職員の数が減るなかで、住民からの問い合わせや書類の作成、会議の記録といった仕事は減っていません。AIで少しでも負担を軽くしたいと考えても、どの業務から、どんなルールで使い始めればよいのか迷っている自治体の担当者は多いのではないでしょうか。総務省の調査では、AIを導入している市区町村(都道府県・指定都市を除く)は58%、生成AIを導入している市区町村は29.9%で、都道府県・指定都市との間にはまだ大きな差があります(出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進」・「自治体における生成AI導入状況」令和7年6月30日版)。

そこで本記事では、総務省とデジタル庁の資料をもとに、自治体のAI活用の現状、使われているAIの種類と業務別の使い道、自治体が公式に発表している活用事例8件を紹介します。あわせて、課題と対策、押さえたいガイドライン、導入の進め方、費用と調達の考え方、小規模な自治体での進め方、導入前のセルフチェックまでまとめました。

この記事でわかること

  • 自治体のAI導入の現状がわかる
  • 業務別の使い道と事例がわかる
  • 導入の進め方とルールがわかる
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自治体のAI活用の現状

自治体のAI活用の現状

はじめに、全国の自治体でAIがどこまで使われているのかを、総務省が毎年行っている「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」で確かめておきましょう。令和6年度の調査は、2024年12月31日時点の状況を全1,788団体にたずね、すべての団体から回答を得ています。

AIを導入している自治体は約6割

AIを導入している団体は、都道府県(47団体)と指定都市(20団体)ではすべて、そのほかの市区町村では58%(996団体)でした。市区町村も、実証中や導入予定、検討中を含めると約76%がAIの導入に向けて動いています。総務省の「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」(令和7年12月 第4版)も、2024年末時点で6割近い自治体がAIを導入していると述べています。

ここでいうAIには、生成AIだけでなく、会議の音声を文字にする音声認識や、手書きの申請書を読み取るAI-OCR、問い合わせに答えるチャットボットも含まれます。

生成AIは都道府県・指定都市で約9割、市区町村で約3割

ChatGPTのような生成AIに絞ると、導入済みの団体は都道府県で87.2%、指定都市で90.0%、そのほかの市区町村で29.9%(514団体)でした。都道府県と指定都市は実証中や導入予定を含めると100%ですが、市区町村は51%にとどまります。

大きな団体ではすでに当たり前になりつつある一方で、市区町村の多くはこれから使い始める段階にあります。

多く使われているのは音声認識と文字認識

機能別の導入件数は、音声認識(会議録の作成、多言語翻訳など)が879件で最も多く、文字認識(AI-OCRによる申請書や調査票の読み取りなど)が622件、チャットボットによる応答(住民の問い合わせや庁内のヘルプデスクなど)が374件と続きます。職員の手作業を減らす道具としてのAIから広がってきたことがわかります。

自治体でAI活用が求められる理由

自治体でAI活用が求められる理由

自治体がAIの活用を急ぐ背景には、職員の数の問題、住民の期待の変化、国の動きの3つがあります。

2040年ごろには今の半分の職員で支える見通し

総務省のガイドブックは、「自治体戦略2040構想研究会」の検討をもとに、人口減少の影響で2040年には自治体の職員が半減し、今の半数の職員で自治体を支える必要があるとしています。税収の減少やインフラの維持費の増加、ベテラン職員や専門職の減少も重なります。

人の数が減っても住民サービスを続けるには、転記や入力のような定型の作業をAIに任せ、職員が人にしかできない相談や判断に時間を使える形をつくることが欠かせません。

住民はいつでも、どこからでも手続きを知りたい

開庁時間に電話や窓口へ行かなくても、知りたいことを調べられる環境が求められています。チャットボットや電話の自動応答は、夜間や休日の問い合わせにも答えられます。多言語で答えられれば、外国から来た住民にも案内が届きやすくなります。

国も行政の生成AI活用を進めている

デジタル庁は、政府職員が安全に生成AIを使える環境「源内(げんない)」を2025年5月から庁内で運用し、2026年5月から2027年3月までの予定で、全府省庁の約18万人を対象とした大規模実証を行っています。2026年4月には、源内をオープンソースとして公開しました(出典:デジタル庁「ガバメントAI『源内』」)。

あわせて、政府の生成AIの調達と利活用のルールを定めた「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」(令和7年5月27日 デジタル社会推進会議幹事会決定)も運用されています。自治体のルールづくりでも参考にできる内容です。

自治体で使われているAIの種類

自治体で使われているAIの種類

自治体で使われているAIは、決まった作業をこなす従来型のAIと、文章などを作る生成AIに分けて考えるとわかりやすくなります。総務省の資料にある業務の例を表にまとめました。

AIの機能 できること 自治体での業務の例
音声認識 音声を文字にする、声を聞き分ける 会議録の作成、窓口での自動翻訳
文字認識(AI-OCR) 手書きや活字の文字を読み取る 申請書・調査票・アンケートの読み取り
チャットボット 質問に自動で答える 住民の問い合わせ、庁内のヘルプデスク、観光案内
マッチング 条件に合う組み合わせを決める 保育所の入所選考
画像・動画認識 画像の特徴を見つける 道路の損傷の検出、家屋の調査
数値予測・最適解の提示 将来の数値や推奨案を出す 健診の受診勧奨の対象者選び、河川の水位予測
生成AI 文章や画像を作る、要約する あいさつ文・企画書・議会答弁の案、議事録の要約

従来型のAI:決まった作業を速く正確にこなす

音声認識やAI-OCR、チャットボットは、何をするかがはっきり決まっている作業を自動にするAIです。導入している自治体が多く、効果も測りやすいのが特徴です。総務省の事業で開発された仕組みでは、職員の対応時間が、議事録の書き起こしで1件平均70分から30分に、庁内FAQへの問い合わせ対応で1件平均5分から2分に短くなったと報告されています。

生成AI:文章の下書きや要約を任せる

生成AIは、指示に応じて文章や画像などを作るAIです。あいさつ文や企画書の案づくり、議事録の要約、翻訳など、部署を問わず使える業務が多いのが強みです。一方で、事実と違う内容をもっともらしく出すこと(ハルシネーション)があるため、出てきた文章は必ず職員が確かめてから使うことが前提になります。

RAG:庁内の資料を参照させて答えさせる

生成AIにそのまま聞くと、自治体ごとの制度や手続きには正しく答えられません。そこで、例規集やマニュアル、ホームページの情報などを生成AIに参照させてから答えさせる方法を「RAG(検索拡張生成)」と呼びます。生成AIを自治体向けに合わせている団体のうち、RAGを使っている例が244件と最も多く、APIやファインチューニングで専用の環境を作っている41件を大きく上回っています。

RAGは参照させる資料の質で答えの正確さが決まります。古い資料や表記のばらばらな資料をそのまま入れるのではなく、まず資料を整えることから始めましょう。

業務別に見る自治体のAI活用

業務別に見る自治体のAI活用

ここからは、自治体の仕事のなかでAIを使いやすい業務を、住民対応・文書作成・議事録・申請書の処理・庁内の調べものの5つに分けて見ていきます。生成AIの使い道は、総務省の調査で回答の多い順に「あいさつ文案の作成」「議事録の要約」「企画書案の作成」「メール文案の作成」でした。

住民対応:問い合わせへの自動応答

ホームページのチャットボットや電話の自動応答で、ごみの出し方や証明書の取り方のような、よくある質問に答えます。夜間や休日でも答えられ、職員は込み入った相談に時間を回せます。答えられない質問を職員につなぐ流れと、AIが答えるときに誤りがありうることを伝える表示をあわせて用意しましょう。チャットボットの選び方は AIチャットボットの選び方 でも解説しています。

文書作成:あいさつ文・企画書・議会答弁の下書き

あいさつ文や企画書、メール、議会の想定問答、仕様書、記者発表資料の案を生成AIに作らせ、職員が直して仕上げます。総務省のガイドブックでは、あいさつ文の作成が1件60分から20分になる見込みという例が示されています。最後に事実や数字を確かめるのは職員の仕事です。

議事録:文字起こしと要約

会議の音声を文字にする音声認識と、長い記録を短くまとめる生成AIを組み合わせると、議事録づくりの時間を大きく減らせます。人口4.7万人の団体では、会議録の文字起こしと要約の時間が年2,800時間から1,400時間に半減する見込みと報告されています。発言者や数字の誤りは残りうるため、公開する前に担当者が読み合わせる手順は残しましょう。

申請書の処理:AI-OCRで読み取って入力する

紙の申請書や調査票をAI-OCRで読み取り、データにします。読み取ったデータをRPAで基幹システムへ入力する形にすると、転記の手間と入力の誤りを減らせます。手書きの文字は読み違いもあるため、読み取りの結果を職員が確かめる工程を最初から組み込んでおくことが大切です。

庁内の調べもの:例規やマニュアルの検索

法令やマニュアル、過去の通知をRAGで参照させると、異動したばかりの職員でも根拠の資料にたどり着きやすくなります。ガイドブックでは、法令やマニュアルを参照させて根拠を示すことで、疑問の解消や根拠資料を探す時間を約25%減らせたという例が示されています。

総務省の調査で報告された、生成AIの効果の例を表にまとめました。回答した団体の人口規模とあわせて見ると、自分の団体に近い数字をつかみやすくなります。

使い道 報告された効果 人口規模
議事録の要約 文字起こしと要約の時間を2,800時間から1,400時間に(50%減の見込み) 4.7万人
企画書・計画書の案の作成 1件あたり1.5時間(約30%)削減 1.8万人
議会の想定問答の案の作成 1問5時間の削減×年50問=250時間 5.7万人
ローコードの作成(マクロ、VBAなど) 775.35時間の業務時間を短縮 9.4万人

出典:総務省「自治体における生成AI導入状況」令和7年6月30日版

自治体のAI活用事例8選

自治体のAI活用事例8選

ここでは、自治体が自らのホームページや記者発表で公開している取り組みを8つ紹介します。内容は、それぞれの自治体の公式の発表に書かれていることだけをもとにしています。

自治体 AIを使った業務 開始
神奈川県横須賀市 職員の文書作成・要約 2023年4月
神奈川県横浜市 職員の内部事務 2023年11月
兵庫県神戸市 全職員の業務、税の電話問い合わせ 2024年2月
大阪府大阪市 議事録の要約、相談記録の作成 2024年4月
東京都渋谷区 住民の問い合わせ 2025年3月
岩手県一関市 庁舎の案内、電話の問い合わせ 2025年3月
千葉県 福祉の相談窓口の案内 2025年2月
山形県山形市 孤独・孤立の悩みの相談 2024年7月

神奈川県横須賀市:チャットツールで全職員が生成AIを使う

横須賀市は2023年4月、ChatGPTの全庁的な活用実証を始めると発表しました。職員がふだん使っている自治体向けのビジネスチャット「LoGoチャット」にChatGPTのAPIを連携させ、すべての職員が文章の作成や要約、誤字脱字のチェック、アイデア出しに使えるようにしています。入力した情報が二次利用されない方式を使い、機密情報や個人情報は扱わない運用としました。発表の文書そのものも、ChatGPTで下案を作り職員が校正したものです。

出典:横須賀市「横須賀市役所でChatGPTの全庁的な活用実証を開始」(2023年4月18日)

神奈川県横浜市:情報を守る独自の生成AI環境を構築

横浜市は2023年11月22日から2024年3月末まで、約200人の職員を対象に生成AIの実証利用を行いました。入力した情報がAIの学習に使われない「Azure OpenAI Service」を使い、扱う情報を国内のサーバーに限る市独自の環境をつくったうえで、ガイドラインの策定と研修もあわせて行っています。用途は議事録の作成や要約、校正、アイデア出しといった内部の事務に限り、個人情報などの機密性のある情報は扱わないとしています。

その後、2024年11月には、生成AIの環境に市の業務情報を連携させる「生成AI利活用実証支援委託」を契約しています。

出典:横浜市 記者発表「庁内で『生成AIの実証利用を開始』します!」(2023年11月22日)、横浜市「生成AI利活用実証支援委託」

兵庫県神戸市:全職員の利用から税の電話の自動応答まで

神戸市は、2023年6月から3か月間、独自の利用環境でChatGPTを試したあと、2024年2月から全職員を対象にMicrosoft Copilotの利用を始めました。2026年4月からは、庁内の情報の検索や業務ごとの専用アプリ、指示文の入力の補助を備えた庁内のAI基盤「KOBE AI PORT」の活用も始めています。AIの利用に関する条例と、生成AIの利用ガイドラインにもとづいて進めているのが特徴です。

住民対応では、2024年度時点で年に約40万件ある税務部への電話問い合わせのうち、一般的・定型的な内容に生成AIの自動音声応答で答え、市民の自己解決を助けて電話対応の省人化をめざす業務を、2026年度に委託しています。

出典:神戸市「生成AIの利活用」、神戸市「生成AI自動音声応答サービスを活用した税務部電話問合せ改善業務」【事業者の決定】

大阪府大阪市:条件つきで個人情報を入力できるようにした

大阪市は、庁内のネットワークと直接つながったクラウド環境「大阪市共通クラウド」の上に、職員向けのAIアシスタント「Oasis」を構築しています。入力したデータが学習に使われない安全な環境であることから、議事録の要約や市民との相談記録表の作成のように、少数の個人情報が含まれる文章も扱えるようにしました。

一方で、一連の処理で本人の数が1,000人以上になる個人情報の入力や、マイナンバーを含む特定個人情報の入力は禁止しています。「個人情報は一律に禁止」ではなく、環境の安全性に合わせて入力してよい範囲を決めている点は、ほかの自治体でも参考になります。

出典:大阪市生成AI利用ガイドライン 第2.4版(2025年12月22日)

東京都渋谷区:区の情報をもとに答える生成AIチャットボット

渋谷区は2025年3月26日から、区の行政サービスの手続きや制度についての問い合わせに生成AIが自動で答えるチャットボットを始めました。区のウェブサイトとFAQをもとに回答を作り、あわせて関連するページを案内します。英語、中国語(簡体・繁体)、フランス語、韓国語にも対応しています。

利用者には、質問によっては正しく答えられない場合があること、個人情報を入力しないことを示し、入力された内容は回答用の学習データとして使わないと明記しています。

出典:渋谷区「渋谷区生成AIチャットボット」

岩手県一関市:音声で答える案内窓口とAI電話

一関市は2025年3月17日、市役所本庁の総合案内に、来庁者の声での問い合わせに音声で答える案内システムを置きました。来庁者が近づくと声をかけ、用件を話すと音声とあわせて庁舎の案内図を表示します。マイナンバーカードなどの本人確認書類を読み取らせると、窓口に出す申請書に氏名や住所を印刷することもできます。会話が終わると、話した内容は生成AIに記憶されない設定です。

2026年3月16日からは、生成AIを使った対話型のAI電話も始めました。マイナンバーカード、転入・転出、住民票や戸籍の証明書、印鑑登録、パスポートについての問い合わせに24時間答え、答えられない場合は担当職員が折り返します。当面は運用を検証する期間としています。

出典:一関市「AI案内窓口を体験してみませんか?」、一関市「対話型AI電話が問い合わせに応答します」

千葉県:福祉の困りごとを聞いて相談先を案内

千葉県は2025年2月27日から、生成AIを使ったチャットボット「いつでも福祉相談サポット」を導入しています。生活困窮、介護、子育てなど福祉の困りごとを24時間いつでも聞き取り、内容を整理したうえで、県や市町村の担当部署、相談支援機関を案内します。どこに相談すればよいかわからない人が、適切な窓口にたどり着けるようにするのがねらいです。

県が主導して市町村の意見も取り入れ、県以外の市町村や関係団体の窓口も案内できるようにしました。国の「デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプ)TYPES」を使い、県内の市町村などと連携して実施しています。

出典:千葉県「福祉分野における生成AIを活用したチャットボット『いつでも福祉相談サポット』」

山形県山形市:生成AIと専門スタッフで24時間の相談

山形市は2024年7月から、傾聴型の生成AIと、社会福祉士や精神保健福祉士などの専門スタッフが組む24時間のLINE相談「つながりよりそいチャット」を運用しています。生成AIが24時間365日話を聞き、相談の内容や状況によっては専門スタッフに切り替わります。2023年2月の試行を経て、孤独・孤立の悩みを気軽に相談できる場として始めました。

出典:山形市「つながりよりそいチャットのご案内」

自治体がAIを活用するメリット

自治体がAIを活用するメリット

事例を見ると、AIの効果は「職員の時間」「住民の便利さ」「知識の引き継ぎ」の3つに分けて考えられます。

定型の作業が減り、職員が相談や企画に時間を使える

議事録や文書の下書き、申請書の入力のような作業が短くなると、その分を住民の相談や政策づくりに回せます。総務省のガイドブックも、単純・定型の作業の「自動化」と、人では難しかった分析や判断の「高度化」の両方をAIのメリットに挙げています。

住民が時間や言葉を気にせず問い合わせできる

渋谷区のチャットボットや一関市のAI電話のように、夜間や休日でも、外国語でも答えられる窓口をつくれます。山形市の相談のように、人に話しにくい悩みを打ち明ける入口としても使われています。

ベテランの知識を若手や異動者に引き継げる

例規やマニュアル、過去の答弁をRAGで参照できるようにすると、経験の浅い職員でも根拠にたどり着きやすくなります。ガイドブックは、庁内の文書やマニュアルを生成AIに参照させる使い方が、旅費や会計といった庁内事務で役立っていると述べ、専門人材の不在やベテランの退職によるノウハウの不足を補うことに期待を寄せています。

自治体のAI活用の課題と対策

自治体のAI活用の課題と対策

総務省の調査では、生成AIの導入の課題として「取り組むための人材がいない又は不足している」「AI生成物の正確性への懸念がある」「導入効果が不明」が多く挙がりました。AI全般では「コストが高額で予算を獲得するのが難しい」も上位です。課題ごとの対策を見ていきましょう。

人材の不足:外部の力と庁内の育成を組み合わせる

AIに詳しい職員を自前でそろえるのは、特に小さな団体では難しいものです。総務省のガイドブックは、外部の人材の任用や事業者への委託、地域情報化アドバイザーの派遣と、職員の研修による育成の両面で考えるよう勧めています。導入後は、すぐ使える指示文の例やレベル別の研修を用意して、使う職員を増やすことが大切です。研修の組み立て方は 生成AI研修の選び方 も参考にしてください。

回答の正確さ:人が確かめるルールと用途の線引き

生成AIの出力には誤りが含まれることがあります。ガイドブックは、用途ごとに求める正確さの水準が違うことを意識し、生成物を人が確かめるルールを設けることが重要だとしています。住民向けに表示する場合は、神戸市の電話応答のように、あらかじめ用意したFAQの中から答えを選ぶ形にすると、誤った回答を作るおそれを抑えられます。

情報漏えい・個人情報:入力してよい情報を決める

入力した情報が学習に使われない設定になっているか、データがどの国のサーバーに置かれるかを、使う前に確かめます。そのうえで、横浜市や横須賀市のように個人情報を扱わない運用から始めるのか、大阪市のように安全な環境を用意して範囲を決めて扱うのかを決めます。職員が私物のスマートフォンに入れた生成AIに、仕事で知った情報を入力しないことも全職員に周知しましょう。対策の全体像は 生成AIのセキュリティ対策 でも解説しています。

予算:小さく試して効果を数字で示す

効果がわからないままでは、予算は通りにくくなります。まずは議事録や文書作成のような部署共通の業務で試し、短くなった時間を測って示すと、次の予算の説明がしやすくなります。県と市町村の共同調達や、国の交付金を使える場合もあります。

公平性と説明責任:最終的な判断は職員が行う

行政の判断は、住民の権利や義務にかかわります。AIの出力をそのまま決定にせず、職員が根拠を確かめて判断する形を守ることが大切です。ガイドブックも、どの業務でどんな個人情報を入力し、それが住民サービスの向上にどうつながるのかを、住民に丁寧に説明する姿勢を求めています。住民向けのサービスでは、AIが答えていることと、誤りがありうることをはっきり示しましょう。

押さえたいガイドラインと庁内ルール

ガイドラインと庁内ルール

総務省の調査では、生成AIの利用ガイドラインを策定済みの団体は647団体で、未策定の1,004団体のほうが多い状況でした。ただし、生成AIを導入済みの団体に限ると82.7%が策定しています。導入の前に、国の資料と自分の団体のルールを確かめておきましょう。

総務省のガイドブックと利用ガイドラインのひな形

総務省の「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>」(令和7年12月 第4版)は、AIの導入の手順や生成AIの使い方、個人情報の扱い、先行団体の取り組みをまとめた資料です。第4版では、自治体が作る「生成AIシステム利用ガイドライン」のひな形が別添として付きました。ゼロからルールを書くより、ひな形を自分の団体に合わせて直すほうが早く進みます。

情報の機密性に応じてサービスを使い分ける

「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」(令和7年3月改訂)は、情報の機密性に応じて、使えるクラウドサービスの範囲を分けています。ガイドブックの整理をもとに要点をまとめました。

情報の分類 パブリッククラウドサービスの扱い
機密性3A 国の行政文書の管理のルールにしたがう(極秘文書はインターネットに接続しない機器などに保存)
機密性3B ISMAPに登録されたサービスは利用できる(アクセス制御や暗号化などの対策が必要)
機密性3C・機密性2 アクセス制御や暗号化などの対策をすれば利用できる。ただし、約款への同意だけで使えるサービスでは機密性2以上の情報は扱えない
機密性1 利用できる

あわせて、入力した情報を学習させない仕組み(オプトアウト)になっているかを確かめることが、生成AIならではの注意点として挙げられています。

デジタル庁の調達・利活用ガイドラインとAIの責任者

国は、デジタル庁の「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」にもとづき、各府省庁にAIの利活用とリスク管理の責任者であるAI統括責任者(CAIO)を置いています。このガイドラインには、調達や契約で確かめる事項をまとめたチェックシートも付いています。総務省のガイドブックは、自治体でもAIの利活用とリスク管理の責任者をはっきりさせる必要があるとしています。

庁内ルールに入れておきたい項目

事例の自治体の発表やガイドブックの内容をもとに、庁内ルールで決めておきたい項目を表にまとめました。

項目 決めておくこと
責任者 AIの利活用とリスク管理の責任者、相談の窓口
使ってよいサービス 庁内で認めるサービスと、私物の機器や個人のアカウントでの利用の禁止
入力してよい情報 機密性の区分ごとの可否、個人情報やマイナンバーの扱い
出力の確かめ方 職員が事実や数字を確かめる手順、住民向けに出すときの確認者
住民への表示 AIが答えていること、誤りがありうること、問い合わせ先の明示
著作権 生成した文章や画像を公開するときの確認
トラブルのとき 誤った回答や情報漏えいが起きたときの報告の流れ

自治体のAI導入の進め方

AI導入の進め方5ステップ

総務省のガイドブックは、自治体のAIの導入を「事前検討」「計画立案」「調達・事業者選定」「AIの導入」「運用」の5つの段階に分けています。それぞれで行うことを見ていきましょう。

01

事前検討:解決したい課題と業務を決める

地域や業務の課題を洗い出し、AIで解決できそうな業務を具体的に決めます。庁内の検討体制をつくり、事業者への情報提供依頼(RFI)で実現の方法や費用の見当をつけ、関係する部署とも事前に話し合います。

02

計画立案:データと情報セキュリティを確かめる

AIの利活用の方針、扱うデータと個人情報の扱い、情報セキュリティの要件を確かめ、AI導入の計画書にまとめます。今の作業時間や件数をこの段階で測っておくと、あとで効果を示しやすくなります。

03

調達・事業者選定:仕様書を作って選ぶ

調達の方式を決め、仕様書を作って事業者を選びます。データの扱いや学習への利用の有無、トラブルのときの責任の範囲を契約で決めておきます。複数の事業者から見積もりを取り、価格と内容を比べましょう。

04

AIの導入:小さく試してから広げる

既製のサービスを使う場合は環境を整え、独自にAIを作る場合は精度を確かめながら試行導入します。最初は一部の部署や職員で試し、問題がないことを確かめてから全庁や住民向けに広げます。

05

運用:効果を測り、改善を続ける

利用の状況や効果を定期的に測り、FAQや参照させる資料を直していきます。研修や活用例の共有を続け、使う職員を増やします。

最初の業務は、議事録の要約や文書の下書きのように、部署を問わず使えて、効果を時間で測りやすいものを選ぶと進めやすくなります。小さく試して確かめる方法は AIのPoC(実証実験)の進め方 で詳しく解説しています。

自治体のAI導入の費用と調達の考え方

AI導入の費用と調達の考え方

AIの費用は、使うサービスの形と、どこまで自分の団体に合わせるかで大きく変わります。調達の形と、公開されている金額の例を見ておきましょう。

契約の形:約款型のサービスか、個別の契約か

総務省の調査では、生成AIの契約の方法は、利用規約に同意して使う「約款型外部サービス」が503団体、「個別契約など約款型でない形」が365団体でした。約款型は始めやすく費用も抑えやすい一方で、機密性2以上の情報は扱えません。扱う情報に合わせて、契約の形を選ぶことが大切です。

公開されている調達の金額の例

自治体の調達の結果は公開されているため、ほかの団体の金額を参考にできます。事例で紹介した2つの自治体の例です。

自治体 委託の内容 契約金額
横浜市 生成AIの利用環境の提供、市の業務情報との連携、活用の方法づくりの支援(2024年11月契約) 800万円
神戸市 税の電話問い合わせのうち一般的・定型的な内容への生成AIの自動音声応答(2027年3月まで) 1,276万円(税込)

出典:横浜市、神戸市の公表資料。金額は業務の範囲や期間によって変わるため、ほかの団体の金額を見るときは、委託の範囲と期間をそろえて比べることが大切です。

ガイドブックは、RAGの利用料金が一般的なクラウドサービスでは低い金額で提供される例もあるとして、複数の事業者から見積もりを取って価格の妥当性を確かめるよう勧めています。民間の企業向けの費用の目安は AI導入の費用相場 でまとめています。

国の交付金や共同調達を使う

千葉県の福祉相談のチャットボットは、国のデジタル田園都市国家構想交付金を使い、県内の市町村などと連携して実施しました。県が主導して市町村の負担を減らす形です。交付金や補助の制度は年度ごとに変わるため、内閣府・内閣官房やデジタル庁、総務省の最新の公募情報を確かめましょう。

小規模な自治体での進め方

小規模な自治体での進め方

生成AIの導入率に大きな差があるのは、人も予算も限られる小さな団体です。総務省のガイドブックには、小規模な自治体で職員に生成AIを使ってもらうための工夫が、ヒアリングの結果としてまとめられています。

無料で使える国の支援を頼る

総務省の地域情報化アドバイザーは、自治体が無償で支援を受けられる制度です。アドバイザーの支援を受けながら、有志の職員による部署横断のチームで利用基準をつくった例があります。総務省は、自治大学校や地方公共団体情報システム機構(J-LIS)、市町村アカデミーのデジタル分野の研修の情報もまとめて公開しています。

気軽に聞ける場と、定期的な活用例の共有

情報政策の担当課に職員がいつでも質問できるグループチャットをつくる、初心者向けに活用例と指示文を紹介する1枚のちらしを毎週配る、といった工夫も挙げられています。道具を入れるだけでなく、職員が困ったときにすぐ聞ける仕組みをつくることが、使う人を増やす近道です。

県や近くの団体と一緒に進める

ガイドブックでは、県と市町が共同で採用したデジタル人材を市町に配属する例や、近隣の町村が1人の専門人材を共同で確保する例も載っています。千葉県の事例のように、県がまとめてサービスを用意し、市町村の窓口も案内できるようにする形もあります。

導入前のセルフチェック10項目

導入前のセルフチェック10項目

AIの導入を検討する前に、次の10項目を確かめてみましょう。「いいえ」が多い項目から準備を進めると、導入後のつまずきを減らせます。

No. 確かめること 関係する章
1 AIで解決したい業務が1つ以上決まっている 業務別の活用
2 その業務の今の作業時間と件数を測っている 進め方
3 首長や幹部が取り組みを理解し、後押ししている 課題と対策
4 AIの利活用とリスク管理の責任者が決まっている ガイドライン
5 生成AIの利用ガイドラインがある、または作る予定がある ガイドライン
6 入力してよい情報の範囲を機密性の区分ごとに決めている ガイドライン
7 使うサービスが入力した情報を学習に使わないか確かめている 課題と対策
8 AIの出力を職員が確かめる手順を決めている 課題と対策
9 参照させる例規やマニュアル、FAQが最新の内容に整っている AIの種類
10 職員向けの研修と、困ったときの相談先を用意している 小規模な自治体

外部の事業者に相談するときのポイント

事業者への相談のポイント

庁内だけで進めにくいときは、外部の事業者の力を借りるのも方法です。相談先を選ぶときに確かめたい点をまとめました。

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AI研修からシステムの導入・構築・定着まで、一気通貫で支援するサービスです。業務アプリの構築費は事前にいただかず、実際に稼働させ、効果をご確認いただいてからお支払いが始まります。成果報酬型での対応は、当社が小規模と定義するシステムが対象です。

  • 業種・規模を問わず支援どの業務からAIやシステムに置き換えるかを一緒に決め、効果の大きい業務から順に進めます。
  • システム構築は成果報酬型業務アプリの構築費は事前にいただきません。稼働させ、効果をご確認いただいてからお支払いが始まります。
  • AI導入の効果を可視化置き換える業務を一覧にし、導入前後の時間から、空いた時間とかからなくなった費用を毎月記録します。
  • 小さく始めて、リスクを管理影響の小さい業務から始め、AIの実行結果は担当者が確認・承認してから反映します。

相談の前に、対象の業務と扱う情報を決めておく

何に使いたいかが決まっていないと、提案も見積もりも比べられません。最初に置き換えたい業務を1つ選び、今の作業時間と件数、扱う情報の機密性の区分をまとめてから相談しましょう。

事業者に確かめたい質問

入力した情報を学習に使わないか、データをどの国のサーバーに置くか、LGWANの環境やISMAPへの登録にどう対応しているか、誤った回答が出たときにどう直すか、職員への研修や運用の支援をどこまで含むかを確かめます。導入して終わりではなく、使う職員が増えるまで支援してくれるかどうかも、選ぶときの大きな分かれ目です。相談先の選び方は AI導入支援の比較と選び方 でも解説しています。

自治体のAI活用に関するよくある質問

よくある質問
Q. 自治体でChatGPTを使っても大丈夫ですか?
使い方のルールを決めれば使えます。横須賀市は、入力した情報が二次利用されない方式で、機密情報や個人情報を扱わない運用として全庁で使い始めました。約款に同意するだけで使えるサービスでは機密性2以上の情報は扱えないため、入力してよい情報の範囲をあらかじめ決めておきましょう。
Q. 小さな町や村でもAIを導入できますか?
導入できます。総務省の地域情報化アドバイザーを無償で活用したり、県や近隣の団体と共同で調達したりする方法があります。まずは議事録の要約や文書の下書きのように、費用が小さく効果を測りやすい業務から始めるのがおすすめです。
Q. AIではなく職員が行うべき業務は何ですか?
住民の権利や義務にかかわる判断、個別の事情を聞いて寄り添う相談、AIが出した内容の最終確認は、職員が行うべき業務です。山形市の相談のように生成AIが話を聞く場合でも、内容によっては専門スタッフに切り替える仕組みを用意しています。
Q. 住民の個人情報を生成AIに入力してもよいですか?
自分の団体の情報セキュリティポリシーと、使うサービスの環境によって変わります。大阪市は、入力したデータが学習に使われない庁内の環境を用意したうえで、少数の個人情報の入力を認め、1,000人以上の個人情報やマイナンバーを含む情報の入力は禁止しています。多くの自治体は、個人情報を入力しない運用から始めています。
Q. LGWANの環境でも生成AIは使えますか?
自治体向けに提供されている生成AIのサービスには、LGWANの環境から使えるものもあります。総務省の調査では、本運用で導入している生成AIのサービスとして、自治体向けの「LoGoAIアシスタント」が最も多く挙がりました。扱う情報の機密性と、職員がふだん使っている端末の環境に合わせて選び、LGWANへの対応は事業者に確かめましょう。
Q. 生成AIの利用ガイドラインはどう作ればよいですか?
総務省の「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」(令和7年12月 第4版)に、生成AIシステム利用ガイドラインのひな形が付いています。ひな形をもとに、責任者、使ってよいサービス、入力してよい情報、出力の確かめ方、トラブルのときの報告の流れを、自分の団体に合わせて決めていきましょう。
Q. AI活用の効果はどう測ればよいですか?
導入前に、対象の業務の1件あたりの作業時間と月の件数を測っておき、導入後と比べます。総務省の調査で報告されている効果も、議事録の作成時間や企画書1件あたりの時間のように、時間で示されているものが中心です。

まとめ

まとめ

自治体のAI活用は、都道府県や指定都市ではすでに広がり、市区町村ではこれから本格的に始まる段階です。最後に、本記事のポイントを振り返ります。

01
AIを導入している市区町村は58%、生成AIは29.9%。都道府県・指定都市との差はまだ大きい
02
使い道は住民対応・文書作成・議事録・申請書の処理・庁内の調べものが中心で、効果は時間で測りやすい
03
先行する自治体は、入力してよい情報を決め、出力を職員が確かめる形で使っている
04
総務省のガイドブックの5段階とガイドラインのひな形を使うと、ルールづくりと導入を早く進められる
05
小さな団体は、国の無償の支援や県・近隣の団体との共同で、人と予算の不足を補える

生成AIの安全な使い方は 生成AIのセキュリティ対策、職員の研修は 生成AI研修の選び方 もあわせてご覧ください。