ITの知識がほとんどなかった社員2人が、YouTube の無料の動画を参考に、40年分のマンション管理の資料に答えるアプリを9カ月で作りました。東京都品川区にある、社員150名の管理会社の話です。不動産のAI活用は、大手のシステム投資だけのものではなくなりました。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」(2025年確報)では、不動産・物品賃貸業の月間の総実労働時間は148.0時間で、調査した産業全体の135.1時間を上回っています(出典:厚生労働省『毎月勤労統計調査 2025年分結果確報』)。
そこで本記事では、不動産のAI活用事例を12件、営業・人材育成、集客・追客・お客様対応、契約書・管理業務、全社の業務の4つに分けて紹介します。すべて2024年10月以降に各社や業界の媒体が公表した事例で、会社の規模・使ったAI・効果の数字・出典をそろえて載せました。中小企業の事例から見える始め方、費用と期間の目安、注意点、導入の進め方もあわせてまとめています。
この記事でわかること
- 業務別の不動産のAI事例がわかる
- 中小企業の始め方がわかる
- 費用と期間の目安がわかる

この記事の監修者
AIBUILDERZ編集部
AI導入支援サービス「AIBUILDERZ」を運営するチームです。AI研修からシステムの導入・構築・定着まで、企業のAI導入を一気通貫で支援しています。
不動産のAI活用事例 一覧
本記事で紹介する12件を、1つの表にまとめました。会社名を押すと、それぞれの事例の説明に移ります。規模の欄は、出典に従業員数・店舗数・管理戸数などが書かれているものだけを載せています。
| 会社 | 規模 | 業務 | AI | 効果 | 発表 |
|---|---|---|---|---|---|
| HIROTAホールディングス | 中小(10店舗以上) | 接客の型づくり | AI接客支援システム「ミチスジ」 | 黒崎店の売上 前年比102.4% | 2026年5月 |
| 大東建託 | 大企業 | 営業のロールプレー | 生成AI | 数値の公表なし | 2025年3月 |
| バレッグス | 公表なし | 問い合わせへの物件提案 | 生成AI | 月50時間を創出 | 2025年9月 |
| シノケングループ | 公表なし | 面談の前の相談 | 生成AIのアバター | 数値の公表なし | 2026年1月 |
| 東急リバブル | 大企業 | SNSの物件紹介文 | 生成AI | 1件30〜45分→5分 | 2025年4月 |
| ハタス | 公表なし | オーナーへの定期報告書 | AI | 約35時間→約1時間 | 2025年5月 |
| 東京ディフェンス | 中小(150名) | 管理資料の検索 | 生成AI | 資料を探す時間がほぼゼロに | 2025年5月 |
| ファミリーコーポレーション | 中小(100〜299名) | 契約書のドラフト | 生成AI | 作成時間 約50%削減 | 2025年4月 |
| アンビションDXホールディングス | 公表なし | 書類のチェック | AI | 作業時間を80%削減 | 2026年8月 |
| クラスコ・ホールディングス | 公表なし | 全社の業務 | 生成AI | 1年目で22,862時間を削減 | 2026年4月 |
| LIFULL | 大企業 | 全社の業務 | 生成AI | 半年で31,596時間 | 2025年5月 |
| 三井不動産 | 大企業 | 全社の業務 | 生成AI・AIエージェント | 資料作成・修正 約30%削減 | 2025年12月 |
不動産業でAIが求められる背景
不動産業でAIの活用が広がっている背景には、働き方と業界のしくみをめぐる3つの事情があります。
働く時間が産業全体より長い
「毎月勤労統計調査」の2025年確報によると、不動産・物品賃貸業の月間の総実労働時間は148.0時間で、調査した産業全体の135.1時間より長くなっています。所定外の労働時間も、産業全体の9.8時間に対して11.9時間です(出典:厚生労働省『毎月勤労統計調査 2025年分結果確報』第2表)。
不動産の仕事には、接客や内見のほかに、物件の登録、追客のメール、契約書の確認、オーナーへの報告といった書類や連絡の仕事が多くあります。人を増やしにくい中で、書類や連絡にかかる時間をAIで減らし、お客様と向き合う時間を取り戻す考え方が広がっています。
地域に根ざした事業者が多い
国土交通省の調査では、2026年3月末の宅地建物取引業者は133,727業者で、12年連続で増えました。そのうち、1つの都道府県の中に事務所を置く知事免許の業者が130,489業者、2つ以上の都道府県に事務所を置く大臣免許の業者は3,238業者です(出典:国土交通省『令和7年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果について』)。
大手のように専任のIT部門を持つ会社ばかりではありません。本記事の事例でも、管理会社や地域の仲介会社が、すでにある生成AIのサービスや社内のシステムを組み合わせて、自分たちの手で使い道を広げています。
取引の書類が電子化できるようになった
2022年5月18日から、宅地建物取引業法の改正により、重要事項説明書や契約締結時の書面、媒介契約締結時の書面を、相手の承諾を得て電子メールなどの電磁的方法で渡せるようになりました。宅地建物取引士の押印も不要になっています(出典:国土交通省『不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります。』)。
紙だった書類がデータになると、AIで読む・作る・確かめる作業につなげやすくなります。契約書のチェックや報告書の下書きにAIを使う事例が増えている背景の1つです。
不動産業でAIができること
今回の12件と公開されているサービスを見ると、不動産業でのAIの使い道は、大きく6つに分けられます。
物件の査定・価格の推定
過去の取引や物件のデータから、売買価格や賃料の目安をAIが推定します。担当者による査定のばらつきを抑えたり、お客様に早く目安を出したりする使い方です。不動産投資を考える個人が使えるAI査定のサービスもあります。ただし推定の数字は目安で、建物ごとの事情は人が現地で確かめて補います。
営業の教育・ロールプレー
AIがお客様や土地オーナーの役になり、営業担当者が商談や接客を練習します。相手の年齢や性格を変えて何度でも練習でき、やり取りを評価して助言する仕組みもあります。今回の事例でも、仲介の会社から大手まで、複数の会社が営業の育成に使っています。
集客・追客・物件の提案
物件の紹介文やSNSの投稿文を作る、問い合わせから希望の条件を抜き出して物件を提案する、面談の前のお客様の質問に答える、といった使い方です。お客様の希望に合う物件をAIが選んで勧める、ポータルサイトのレコメンドもこの仲間です。
契約書・重要事項説明書などの書類
契約書のドラフトを作る、賃貸借契約書の不備を探す、工事の見積の金額が妥当かを確かめる、といった使い方です。最後の確認は人が行い、AIは下書きと見落とし探しを受け持つ形が中心です。
物件・建物の管理と入居者への対応
入居者からの問い合わせに答えるチャットボット、外国人の入居者向けの多言語の対応、トラブル対応の記録からオーナーへの報告書を作る仕組み、過去の修繕や管理規約を探せる検索、ビルの設備のデータの監視などです。
事務・全社の業務
議事録づくり、資料の作成、文章の要約やチェックなど、部署を問わない業務です。生成AIのツールを全社員に配り、削減した時間を数字で公表する会社も増えています。
営業・人材育成のAI活用事例
AIの接客支援システムや、AIを相手にした商談のロールプレーで、営業担当者を育てる事例です。
HIROTAホールディングス|北九州で10店舗超の仲介グループが、AIの接客支援で「量から質へ」切り替える
| 会社 | 株式会社HIROTAホールディングス(福岡県北九州市。不動産のデパートひろたの持株会社) |
|---|---|
| 規模 | 北九州市内に10店舗以上(従業員数は公表なし) |
| 業務 | 賃貸仲介の接客(来店したお客様へのヒアリングと案内)、店舗スタッフの育成 |
| AIの種類・ツール | AI接客支援システム「ミチスジ」(Co-Growth・落合不動産) |
| 効果 | 本格活用から4カ月で、先行導入の2店舗とも成約率が前年を上回って推移。黒崎店は反響が前年比14.7%減る中で売上が前年比102.4%、現地案内の件数は前年比72%減 |
| 発表 | 2026年5月 |
| 出典 | Co-Growth 導入事例(2026年5月13日) |
北九州市内に10店舗以上を構える同社は、賃貸の契約件数とスタッフ数でエリア1位になったのを機に、成長の軸足を「量から質へ」移すと決めました。それまでの店舗では、来店したお客様に条件を聞き、10件近くの物件を出して案内に出るのが普通の接客でした。
そこで2025年秋、落合不動産の落合健社長と Co-Growth が作ったAIの接客支援システム「ミチスジ」を、黒崎店と下曽根店の2店舗に先に入れました。物件を出す前に、審査に関わる事情やライフスタイルを深く聞き取る接客の型を身につけるもので、約2カ月の研修でロープレを繰り返してから実務に使い始めています。
本格的に使い始めて4カ月で、両店舗とも成約率は前年を上回って推移しています。黒崎店では、受け持つ反響が前年比14.7%減るなかで売上は前年比102.4%となり、現地での案内の件数は前年比72%減りました。
問い合わせを増やすのが難しくなったら、来店したお客様から深く聞き取る接客の型をAIで仕組みにすると、少ない反響でも売上を保てます。
大東建託|台本のない「生成型AI課長」を相手に、営業担当者が土地オーナーとの商談を練習する
| 会社 | 大東建託株式会社(東京都港区) |
|---|---|
| 規模 | 公表なし |
| 業務 | 営業担当者の育成(商談のロールプレー) |
| AIの種類・ツール | 生成AI(自社で開発した研修システム「生成型AI課長」) |
| 効果 | 数値の公表なし(先輩社員が指導や相談に使っていた時間と労力を減らす効果を見込む) |
| 発表 | 2025年3月 |
| 出典 | 大東建託 ニュースリリース(2025年3月28日) |
同社は2024年10月から、土地オーナーの自宅を訪ねる場面を想定し、あらかじめ用意したシナリオで商談のやり方を学ぶ「台本型AI課長」を使ってきました。
2025年4月から入れた「生成型AI課長」には、シナリオがありません。土地オーナーの年齢や興味・関心、性格などをもとにAIが受け答えを変えるため、営業担当者は相手の反応から気持ちや要望をくみ取る練習ができます。会話の中での関係づくりや情報の集め方を評価し、助言する機能もあります。第1弾は初めて訪ねる場面で、再訪問や提案の場面も順に作るとしています。
効果の数字は公表されていませんが、これまで先輩社員が指導や相談に使っていた時間と労力を減らす効果を見込んでいます。
ロールプレーのAIは、決まった台本の練習から始め、慣れてから台本のない応対に進むと、段階を踏んで育成に組み込めます。
集客・追客・お客様対応のAI活用事例
問い合わせへの物件提案のメール、面談の前の相談、SNSの物件紹介など、お客様との接点でAIを使う事例です。
バレッグス|問い合わせメールへの返信をAIに任せ、対応の時間を0分にして返信率を約10ポイント上げる
| 会社 | 株式会社バレッグス(東京都目黒区) |
|---|---|
| 規模 | 公表なし |
| 業務 | 賃貸の問い合わせメールへの返信(物件の提案) |
| AIの種類・ツール | 生成AI(Azure OpenAI Service、Salesforce、n8n) |
| 効果 | 1件平均30分かかっていたメール対応が0分に。月100件程度の問い合わせで月50時間を創出。お客様からの返信率が55.26%から64.81%に |
| 発表 | 2025年9月 |
| 出典 | バレッグス 公式note(2025年9月27日) バレッグス プレスリリース(PR TIMES、2025年10月9日) |
メールで物件の問い合わせが来ても、営業時間外や繁忙期には返信が遅れがちで、その間にお客様が他社へ流れてしまうことがありました。物件を探し、文面を考えて送る作業は担当者の時間を取り、提案の質も担当者の経験に左右されていました。
同社は、顧客管理の Salesforce を中心に、業務を自動でつなぐ n8n と Azure OpenAI Service を組み合わせた仕組みを作りました。問い合わせのメールから希望の条件を取り出し、社内の物件データから「条件にいちばん合う物件」「予算を少し上げた物件」「エリアをずらした物件」を選んで、AIが紹介文を書き、メールで返します。
1件平均30分かかっていたメール対応は0分になり、月100件ほどの問い合わせで月50時間が生まれました。お客様からの返信率は55.26%から64.81%へ、約10ポイント上がっています。
提案の型を「本命」「予算を上げる」「エリアをずらす」のように決めてからAIに渡すと、担当者による提案のばらつきを減らせます。
シノケングループ|累計約8,000棟の商談ノウハウを入れたAIアバターが、アパート経営の相談に24時間答える
| 会社 | 株式会社シノケングループ(東京都港区・福岡市) |
|---|---|
| 規模 | 公表なし |
| 業務 | アパート経営の説明面談の前の相談・質問への回答 |
| AIの種類・ツール | 生成AIのアバター(「シノケン・セールス AI エージェント」/PKSHA Technology と共同開発) |
| 効果 | 数値の公表なし(面談の前に、24時間365日いつでも質問できるようになった) |
| 発表 | 2026年1月 |
| 出典 | シノケングループ プレスリリース(valuepress、2026年1月) |
同社は、土地を持たない会社員や公務員に、資産づくりの手段としてアパート経営を提案しています。その仕組みを説明する面談を設けていますが、日程の調整や質問への回答でお客様を待たせてしまうことが課題でした。
そこで PKSHA Technology と共同で、AIのアバターが対話で答える「シノケン・セールス AI エージェント」を開発し、2026年1月に提供を始めました。35年以上の商談のノウハウや、累計およそ8,000棟の販売実績、賃貸管理の知見を組み込み、「リスクと対策」「自己資金の目安」などの質問に答えます。回答には関連する資料や解説の動画も示し、気になった回答は「お気に入り」に登録して見返せます。面談を予約したお客様に、順にアカウントを発行しています。
効果の数字は公表されていませんが、お客様は面談の前に何度でも質問できるようになりました。面談の当日は、具体的な物件の紹介やシミュレーションの確認に時間を使えるとしています。
同じ説明をくり返す面談は、自社の知見を入れたAIに事前の質問を任せると、面談の時間を個別の提案に回せます。
東急リバブル|月5件が限界だったSNSの物件紹介を、生成AIで月50件に増やす
| 会社 | 東急リバブル株式会社(東京都渋谷区) |
|---|---|
| 規模 | 公表なし |
| 業務 | SNSに投稿する物件紹介文の作成 |
| AIの種類・ツール | 生成AI(ChatGPT を使った「TOKYU LIVABLE Generative AI System」/アルサーガパートナーズと開発) |
| 効果 | 投稿の作成時間が1件あたり30〜45分から5分に。SNSへの投稿数が月5件程度から50件程度に |
| 発表 | 2025年4月 |
| 出典 | アルサーガパートナーズ 導入事例 アルサーガパートナーズ ニュース(2024年11月) |
同社では、SNSへの投稿を専任の担当者が1件ずつ書いていたため、投稿できるのは月5件程度でした。不動産の広告では「抜群」のような言葉が使えないなど表現の決まりも厳しく、投稿のたびに細かい確認が必要でした。
そこで、チェックボックスで条件を選ぶだけで、物件の特徴や読み手に合った投稿文を作る仕組みを、アルサーガパートナーズと開発しました。2024年11月から使っています。使ってはいけない言葉を見つけて、適切な表現に自動で直す機能も付けました。
1件あたり30〜45分かかっていた投稿の作成は5分になり、投稿は月50件程度まで増えました。
表現の決まりが厳しい業務では、禁止の言葉を自動で直す仕組みまでAIに組み込むと、確認の手間ごと減らせます。
契約書・管理業務のAI活用事例
オーナーへの定期報告書、マンション管理の資料の検索、契約書のドラフト、書類のチェックなど、書類と管理業務の事例です。
ハタス|愛知の管理会社が、オーナーへの定期報告書づくりをAIとRPAで約35時間から約1時間に
| 会社 | ハタス株式会社(愛知県刈谷市) |
|---|---|
| 規模 | 公表なし |
| 業務 | オーナーへの定期報告書の作成(外部のコールセンターの対応記録の取り込み) |
| AIの種類・ツール | AI(報告書の文章の生成)とRPA |
| 効果 | 定期報告書の作成が約35時間から約1時間に(作業時間を約97%削減) |
| 発表 | 2025年5月 |
| 出典 | ハタス お知らせ(2025年5月7日) ハタス プレスリリース(PR TIMES、2025年5月12日) |
建設・不動産・賃貸管理・仲介を手がける同社は、10年以上、社員が持ち回りで本社の宿直室に泊まり、入居者からの電話を24時間受けてきました。約1年前にこのコールセンターの業務を外部に任せたところ、外注先から届く対応の記録を確かめ、自社の管理システムに手で入力し直す作業が新たに生まれました。2021年に施行された賃貸住宅管理業法で、オーナーへの定期的な報告も欠かせなくなっています。
そこで、外注先の対応記録をCSVで一括して取り出し、自動で処理する仕組みを作りました。定型の処理はRPAが、報告書の文章はAIが受け持つ役割分担です。
約35時間かかっていた定期報告書の作成は約1時間で終わるようになり、作業時間は約97%減りました。報告の内容がそろい、書き漏れや誤りの心配も減っています。
外部に任せた業務の記録は、データでまとめて受け取れる形にしておくと、報告書づくりをAIと自動処理に任せやすくなります。
東京ディフェンス|ITに詳しくない社員2人が、40年分のマンション管理資料に答えるアプリをClaudeで自作
| 会社 | 株式会社東京ディフェンス(東京都品川区) |
|---|---|
| 規模 | 社員150名 |
| 業務 | マンション管理の資料の検索、外国人の入居者への対応 |
| AIの種類・ツール | 生成AI(自社で作ったアプリ。資料のテキスト化に Claude) |
| 効果 | 開発期間は9カ月。管理の資料を探す時間がほぼなくなった。社長によると、いまの7割程度の人員で業務をこなせる |
| 発表 | 2025年5月 |
| 出典 | 健美家(2025年5月1日) |
マンション150棟、賃貸1,500戸を管理する同社には、築30年以上の物件も多くあります。管理組合の担当者は数年で入れ替わるため、「昔の総会で何が話し合われたか」「大規模修繕はいつ行ったか」といった問い合わせが多く、社内の担当が変わると資料を探すのに時間がかかっていました。
そこで、ITの知識がほとんどなかった社員2人が中心となり、YouTube の無料の動画を参考に、AIのアプリを自分たちで作りました。倉庫にあった40年分の資料をスキャンし、Claude でテキストにする作業だけで、2人で2カ月かかったといいます。答えには必ず根拠の資料を示すようにしています。外国人の入居者には、LINE で24時間答える多言語のチャットボットも作りました。
開発は9カ月で、管理の資料を探す時間はほぼなくなりました。社長は、いまの社員150名の7割程度で業務をこなせると話しています。
AIに社内の資料を答えさせるときは、根拠の資料を必ず示させると、古い記録でも安心して使えます。
ファミリーコーポレーション|事業用不動産の会社が、契約書のドラフトづくりを生成AIで約50%短く
| 会社 | 株式会社ファミリーコーポレーション(東京都) |
|---|---|
| 規模 | 100〜299名 |
| 業務 | 契約書のドラフト作成、議事録の作成 |
| AIの種類・ツール | 生成AI(デジライズの「AI WORKS 365」と研修) |
| 効果 | 契約書のドラフト作成の時間を約50%削減 |
| 発表 | 2025年4月 |
| 出典 | デジライズ 導入事例 |
事業用不動産の企画・開発から売買・仲介、管理までを手がける同社では、議事録や稟議書の作成、契約書の確認に多くの時間を取られ、営業や顧客対応に十分な時間を回せていませんでした。契約書や重要事項説明書の作成は人によってやり方が違い、標準化も進んでいませんでした。
社内ではAIへの理解が十分でなかったため、研修で社員の理解を深めながら、契約書のドラフト作成と議事録の自動作成に生成AIを取り入れました。
契約書のドラフト作成の時間は約50%短くなり、議事録づくりの負担も軽くなりました。研修をきっかけに、社員どうしの情報共有や業務の標準化も進んでいます。
社内にAIへの抵抗があるときは、道具より先に研修で理解をそろえると、契約書のように慎重さが要る業務にも広げやすくなります。
アンビションDXホールディングス|書類のチェックや問い合わせ対応をAIが受け持ち、社内の作業時間を80%減らす
| 会社 | 株式会社アンビション DX ホールディングス(東京都渋谷区) |
|---|---|
| 規模 | 公表なし |
| 業務 | 書類のチェック、データの入力、問い合わせ対応 |
| AIの種類・ツール | AI(自社で開発した、不動産の業務を自動にする「Property AI STUDIO」) |
| 効果 | 社内で作業時間を80%削減(同社の決算説明会での説明) |
| 発表 | 2026年8月 |
| 出典 | ログミーファイナンス(2026年6月期 決算説明会、2026年8月17日発表) |
賃貸管理と仲介を主力とする同社は、物件の管理から仲介までの業務を、自社で開発したシステムで動かしています。労働集約型といわれる業界で、AIの道具も自社で作り、業務時間を減らしてきました。
その一つが、不動産の業務をAIで自動にする「Property AI STUDIO」です。書類のチェックやデータの入力、問い合わせへの対応などをAIが代わりに行います。2026年4月からは、月額の料金で社外にも販売しています。
同社の決算説明会での説明によると、社内で使って作業時間を80%減らせることを確かめています。
書類のチェックや入力のような定型の作業をまとめてAIに任せる仕組みにすると、部署をまたいで作業時間を減らせます。
全社の業務のAI活用事例
全社員に生成AIを配り、部署を問わず使っている事例です。削減した時間や費用を数字で公表している会社もあります。
クラスコ・ホールディングス|全スタッフが Gemini を使い始めて1年、22,862時間の業務を減らし売上を2億円伸ばす
| 会社 | 株式会社クラスコ・ホールディングス(石川県金沢市) |
|---|---|
| 規模 | 公表なし |
| 業務 | 全社の業務(営業のロールプレー、リストの照合、物件紹介文の作成、初期費用の算出、資料や動画の制作など) |
| AIの種類・ツール | 生成AI(Google Workspace の Gemini、自社の教育システム「AIロープレ」) |
| 効果 | AI導入の1年目で、業務時間22,862時間・コスト6,800万円を削減し、売上が2億円増。AIロープレで平均成約率が約1.4倍、新人が現場に出るまでの期間が3カ月から2カ月に |
| 発表 | 2026年4月 |
| 出典 | クラスコ プレスリリース(PR TIMES、2026年4月14日) |
同社は、人件費の8割が情報の検索や単純な作業に消えていることに、強い危機感を持っていました。2024年7月、Google Workspace を全社に入れ、全スタッフが Gemini を使い始めています。
「全ての業務にAIを」を掲げ、毎朝の全社朝礼でAIの活用例を共有し、月1回の共有会も開いています。創業62年のノウハウを学ばせた教育システム「AIロープレ」で若手の接客を鍛え、営業の現場では、リストの照合や物件紹介文の作成、初期費用の計算をAIで自動にしました。数時間かかっていた作業が10分以内で終わるようになったものもあります。
AIを入れて1年目で、業務時間は22,862時間、コストは6,800万円減り、売上は2億円増えました。AIロープレでは平均成約率が約1.4倍になり、新人が現場に出るまでの期間は3カ月から2カ月に縮まりました。
全員が使える環境を配ったうえで、朝礼などの毎日の場で使い方を共有すると、現場から使い道が次々に出てきます。
LIFULL|住宅情報サービスの会社が、社内のAIの利用を部門ごとに追い、半年で31,596時間を生む
| 会社 | 株式会社LIFULL(東京都千代田区) |
|---|---|
| 規模 | アンケートに回答した単体の従業員624名 |
| 業務 | 全社の業務(文章・資料の作成、調査、アイデア出し、メールのチェックなど) |
| AIの種類・ツール | 生成AI(社内用の生成AIツール「keelai」、Chrome の拡張機能) |
| 効果 | 2024年10月〜2025年3月の半年間で31,596時間の業務を効率化(回答者624名の総勤務時間の4.7%)。単体の従業員の90.9%が生成AIを活用 |
| 発表 | 2025年5月 |
| 出典 | LIFULL プレスリリース(PR TIMES) |
不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME'S」を運営する同社は、2023年8月から社内で生成AIの活用を進めてきました。使う人がすでに多い中で、さらに使う人と使う場面を増やすことに取り組んでいます。
同社は、社内用の生成AIツール「keelai」の利用状況を追い、部門ごとに利用者数や利用日数を毎月返しています。社外とのやり取りが多い部署には、ボタンを押すとページの内容をもとに文章を作る Chrome の拡張機能を社内で作り、メールのチェックや営業日報づくりに使えるようにしました。
2024年10月から2025年3月までの半年で、31,596時間の業務を効率化しました。アンケートに答えた624名の総勤務時間の4.7%にあたります。
使う人が増えてきたら、部門ごとの利用状況を数字で返すと、使えていない所がわかり、次の手を打ちやすくなります。
三井不動産|全社員約2,000人に ChatGPT Enterprise を入れ、3カ月で約500件の社内向けGPTが動く
| 会社 | 三井不動産株式会社(東京都中央区) |
|---|---|
| 規模 | 全社員約2,000人 |
| 業務 | 全社の業務(物件情報の要約、経理処理、資料作成など)、ビルの設備管理(実証) |
| AIの種類・ツール | 生成AI・AIエージェント(ChatGPT Enterprise、社内で開発した「社長AIエージェント」「資料自動生成AI」など) |
| 効果 | 利用開始から約3カ月で約500件のカスタムGPTが運用中。DX本部長AIエージェントで、DX本部員の資料作成・修正の時間を平均約30%削減。全社で業務削減時間10%以上が目標 |
| 発表 | 2025年12月 |
| 出典 | 三井不動産 ニュースリリース(2025年12月) 三井不動産 ニュースリリース(2026年5月) |
同社は2025年10月、全社員約2,000人に ChatGPT Enterprise を入れました。全社85部門から選んだ150名の「AI推進リーダー」が、部門ごとのルールやマニュアルを組み込んだ「カスタムGPT」を作り、物件情報の要約や経理処理の補助などに使っています。
あわせて、社内で開発した「社長AIエージェント」や、DX本部長の考え方を学ばせた「DX本部長AIエージェント」、文章からPowerPointの資料を作る「資料自動生成AI」も順に広げています。2026年5月には、日本橋一丁目三井ビルディングで、約5,000点の設備データとカメラやセンサーで取ったデータをまとめて管理し、生成AIで検索・要約する実証も始めました。
利用開始から約3カ月で約500件のカスタムGPTが動き、DX本部では資料の作成・修正の時間が平均で約30%減りました。全社では業務削減時間10%以上を目指しています。
部門ごとに推進役を置き、現場の人が自分の業務向けのAIを作れるようにすると、使い道が一気に増えます。
中小企業の事例から見えること
今回の12件のうち、社員150名の東京ディフェンス、100〜299名のファミリーコーポレーション、北九州で10店舗以上を構えるHIROTAホールディングス、愛知県刈谷市のハタスなど、地域の管理会社や仲介会社の事例には、共通する始め方が4つあります。
毎日くり返す作業を1つ選んでいる
ハタスはオーナーへの定期報告書、バレッグスは問い合わせへの返信メール、東京ディフェンスは管理の資料探しと、どれもくり返し発生する1つの作業から始めています。全社の仕組みを一度に変えようとせず、効果がはっきり見える作業を1つに絞ることが、小さな会社の始め方の基本です。
すでにある仕組みの上に載せている
バレッグスは使っていた Salesforce に、ハタスは外注先のコールセンターの対応記録に、AIをつなぎました。クラスコ・ホールディングスは、全社に入れた Google Workspace の中の Gemini を使っています。毎日たまっている記録や、すでに使っている道具をそのまま材料にすると、新しい手間を増やさずに済みます。
社員が自分たちで作っている
東京ディフェンスでは、ITに詳しくない社員2人が、YouTube の動画を参考にAIのアプリを作りました。バレッグスも、社内のチームが Salesforce と n8n をつなぎ、物件を提案する仕組みを作っています。生成AIの登場で、専門のエンジニアを大勢抱えていなくても、自社の業務に合わせた道具を作れるようになりました。
時間を減らすだけでなく、売上につながる使い方をしている
HIROTAホールディングスの黒崎店は、反響が前年比14.7%減るなかで、AIの接客支援を使って売上を前年比102.4%にしました。バレッグスは物件提案のメールで返信率を約10ポイント上げています。業務の削減だけを目標にせず、接客や提案の質を上げる使い方まで視野に入れると、AIの効果は売上にも表れます。
導入にかかる費用と期間の目安
AIの導入にかかる費用は、すでにあるツールを使うのか、自社の業務に合わせて作るのかで大きく変わります。今回の事例に出てきた使い方ごとに、目安をまとめました。
使い方ごとの費用の目安
| 使い方 | 主な形 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 生成AIのツールを全社で使う | 法人向けの生成AIのサービスを契約する | 1人あたり月数千円程度から |
| 営業のロールプレー | 契約した生成AIで自社で始める、または不動産向けの営業支援サービスを入れる | 自社で始めるなら生成AIの契約の範囲で試せる。専用のサービスは見積もりで確かめる |
| 追客メール・報告書の下書き | 今の顧客管理システムに生成AIのAPIをつなぐ | 使った量に応じたAPIの料金に、つなぐ作業の費用が加わる |
| 社内の資料の検索・契約書のチェック | 社内の資料やシステムとつなぐ仕組みを作る | 読ませるデータの量と業務の範囲で大きく変わる。見積もりで範囲をそろえて比べる |
見積もりの内訳や比べ方は、AI導入の費用相場とAI開発・PoCの費用相場で詳しく説明しています。
事例に見る、始めてから広げるまでの期間
今回の事例のうち、始めた時期とその後の動きがわかるものを並べました。多くの会社が、小さな範囲で数カ月試してから、全部署や全社へ広げています。
| 会社 | 始めた時期 | その後 |
|---|---|---|
| クラスコ・ホールディングス | 2024年7月に Google Workspace を全社に入れ、全スタッフが Gemini を使い始める | 1年目で業務時間22,862時間を削減 |
| 東京ディフェンス | 2024年12月から2人で2カ月かけて資料をテキスト化 | 開発期間9カ月でアプリが完成 |
| 東急リバブル | 2024年11月にSNSの投稿文の仕組みを運用開始 | 投稿が月5件程度から50件程度に |
| 三井不動産 | 2025年10月に全社員へ ChatGPT Enterprise を導入 | 約3カ月で約500件のカスタムGPTが運用中 |
| HIROTAホールディングス | 2025年秋に2店舗で先行導入、約2カ月の研修 | 本格活用から4カ月で、両店舗とも成約率が前年を上回る |
不動産会社のAI導入で使える主な補助金・助成金
AIの導入や社員の研修には、国の補助金・助成金を使える場合があります。主なものは次の2つです(2026年10月時点)。
| 制度 | 向いている使い方 | 補助の上限・補助率 |
|---|---|---|
| デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金) | 事務局に登録された、AIの機能を持つソフトウェアやクラウドのサービスを入れる | 通常枠で5万円以上450万円以下。補助率は1/2以内(条件を満たすと2/3以内) |
| 人材開発支援助成金(厚生労働省) | 社員に、職務に関連した知識や技能を身につけさせる研修(AIの研修など)を行う | 研修の経費と、研修中の賃金の一部を助成。金額はコース・企業の規模・研修の時間などで変わる |
デジタル化・AI導入補助金は、事務局に登録された「IT導入支援事業者」と組んで申請します。どちらの制度も、公募の回や年度ごとに条件が変わるため、申請の前に公式サイトで最新の要領を確かめてください。補助金の全体像は、AI導入に使える補助金でまとめています。
AIに任せられないこと・導入の注意点
重要事項の説明と最後の判断は人が持つ
宅地建物取引業法では、契約が成立するまでに、宅地建物取引士に重要事項を記した書面を渡して説明させることが定められています(出典:宅地建物取引業法(e-Gov 法令検索))。書類の下書きにAIを使っても、内容を確かめて説明するのは人です。東京ディフェンスはAIの答えに必ず根拠の資料を示させ、人が元の資料で確かめられるようにしています。AIは下書きと見落とし探しを早くする道具と考え、最後の判断と責任は人が持つ形にしておくことが大切です。
お客様とオーナーの情報を外に出さない
不動産の仕事では、お客様の氏名や収入、オーナーの資産の情報を日常的に扱います。クラスコ・ホールディングスは Google Workspace を、三井不動産は ChatGPT Enterprise を全社に入れ、会社として管理する環境でAIを使っています。社員が個人で契約したサービスに任せず、会社として使ってよいツールと、入力してよい情報を先に決めておきましょう。
広告の表現は公開の前に人が確かめる
不動産の広告には、使ってはいけない表現があります。東急リバブルは、禁止の言葉を見つけて自動で直す機能を仕組みに組み込みました。AIが作った物件の紹介文やSNSの投稿も、そのまま出さず、公開の前に人が確かめる流れにしておくと安心です。
AI査定の数字は目安として扱う
AIの査定は、過去の取引などのデータから価格を推定するものです。データに表れにくい建物ごとの事情は、担当者が現地で確かめて補う必要があります。お客様に示すときも、目安であることを添えて伝えましょう。
現場が使い続けられる形にする
HIROTAホールディングスでは、自分のやり方で成果を上げてきたベテランほど新しい接客の型に切り替えにくく、若手が成約率を伸ばすのを見て広がりました。クラスコ・ホールディングスは毎朝の朝礼で活用例を共有し、三井不動産は部門ごとに「AI推進リーダー」を置いています。精度だけでなく、現場が毎日使い続けられるかどうかも、導入の前に確かめておきたい点です。
不動産会社でAIを導入する進め方
今回の事例に共通する流れを、5つのステップにまとめました。
AIに任せたい作業を1つ決める
追客のメール、オーナーへの報告書、契約書の確認、営業の練習など、毎日くり返していて時間のかかる作業を1つ選びます。誰が、どれだけの時間をかけているのかも書き出しておきます。
使ってよいツールと情報を決める
入力した情報が学習に使われない法人向けのサービスを選び、お客様やオーナーの情報のうち、何を入力してよいかを社内のルールで決めます。
小さな範囲で期間を区切って試す
1つのチームや数店舗で、今の作業と並べてAIを数カ月試します。精度だけでなく、現場が使い続けられるか、時間がどれだけ減ったかも記録します。
効果を数字で確かめ、人が確かめる所を決める
減った時間や成約率の変化を、試す前と比べます。あわせて、契約書や広告など、最後に人が確かめる所を決めてから本運用に移します。
ほかの部署や店舗に広げる
うまくいった使い方を、似た作業のある部署やほかの店舗に広げます。朝礼や社内の発表の場で活用例を共有すると、広がる速さが変わります。
よくある質問
Q. 中小の不動産会社でもAIを導入できますか?
Q. 不動産業でAIの効果が出やすいのはどの業務ですか?
Q. 重要事項説明書を生成AIで作ってもよいですか?
Q. AIで不動産の仕事はなくなりますか?
Q. AI査定の結果はどこまで信用できますか?
Q. お客様の情報を生成AIに入れても大丈夫ですか?
まとめ
不動産以外の業界の事例や、AI導入の全体の流れは、中小企業のAI導入もあわせてご覧ください。
出典一覧
本記事の事例と数字の出典です。事例は発表の新しい順に並べています。
事例の出典
- アンビションDXホールディングス(2026年8月):ログミーファイナンス(2026年6月期 決算説明会、2026年8月17日発表)
- HIROTAホールディングス(2026年5月):Co-Growth 導入事例(2026年5月13日)
- クラスコ・ホールディングス(2026年4月):クラスコ プレスリリース(PR TIMES、2026年4月14日)
- シノケングループ(2026年1月):シノケングループ プレスリリース(valuepress、2026年1月)
- 三井不動産(2025年12月):三井不動産 ニュースリリース(2025年12月)、三井不動産 ニュースリリース(2026年5月)
- バレッグス(2025年9月):バレッグス 公式note(2025年9月27日)、バレッグス プレスリリース(PR TIMES、2025年10月9日)
- ハタス(2025年5月):ハタス お知らせ(2025年5月7日)、ハタス プレスリリース(PR TIMES、2025年5月12日)
- 東京ディフェンス(2025年5月):健美家(2025年5月1日)
- LIFULL(2025年5月):LIFULL プレスリリース(PR TIMES)
- 東急リバブル(2025年4月):アルサーガパートナーズ 導入事例、アルサーガパートナーズ ニュース(2024年11月)
- ファミリーコーポレーション(2025年4月):デジライズ 導入事例
- 大東建託(2025年3月):大東建託 ニュースリリース(2025年3月28日)
