごとに1行ずつ並べた判定シートにまとめておくと、始める前の合意にも、終わったあとの判断にも使えます。請求書の読み取りのPoCを例にすると、次のような形です。結果と判定の欄は、PoCが終わってから書き込みます。

指標 合格のライン 止める基準 結果 判定
項目ごとの読み取りの正解率 95%以上 85%未満 終了後に記入 合格・見直し・止める
1件あたりの入力と確認の時間 2分以下 4分以上 終了後に記入 合格・見直し・止める
試用後も使い続けたいと答えた担当者 3名中2名以上 0名 終了後に記入 合格・見直し・止める
本番での月のAIの利用料の見込み 5万円以内 10万円を超える 終了後に記入 合格・見直し・止める

数字は書き方の例です。自社の業務の影響の大きさと、今の数字に合わせて決めてください。合格のラインと止める基準のあいだに入った指標は「見直し」として、次の判定表で次の一手を決めます。

そのまま使える合否の判定表

PoCが終わったら、結果を次の判定表に当てはめて、次の一手を決めます。

PoCの結果 判定 次の一手
技術・業務・現場・費用の基準をすべて満たした 合格 本番化の計画と見積もりに進む
一部の種類の入力でだけ基準を満たした 範囲を絞って合格 基準を満たした種類に絞って本番化する
業務の効果は出たが、費用に見合わない 条件付きで再検証 作り方や範囲を変えて、期限を決めて再検証する
精度は足りたが、現場で使われなかった 条件付きで再検証 使い方・画面・手順を見直し、短い期間で再検証する
精度も業務の効果も基準に届かなかった 不合格 中止して、別の業務や別の方法を検討する

不合格も、PoCの立派な成果です。本番の開発に大きな費用をかける前に、効果が出ないとわかったのですから、損失を小さく抑えられたことになります。

PoCの期間と体制

PoCの期間と体制

期間と体制の設計は、PoCの費用と、結果を本番につなげられるかを左右します。期間は短すぎても長すぎても判断を誤りやすく、体制に本番化を判断する人が入っていないと、結果が出ても次に進めません。

PoCの期間の目安

PoCの期間は、使うAIの種類と、データの準備の状況で変わります。目安は次のとおりです。

PoCの種類 期間の目安 時間がかかる作業
既存の生成AIサービスを業務で試す 1〜2か月 評価の基準づくり、現場での試用
生成AIを社内の文書やシステムとつなぐ 2〜3か月 文書の整理、つなぐ仕組みづくり、権限の確認
自社のデータでAIを学習させる 3〜6か月 データの収集と整備、精度を上げる試行錯誤

あわせて、対象の業務の周期も考えます。月に1回の業務なら、1か月の試用では1回分しか結果が取れません。現場での試用は、対象の業務が少なくとも2回まわるだけの期間を取りましょう。始めたばかりの物珍しさで評価が高く出ることも避けられます。

8週間で進める場合の日程の例

既存の生成AIサービスを社内の文書とつなぎ、1つの業務で確かめる場合の、8週間の日程の例です。7つのステップを週ごとに割り振ると、次のようになります。

時期 主な作業 この時期の区切り
1週目 目的と仮説、対象と範囲を決める 判断する人と目的・範囲を合意する
2週目 今の数字を測り始める。データの扱いを確かめる 使ってよいデータが決まる
3週目 評価データを集め、正解と採点の基準を決める 合否判定シートを合意する
4週目 最小限の仕組みを作り、評価データで1回目の測定をする 中間報告で進み具合を共有する
5週目 指示の書き方や参照させる文書を調整し、2回目の測定をする 現場の試用に進むかを決める
6〜7週目 現場の担当者が実際の業務で使い、時間と修正の量を記録する 試用の記録がそろう
8週目 結果を判定シートとレポートにまとめ、本番化の概算を出す 判断の会議で次の一手を決める

自社のデータでAIを学習させる場合は、2〜3週目のデータの準備と、4〜5週目の精度を上げる作業に、この倍以上の時間を見ておきましょう。

期間が延びる原因と防ぎ方

PoCの期間が延びる原因は、AIの精度よりも、段取りの遅れであることが少なくありません。よくある原因と防ぎ方をまとめました。

延びる原因 防ぎ方
データを取り出す社内の申請や承認に時間がかかる 着手の前にデータを取り出し、手元にそろえておく
業務の担当者が正解づけや試用の時間を取れない PoCの作業の時間を、担当者の予定に先に入れておく
情報システムや法務の確認待ちで止まる ステップ5で確認を終え、検証中に新しいデータを足さない
途中で「この業務も試したい」と範囲が増える 追加の要望は次のPoCの候補として一覧に残す
判断の会議の日程が決まらない 計画の段階で、判断の日を関係者の予定に入れておく

社内の体制と役割

PoCは、技術の担当者だけで進めると、業務に合わない結果になりがちです。業務側と技術側、そして本番化を判断する人が、始めから関わる体制を組みます。

役割 担う人の例 PoCでの主な仕事
判断する人 役員、部門長 成功基準の合意、本番化の判断、予算の承認
推進役 DX推進・企画の担当者 計画づくり、日程の管理、関係者のとりまとめ
業務の担当者 対象業務の現場のベテラン 正解の決定、採点、実際の業務での試用
情報システム・法務 情報システム部門、法務の担当者 データの扱い、権限、セキュリティ、契約の確認
外部の支援会社 AIのコンサル会社、開発会社 設計の支援、仕組みづくり、精度の検証、レポート

業務の担当者には、PoCの作業の時間を業務時間の中で確保してもらいましょう。ふだんの業務の合間だけでは、採点や試用が進まず、期間が延びる原因になります。

データの扱いは着手前に確かめる

PoCが途中で止まる原因になりやすいのが、データの扱いです。使いたいデータを今回の目的で使ってよいか、個人情報や機密情報が含まれていないか、外部のAIサービスに入力したデータが学習に使われないか、利用者ごとの閲覧の権限をAIでも守れるかを、着手前に確かめます。

経済産業省の『AIの利用・開発に関する契約チェックリスト』(2025年2月)は、AIサービスに入力したデータが学習に使われるかどうかや、個人情報・セキュリティの扱いなど、契約のときに確かめたい点をまとめています(出典:経済産業省『AIの利用・開発に関する契約チェックリスト』)。社内のルールづくりは 生成AIの情報漏洩対策ガイド もあわせてご覧ください。

データをどこに置いて検証するかも、着手前に決めておきたい点です。クラウドのAIサービスを使う形なら短い期間で始められますが、社外に出せないデータがある場合は、社内の環境で動かすAIや、学習に使わない契約のサービスに絞って検証することになります。PoCと本番で置き場が変わると、精度も費用も変わってしまうため、本番で使える形のままPoCを行うのが基本です。

本番化への判断と進め方

本番化への判断と進め方

PoCに合格しても、そのままの仕組みで本番に使えるわけではありません。本番化の判断では、PoCの結果に加えて、本番で必要になる作業と費用を見積もったうえで決めます。

本番で作り直すことが多い部分

PoCでは、検証に必要な最小限の仕組みしか作りません。本番を見すえてPoCを設計していないと、仕組みの多くを作り直すことになります。本番では、利用者ごとの権限の管理、既存のシステムとの連携、データを継続して取り込む仕組み、AIの精度を見守る仕組み、誤ったときの対応の手順、問い合わせの窓口などが新たに必要になります。PoCの結果をまとめるときに、これらの作業の量と費用を見積もっておきましょう。

本番で運用する人をPoCの段階で決める

本番化で止まりやすいのが、「だれが運用するのか」が決まっていないケースです。本番に入ると、AIの精度を定期的に確かめる、参照させる文書を新しくする、利用者からの問い合わせに答える、誤りが見つかったときに直す、といった仕事が毎月発生します。

これらを担う部署と担当者を、PoCの計画の段階で仮に決めておきましょう。運用する人がPoCの試用や採点に加わっていれば、本番への引き継ぎもなめらかになります。外部に頼む場合は、運用のどこまでを任せ、どこを社内で持つのかも、このときに整理しておきます。

人とAIの役割分担を決める

AIの精度が100%になることはないため、本番では人がどこを確認するかをあらかじめ決めておきます。役割分担はPoCの結果を見てから調整するもので、精度が足りないときに本番化をあきらめる前に、人の確認を組み合わせれば使えないかを考えてみてください。

役割分担の形 進め方 向いている場合
全件を人が確認する AIの出力を下書きとして使い、人が目を通してから確定する 誤りの影響が大きい、精度が合格のラインぎりぎり
自信の低い分だけ人が確認する AIが確からしさを示し、低いものだけ人の確認に回す 件数が多く、確からしさを出せる仕組みにできる
抜き取りで確認する 決めた割合だけを後から確認し、誤りが増えていないかを見る 誤りの影響が小さく、精度が安定して高い
人の確認をなくす AIの出力をそのまま業務に流す 誤っても取り返せる業務に限る

どの形にするかで、本番で削減できる時間も変わります。PoCで測った時間は、選んだ役割分担に合わせて計算し直しておきましょう。

本番化の費用を見積もって判断する

本番化の判断では、PoCで測った効果額と、本番の開発費・毎月の運用費を並べます。初年度の費用だけで判断せず、2〜3年の総額と効果で比べることが大切です。開発から研修や運用まで含めたAI導入全体の費用は AI導入の費用相場 で詳しく解説しています。

並べるときは、何か月で初期の費用を取り戻せるかという形にすると、判断する人にも伝わりやすくなります。請求書の読み取りを例に、PoCで測った数字から組み立てると次のようになります。

項目 組み立て方 例
毎月の効果額 (PoC前の1件あたりの時間 − PoC後の時間)× 月の件数 × 人件費の時間あたりの単価 (5分 − 2分)× 600件 × 3,000円 ÷ 60分 = 9万円
毎月の運用費 AIの利用料+保守費+精度を見守る人の時間 3万円
毎月の差額 毎月の効果額 − 毎月の運用費 6万円
初期の費用 本番の開発費+データの準備+研修 180万円
取り戻すまでの月数 初期の費用 ÷ 毎月の差額 30か月

数字は組み立て方を示すための例です。この例では取り戻すまでに30か月かかるため、対象の件数を増やせるか、本番の範囲を絞って初期の費用を下げられるかを検討することになります。社内に投資を判断する目安(たとえば24か月以内)があれば、PoCの成功基準にその月数を入れておくと、終わったあとの判断が早くなります。

本番化の判断のセルフチェック

判定シートで合格になったら、本番化を決める前に、次の項目を確かめてください。「いいえ」が残る項目は、本番化の計画の中で手当てするか、片づいてから進めます。

確かめる項目 「はい」と言える状態
運用の体制 精度の確認、文書の更新、問い合わせへの対応を担う人が決まっている
データ 本番で使うデータを継続して取り込め、閲覧の権限も守れる
費用 本番の開発費と毎月の運用費を見積もり、2〜3年の効果額と比べた
現場の受け入れ 試用した担当者が使い続けたいと答え、使い方の手順が決まっている
誤ったときの備え AIが誤ったときに、だれが気づき、どう直すかが決まっている
セキュリティと契約 情報システムと法務の確認が済み、利用するサービスの契約の条件を確かめた
判断する人の了承 本番の範囲、予算、始める時期について、判断する人の了承がある

稟議や社内説明の資料の組み立て方

本番化の予算を通すための資料は、PoCで残したものを並べ直せば作れます。次の順に組み立てると、読む人が判断しやすくなります。

順番 書くこと 使うもの
1 解決したい課題と、AIを使う前の数字 目的の1文、今の数字の記録
2 PoCで確かめたことと結果 合否判定シート、評価レポート
3 基準に届かなかった項目と、その手当て 誤りの一覧、試用の記録
4 本番の範囲と、作り直す部分 本番化の概算、作業の一覧
5 2〜3年の費用と効果額 開発費・運用費の見積もり、効果額の試算
6 運用の体制と、始める時期・広げ方 役割の表、本番の日程

良い結果だけを並べるよりも、届かなかった項目とその手当てを正直に書いたほうが、判断する人は安心して承認できます。

小さな範囲の本番から広げる

本番化は、いきなり全社に広げず、PoCと同じ部署から始めます。まずは1つの部署で数か月使い、利用の状況と効果を毎月確かめながら、次の部署や業務へ広げていきます。使い方の手順書や、よくある質問をまとめておくと、広げるときの負担が小さくなります。社員への展開の進め方は 企業向けAI研修サービス で解説しています。

本番に入ったあとも精度を見守る

AIの精度は、本番に入ったあとも同じとは限りません。書類の書式が変わる、新しい商品の問い合わせが増える、参照させる規程が改定されるといった変化で、少しずつ誤りが増えることがあります。

PoCで作った評価データと採点表は、本番でもそのまま使えます。月に1回など周期を決めて、一部の出力を採点表で採点し、PoCのときの結果と比べましょう。誤りが増えていれば、指示の書き方や参照させる文書を見直します。PoCで作った仕組みが、本番の改善の土台にもなります。

あわせて、どこまで悪くなったら人の確認に戻すのかも決めておきます。採点の結果が合格のラインを下回った月は、いったん全件を人が確認する形に戻し、原因を直してから元の役割分担に戻す、という手順を決めておけば、業務を止めずに立て直せます。

PoCで終わってしまう原因と対策

PoCで終わる原因と対策

PoCを行ったものの本番に進めない状態は、「PoC止まり」「PoC疲れ」とも呼ばれます。よくある原因は次の5つで、どれもPoCの設計の段階で防げるものです。

目的と成功基準があいまい

「AIで何ができるか試してみよう」と始めたPoCは、結果が出ても良いのか悪いのかを判断できません。目的を1文で書き、成功基準を数字で決めてから始めることが、何よりの対策です。

範囲を広げすぎて終わらない

せっかくならと、複数の業務や機能をまとめて確かめようとすると、作るものが増えて期間が延び、途中で関係者の関心も薄れていきます。1回のPoCで確かめる業務は1つにし、ほかの業務は次のPoCに回しましょう。

整えたデータでしか試していない

担当者がきれいに整えたデータで高い精度が出ても、本番のデータで同じ結果が出るとは限りません。本番でデータを整える作業に人手がかかれば、AIで減らした時間が打ち消されてしまいます。PoCでも、できるだけ本番に近いデータを使いましょう。

本番化を判断する人が関わっていない

現場や情報システム部門だけでPoCを進めると、結果が良くても、経営の判断や予算の承認で止まってしまいます。本番化を判断する人を、計画の段階から関係者に入れておきましょう。途中で中間報告の場を設けると、関心を保ちやすくなります。

期限を決めずに延長を繰り返す

「データを増やせば良くなるかもしれない」「別のAIなら届くかもしれない」と、期限を決めずに検証を続けると、費用だけがかさみます。PoCが終わらないことも、PoCで終わることと同じくらいよくある失敗です。判断の日をあらかじめ決め、延長するときも期限と確かめることを決め直しましょう。

業務別のAIのPoCのテーマ例

業務別のPoCのテーマ例

PoCのテーマを考えるときの参考に、よく選ばれる業務と、設計のときに確かめるポイントをまとめました。

書類の読み取りとデータ化

請求書や注文書、申込書をAIで読み取り、システムに入力するテーマです。項目ごとの読み取りの正解率に加えて、手書きや形式の違う書類でどこまで読めるか、確認と修正にかかる時間を確かめます。

問い合わせ対応の回答の下書き

お客様や社員からの問い合わせに対して、過去の回答や規程をもとに生成AIで回答の下書きを作るテーマです。回答の正しさと根拠の示し方を採点表で評価し、担当者がそのまま使えた割合と対応時間を測ります。

社内の文書やナレッジの検索

社内の規程や手順書、過去の資料から、質問に合う情報をAIに探させるテーマです。正しい文書を示せるかに加え、閲覧の権限のない人に情報が見えないか、文書が古くなったときにどう更新するかも確かめます。

需要の予測と在庫の計画

過去の販売の実績や季節の要因から、商品の需要をAIで予測するテーマです。予測の誤差だけでなく、予測を使って発注したときに欠品や在庫の余りがどれだけ減るかまで確かめます。データを集めて整える作業に時間がかかるため、期間は長めに見ておきましょう。

製品の外観検査

製品の画像からキズや汚れをAIで見つけるテーマです。不良の見逃しを許せる範囲を先に決め、見逃しの割合と、良品を不良と判定した割合の両方を測ります。撮影の条件をそろえる設備の準備も必要になります。

用途ごとに変わる検証のポイント

ここまでのテーマを、使うAIの種類ごとにまとめると次のようになります。同じ進め方でも、時間をかけるところと気をつけることが変わります。

使うAIの種類 主に確かめること 時間がかかるところ 気をつけること
生成AI(文書の作成、問い合わせの対応、文書の検索) 採点表での合格の割合、そのまま使えた割合 採点の基準づくり、現場での試用 事実と違う内容が混ざること、入力するデータの扱い
予測のAI(需要の予測、異常の検知) 予測の誤差、欠品や在庫の余りの変化 データの収集と整備 季節や業務の周期をまたいで確かめること
画像を見分けるAI(外観検査、書類の読み取り) 見逃しの割合、誤って判定した割合 撮影の条件づくり、不良の画像集め 不良の画像が少ないと精度を測りにくいこと
AIエージェント(複数の作業を続けて任せる) 任せた作業をやり切れた割合、人が止めた回数 権限と承認の手順の設計 誤った操作を止め、取り消せること

AIのPoCの費用の目安

AIのPoCの費用の目安

外部に頼むAIのPoCの費用は、数十万〜500万円程度と幅があります。既存の生成AIサービスを使い、1つの業務に絞って確かめるなら数十万〜200万円程度、自社のデータでAIを学習させる検証なら数百万円程度を見ておくとよいでしょう。費用を左右するのは、主に次の3つです。

費用を左右するもの 費用が上がる例
データの準備 データが紙や複数のシステムに散らばり、集めて整える作業が多い
検証の範囲 対象の業務や書類の種類、つなぐシステムが多い
期間と人数 精度を上げる試行錯誤が長引き、関わる技術者が増える

見積もりを比べるときは、評価データづくりやレポートが含まれているか、本番化の概算まで出してもらえるかを確かめましょう。工程ごとの費用の目安とAI導入全体の費用は AI導入の費用相場 で詳しく解説しています。

PoCの費用の内訳

PoCの費用は、外部に払う金額だけではありません。社内の人の時間も含めて、次の4つに分けて見積もると、抜けが少なくなります。

費用の項目 中身 見落としやすい点
社内の人の時間 推進役、業務の担当者、判断する人の時間 正解づけ、採点、現場での試用にかかる時間
外部の支援費 設計の支援、仕組みづくり、精度の検証、レポート 評価データづくりと本番化の概算が含まれるか
AIの利用料・環境の費用 生成AIのAPIの利用料、クラウド、ツールの利用料 本番の利用量では金額が大きく変わる
データの準備の費用 データの取り出し、整理、紙の書類の電子化 データが散らばっているほど増える

範囲を絞って費用を抑える

PoCの費用を抑えるいちばんの方法は、確かめる範囲を判断に必要な分だけに絞ることです。対象の業務は1つ、書類の種類や利用者も一部に絞り、既存の生成AIサービスで確かめられることは一から作りません。

画面の作り込みも、PoCの段階では最小限で十分です。採点や記録は表計算のファイルで行い、見た目の整った画面は本番化が決まってから作りましょう。範囲を絞った分、判断の日を早められ、合格したときに次の業務へ広げる計画も立てやすくなります。

本番化までの費用を見通しておく

PoCの費用は、AI導入の費用の入り口にすぎません。合格したあとには、本番の開発費、毎月の運用費、利用者への研修の費用が続きます。PoCの見積もりを取るときに、本番化した場合の費用と期間の概算もあわせて出してもらうと、PoCに合格しても予算が足りずに止まる、という事態を防げます。

PoCで作ったものを本番でどこまで使えるかも、見積もりの前に確かめておきたい点です。本番を見すえた作り方にしておけば、作り直す部分が減り、本番の費用も抑えやすくなります。

そのまま使えるPoC計画書の項目

PoC計画書の項目

ここまでのPoCの設計の内容を、1枚の計画書にまとめておくと、関係者との合意や外部への依頼がスムーズになります。次の項目を埋めれば、PoCの計画書として使えます。

項目 書く内容 書き方の例
目的 解決したい課題を1文で 請求書の入力にかかる月40時間を半分にする
仮説 確かめたいことを数字で 1件あたりの入力と確認を5分から2分にできる
対象と範囲 業務・部署・利用者・書類の種類 経理課の3名、取引先上位20社の請求書
今の数字 AIを使う前の時間・件数・誤り 月800件、1件5分、入力の誤り月12件
評価データ 件数、集め方、正解を決める人 過去3か月の請求書150件、正解は経理の主任が決める
成功基準 技術と業務の指標と合否のライン 項目の正解率95%以上、1件2分以下で合格
止める基準 どの結果が出たら止めるか 正解率85%未満、または調整2回で伸びなければ中止
精度以外の条件 誤りの影響、人の確認、運用費 金額の欄は全件を人が確認する。月の利用料は5万円以内
期間と日程 開始日、中間報告、判断の日 10月から2か月、中間報告は4週目、判断は12月第2週
体制 判断する人、推進役、業務の担当者、外部 判断は管理部長、推進は経営企画、構築は外部
本番の運用 本番化したときに運用を担う人 経理課の主任が精度の確認と問い合わせを担当
データの扱い 使うデータ、入力してよい範囲、保管 学習に使われない設定の法人向けプランを使う
費用 PoCの費用と社内の工数 外部の費用と、担当者の工数月10時間
成果物 PoCのあとに手元に残るもの 評価レポート、評価データ、本番化の概算
判断のあと 合格・再検証・不合格のそれぞれの次の一手 合格なら翌期の予算で本番化、不合格なら中止

計画書の項目が埋まらないうちは、PoCを始めないほうが安全です。埋まらない項目は、社内で決めきれていないことや、外部に相談すべきことを教えてくれます。

AIコンサルや開発会社にPoCを頼むとき

外部にPoCを頼むとき

社内にAIに詳しい人がいない場合は、PoCの設計から、AIコンサルや開発会社などの外部に頼むのも1つの方法です。ここでは、外部に頼んだほうがよいケースと、依頼先を選ぶときに確かめたい点をまとめます。支援会社の比べ方は AI導入支援とは?おすすめ会社の比較と選び方、相談の費用は AIコンサルティングの費用相場 で詳しく解説しています。

PR|AIBUILDERZ AI導入支援サービス

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AIBUILDERZ|AI導入支援サービス

システム構築は成果報酬型。AI研修から導入・構築・定着まで一気通貫で支援

AIBUILDERZ

AI研修からシステムの導入・構築・定着まで、一気通貫で支援するサービスです。業務アプリの構築費は事前にいただかず、実際に稼働させ、効果をご確認いただいてからお支払いが始まります。成果報酬型での対応は、当社が小規模と定義するシステムが対象です。

  • 業種・規模を問わず支援どの業務からAIやシステムに置き換えるかを一緒に決め、効果の大きい業務から順に進めます。
  • システム構築は成果報酬型業務アプリの構築費は事前にいただきません。稼働させ、効果をご確認いただいてからお支払いが始まります。
  • AI導入の効果を可視化置き換える業務を一覧にし、導入前後の時間から、空いた時間とかからなくなった費用を毎月記録します。
  • 小さく始めて、リスクを管理影響の小さい業務から始め、AIの実行結果は担当者が確認・承認してから反映します。

自社で進めるか、外部に頼むかの目安

社内の状況 進め方の目安
既存の生成AIツールを試すだけで、評価と試用を回せる人がいる 自社で進められる
対象の業務は決まっているが、成功基準や評価の方法に迷っている 設計だけを外部に相談する
社内のデータやシステムとつなぐ仕組みが必要 設計と構築を外部に頼む
自社のデータでAIを学習させる必要がある AIの開発に強い会社に頼む

納品型と伴走型の違い

外部への頼み方は、大きく「納品型」と「伴走型」に分けられます。どちらが良いかは、PoCのあとに社内で何を担いたいかで決まります。

頼み方 進め方 向いている場合 確かめたい点
納品型 決めた範囲の検証を外部が行い、レポートや試作の仕組みを納める 確かめたいことがはっきりしていて、社内に判断できる人がいる 評価データや仕組みが手元に残るか、本番化の概算が含まれるか
伴走型 目的の整理から評価、本番化の判断まで、社内の担当者と一緒に進める 何から確かめるべきか迷っている、社内に進め方を残したい 社内の担当者が何を担うか、支援の期間と終わり方が決まっているか

初めてのPoCでは、成功基準や評価データの作り方を社内に残せる伴走型のほうが、2回目以降のPoCや本番化を自社で進めやすくなります。

契約の前に決めておきたいこと

経済産業省の契約ガイドラインでは、PoCの段階の成果物はレポートや試作の学習済みモデルなどが中心で、「導入検証契約」のような形で結ぶことを想定しています。また、PoCの段階ではさまざまな作業が対象になりうるため、対象の範囲と期間を合意しておくことが重要だとしています。1回で終わらず、複数回に分けて行うことも少なくありません。

契約の前に、PoCの範囲と期間、手元に残る成果物、提供するデータの扱い、作られた仕組みやAIの権利、本番化に進む場合の条件を、書面で確かめておきましょう。

依頼先に聞いておきたい質問

聞いておきたい質問 確かめたいこと
PoCが終わったとき、何が手元に残りますか レポート・評価データ・試作の仕組みが残るか
成功基準と評価データは、だれがどう作りますか 設計から一緒に作ってくれるか
止める基準は、どのように決めますか 届かなかったときの判断を先に決める姿勢があるか
本番化する場合の費用と期間の概算を出せますか PoCのあとの投資の大きさがわかるか
提供したデータは、AIの学習などほかの目的に使われますか データの扱いが契約で決まっているか
本番化と運用まで支援できますか PoCのあとに引き継ぎの手間がかからないか
途中で止める場合、費用はどうなりますか 中止の判断をしやすい契約か

見送ったほうがよいPoCの提案

次のような提案は、PoCが判断の材料にならないまま、費用だけがかかるおそれがあります。見積もりの金額よりも先に、PoCの設計の中身を確かめましょう。

提案の内容 見送ったほうがよい理由
成功基準を決めずに「まず作ってみましょう」と勧める 結果が出ても、本番に進むかを判断できない
期間や回数の上限がなく、延長を前提にしている 検証が終わらず、費用がかさみ続ける
整えたサンプルのデータだけで精度を示す 本番のデータで同じ精度が出るとは限らない
最初から複数の業務をまとめて検証する 範囲が広すぎて、期間と費用がふくらむ
成果物がデモだけで、評価のレポートが残らない 社内で本番化を説明する材料にならない
本番化の費用や作り直しの範囲を示さない 合格したあとに、想定外の費用がかかる

AIのPoCに関するよくある質問

よくある質問
Q. AIのPoCの期間は、どのくらいが目安ですか?
既存の生成AIサービスを業務で試すなら1〜2か月、社内の文書やシステムとつなぐなら2〜3か月、自社のデータで学習させるなら3〜6か月が目安です。対象の業務が少なくとも2回まわるだけの期間を取りましょう。
Q. PoCの費用はどのくらいかかりますか?
外部に頼む場合、数十万〜500万円程度と幅があります。既存の生成AIサービスを使って1つの業務で確かめるなら数十万〜200万円程度、自社のデータで学習させるなら数百万円程度が目安です。詳しくは AI導入の費用相場 をご覧ください。
Q. PoCの費用は、だれが負担するものですか?
外部に頼む場合は、依頼する側が支払うのが基本です。無償や一部負担のPoCを提案されることもありますが、その場合は、成果物やデータの権利がどちらにあるか、本番の開発をその会社に頼むことが前提になっていないかを、契約の前に確かめましょう。社内で進める場合も、担当者の時間という費用がかかります。
Q. PoCを設計するとき、成功基準の精度は何%にすればよいですか?
一律の答えはありません。AIが誤ったときの影響と、人が確認する工程があるかで決まります。人が必ず確認する業務なら、精度がそれほど高くなくても作業時間が減れば合格にできます。お客様に直接届く業務では、高い精度と誤りへの備えが必要です。
Q. 評価データは何件くらい必要ですか?
業務によって違いますが、入力の種類ごとに傾向が読み取れるだけの数が必要です。まずは数十〜100件ほどで始め、誤りが出た種類の入力を足していくのが現実的です。調整に使うデータと、最後に精度を測るデータは分けておきましょう。
Q. データが少なくても、PoCはできますか?
できる場合があります。既存の生成AIに社内の文書を参照させる形なら、文書がそろっていれば、学習用の大量のデータがなくても試せます。一方、自社のデータでAIを学習させる形では、データが足りるかどうかを確かめることを、最初のPoCの目的にするのも1つの方法です。
Q. PoCとパイロット(実証実験)は、何が違いますか?
PoCは、AIで実現できるか、効果が出るかを小さく確かめる段階です。パイロットは、PoCで見込みが立ったあとに、実際の現場で一定期間使い、業務の中で回るかを確かめる段階です。実際には、PoCの後半で現場の試用を行い、パイロットに近い形で確かめることもよくあります。
Q. 生成AIのPoCは、通常のAIのPoCと何が違いますか?
生成AIは既存のサービスを使えるため、作る部分が小さく、短い期間で試せます。その分、正解が1つに決まらない出力をどう採点するか、現場で使い続けられるか、入力したデータの扱いをどうするかが設計の中心になります。
Q. AIエージェントのPoCでは、何を確かめればよいですか?
精度や作業時間に加えて、AIに任せる操作の範囲、人が承認する場所、誤った操作を止めたり取り消したりできるか、AIが何をしたかの記録が残るかを確かめます。任せた作業を最後までやり切れた割合と、人が途中で止めた回数も記録しておくと、本番化の判断に使えます。
Q. PoCの結果が不合格だったら、費用はむだになりますか?
むだにはなりません。本番の開発に大きな費用をかける前に、効果が出ないとわかったこと自体が成果です。誤りの種類を分けておけば、対象を絞れば使えるのか、別の方法を試すべきかの判断にもつながります。
Q. PoCに補助金は使えますか?
PoCの費用が対象になるかは、補助金の種類と公募の回によって違います。たとえばデジタル化・AI導入補助金2026の通常枠では、ITツールのソフトウェア購入費とクラウド利用料(最大2年分)が補助の対象で、導入コンサルティングや導入設定・導入研修はオプションの対象として示されています。検証そのものの費用が対象になるとは書かれていないため、対象の経費と申請の日程を公式サイトで確かめ、必要なら事前に相談しておきましょう。
Q. 社内にAIに詳しい人がいなくても、PoCはできますか?
できます。目的と対象の業務、今の数字は、業務を知っている社内の人が決めるのが一番です。評価の方法や仕組みづくりは、外部の支援会社に頼むと進めやすくなります。社内で担える人を育てたい場合は、PoCと並行して研修を行うのもよいでしょう。

まとめ

まとめ

AIのPoCは、AIを動かしてみるためではなく、本番に進むかを判断するための検証です。AI PoCの進め方の中でも、検証を始める前の設計で、成否の大半が決まります。最後に、本記事のポイントを振り返ります。

01
AIのPoCは、本番の開発に費用をかけてよいかを判断する材料をそろえる取り組み
02
技術・業務の効果・現場での使われ方・費用対効果の4つの観点で確かめる
03
目的と仮説を数字で置き、今の数字を測り、実際の業務の入力で評価データを作る
04
合否のラインと止める基準は始める前に判断する人と合意し、判定シートと判定表で進む・絞る・見直す・止めるを決める
05
本番化は、運用する人・作り直す部分・2〜3年の費用をセルフチェックで確かめたうえで、小さな範囲から広げる

費用を知りたい方は AI導入の費用相場、相談先の選び方は AI導入支援とは?おすすめ会社の比較と選び方 もあわせてご覧ください。