年間67万件。損害保険ジャパンで、社内のナレッジ検索システムを通じて寄せられていた照会の数です(出典:損保ジャパン 2025年7月1日発表)。保険金の請求は台風や地震のたびに一度に押し寄せ、保険代理店や社内からの照会も減りません。保険の仕事は件数の波が大きく、人手だけでは吸収しきれません。一方で、査定の担当者もオペレーターも簡単には増やせない。生成AIで何かを変えられそうだと感じていても、病歴のような機微な個人情報や募集のルールを考えると、どの業務から手を付ければよいのか決めきれない。そんな悩みを抱える保険会社や保険代理店の担当者は少なくありません。保険のAI活用は、どの業務から手を付けるかで結果が変わります。

金融庁が2024年10月から11月に金融機関などに行ったアンケートでは、130の回答先のうち93.1%が従来型AIか生成AIを何らかの形で活用しており、回答先の1割強は保険会社でした(出典:金融庁『AIディスカッションペーパー(第1.1版)』2026年3月)。

そこで本記事では、2024年10月以降に保険会社が公式に発表した国内のAI活用事例12件を、保険金の請求・査定、引受、社内照会・コンタクトセンター、募集・代理店支援の業務別に紹介します。あわせて、12件に共通する進め方、リスクと注意点、AI導入の手順と効果の試算、自社に合う領域を選ぶセルフチェック、相談先に聞いておきたい質問リストまでまとめました。

この記事でわかること

  • 保険会社の公式AI事例12件
  • 業務別の効果と出典の確かめ方
  • 最初の1業務の選び方と試算
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保険業界でAI活用が広がる背景

保険業界でAI活用が広がる背景

保険会社と保険代理店が保険業務でのAIの活用を急ぐ背景には、仕事の量、お客さまとの接点、監督当局の姿勢という3つの変化があります。まずは、その3つを順に見ていきましょう。

保険業界でAI活用が広がる背景

照会と問い合わせが、人の手に収まらない

東京海上日動火災保険のコンタクトセンターには、お客さまと保険代理店から年間約700万件の問い合わせが寄せられています。同社は、コールセンター業界ではオペレーターの人材確保が課題になっており、商品やサービスが多様になるにつれて、オペレーターに求められる知識と対応力も増えていると説明しています(出典:東京海上日動 2026年3月4日発表)。

社内でも同じことが起きています。冒頭の損害保険ジャパンでは、ナレッジ検索システムを入れて課題を解決する力は上がったものの、そこでの照会が年間67万件に上り、回答の効率化と負担の軽減が新たな課題になっていました。

写真や書類をWebで受け取る手続きが当たり前に

保険金の請求では、事故の状況を示す写真や見積書をデータで出せる環境が整ってきました。お客さまには便利になった一方で、保険会社には、届いたデータを早く正しく確かめる仕組みが求められています。三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保も、損害の資料をWebで受け取る機会が増えたことを、画像の改変や流用への備えが必要になった理由に挙げています(出典:三井住友海上・あいおいニッセイ同和損保・テックユニオン 2026年8月3日発表)。

金融庁の調査で見る、AI導入の現状

金融庁の同じアンケートでは、AIを何らかの形で利用している回答先のうち71.1%が、幅広く一般の社員に生成AIの利用を認めていました。資料では、専門の人材が限られる小規模な金融機関でも、学習済みの生成AIは比較的容易に導入できることも示されています。

金融庁はこの資料で、リスクへの対応が重要であることを前提としつつ、技術革新に取り残されて良い金融サービスを出せなくなる「チャレンジしないリスク」も十分に認識すべきだとしています。一方で、既存の法令等はAIなど特定の技術を使っているかどうかに関わらず適用されるとも書いています。AIを使っても、意向の把握や説明といった募集のルール、個人情報の扱いのルールは変わらないことを前提に、活用する業務を選ぶことが大切です。

保険業務でAIを活用できる6つの領域

保険業務でAIを活用できる6つの領域

保険の仕事の流れに沿って、保険業務のどこでAIが活用されているかを一覧にしました。始めやすさは、使う文書やデータがそろっているか、お客さまに直接出るかで変わります。

保険業務でAIを活用できる6つの領域

領域 AIでできること 主に使うAI 始めやすさ
保険金の請求・査定 書類の読み取り、損害額の算定の支援 AI-OCR・画像認識・生成AI 規模が大きくなりやすい
引受・リスク評価 病気などのリスクの予測、申込書や診断書の確認 機械学習・AIエージェント データと専門の人材が要る
顧客対応・コンタクトセンター 回答案の提示、通話の要約、手続きの案内 音声認識・生成AI 社員向けから始めやすい
募集・代理店支援 面談の記録の整理、募集文書の点検、代理店の評価 生成AI 点検は始めやすい
不正検知 不正が疑われる請求や画像に印を付ける 機械学習・画像解析 専門の製品を使うことが多い
社内の文書処理・照会対応 規定やマニュアルを調べて答える、文書の下書き 生成AI 最も始めやすい

従来型AIと生成AIは、出したい答えで使い分ける

保険でのAIの活用は、学習させたデータから確率や点数を出す従来型AIと、文章や画像を読んで言葉で答える生成AIの2つに分かれます。どちらが向くかは、出したい答えの形で決まります。

見分け方 従来型AI(機械学習・画像認識) 生成AI(大規模言語モデル)
出てくる答え 確率・点数・区分(リスクの高さ、不正の疑い) 文章・要約・回答案(照会の答え、案内文の下書き)
必要な準備 自社の過去のデータを集めて学習させる 学習済みのモデルに、約款やマニュアルを参照させる
使われている業務 引受のリスク予測、不正請求の検知(事例5・事例2) 照会への回答、募集文書の点検、通話の要約(事例7・事例10)
始めるまでの時間 データの整備から始めるため長くなりやすい 既製のツールなら短い期間で試せる
気をつける点 学習データの偏りが、そのまま判定の偏りになる 事実と違う内容をもっともらしく答えることがある

データと専門の人材がまだそろっていない保険会社は、学習済みの生成AIを文書の仕事に活用するところから始めると、短い期間で効果を確かめられます。実際の仕組みでは、ルールによる判定とAIエージェントを組み合わせる形も出てきています(事例4)。

保険金の請求・査定

保険金や給付金の支払いでは、診断書や本人確認書類、修理の見積書のように、様式の違う書類を大量に扱います。AI-OCRで書類を読み取って入力の手間と転記のミスを減らしたり、写真や見積書から損害額の算定を助けたりする使い方が中心です(事例1)。

保険金の支払いはお客さまの生活に直結します。公表されている事例でも、AIの結果だけで支払うかどうかを決めず、AIは材料をそろえる役にとどめ、最後の判断と説明は担当者が持つ形が基本です。

引受・リスク評価

引受は、申し込まれた保険を引き受けるか、どの条件で引き受けるかを決める業務です。過去の契約や健診のデータから病気のリスクを予測して査定に加える使い方と、申込書や診断書の確認を早くする使い方があります。医務・環境・モラルといった査定の観点ごとにAIエージェントを分け、査定を手分けさせる例も出てきました(事例4・事例5)。

予測の精度は使うデータの質と量で決まり、結果の妥当性を数理の専門家が確かめる必要もあります。データと人材がそろってから取り組む領域です。

顧客対応・コンタクトセンター

通話の内容をリアルタイムで文字にし、問い合わせの内容をAIが読み取ってオペレーターに回答案を示す使い方や、通話を要約して応対の記録の下書きを作る使い方です(事例9)。金融庁のアンケートでは、ハルシネーションなどのリスクを考えて、お客さまに直接提供するサービスへの活用は難しいと判断する先が大半で、職員の応対を助ける使い方が広がっていました。まずはオペレーターが使う回答案から始め、精度と運用を確かめてからお客さまへの自動応答に広げる順番が安全です。仕組みの作り方は 社内AIチャットボットの構築方法 で取り上げています。

募集・代理店支援

パンフレットなどの募集文書を生成AIで点検する、保険代理店から出された資料の評価を生成AIが一次判定する、営業職員の仕事を生成AIで支える、といった使い方があります(事例10〜事例12)。

ただし保険業法は、保険会社や保険募集人に、お客さまの意向を把握し、それに沿った提案と説明を行い、意向と契約の内容が合っているかをお客さまが確かめる機会を設けることを求めています(法第294条の2。出典:金融庁ほか『改正保険業法の施行後の保険代理店における対応状況等について』)。面談の記録の要約や提案の下書きはAIに任せられますが、意向を聞き取り、説明し、確かめるのは募集人の仕事として残しておきましょう。

不正検知

契約の内容や事故の申告、過去の請求、気象などの外部のデータを組み合わせて、不正が疑われる請求に印を付ける使い方です。生成AIで作ったり加工したりした画像を使う不正が心配されるようになり、2026年には損害保険の大手が相次いで、請求の画像を調べる機能を入れました(事例2・事例3)。データと専門の技術が要るため、専門の製品やベンダーと組むのが一般的です。

社内の文書処理・照会対応

商品の規定や事務の手続きを社員が普段の言葉で質問すると、生成AIがマニュアルを調べて回答案と参照先を示す使い方です。報告書や案内文の下書き、議事録の要約のように、型の決まった文書づくりも得意です(事例6〜事例8)。

お客さまに直接見せないため、リスクを抑えながら効果を確かめられます。マニュアルや過去の回答のように、すでに文書がそろっている業務から選ぶと、始めるまでの準備が少なくて済みます。情報の扱い方のルールづくりは 生成AIの情報漏洩対策 もあわせてご覧ください。

商品開発・保険料率の算定は、その先の段階

6つの領域でデータがたまってくると、その先に商品開発と保険料率の算定が見えてきます。引受のために作ったリスク予測のモデルは、どの層にどの保障を用意するかを検討する材料にもなります(事例5)。

ただし保険料率は、算出の根拠を数理の専門家が確かめる必要があり、商品の内容や料率を変えるときには所定の手続きも伴います。AIの出力をそのまま料率にすることはできません。まずは引受や支払いでデータの質を上げ、分析の土台をつくるところから進めるのが現実的です。

保険のAI活用事例12件の一覧

保険のAI活用事例12件の一覧

ここからは、保険会社と、その取り組みを支えるベンダーが公式に発表した国内の事例を12件紹介します。まずは一覧で全体を見比べてから、気になる事例を読んでください。

保険のAI活用事例12件の一覧

業務・効果・発表年月で比べる一覧表

業務ごとに並べました。会社名から各事例へ移れます。効果は各社の発表の表現のままで、見込みや目標の数字にはそのことを書いています。かっこ内は発表の年月です。

業務 会社・AIでしたこと AIの種類 発表されている効果(発表)
請求・査定 1. 第一生命保険|書類の読み取りを生成AIを使ったAI-OCRに更改 生成AI・AI-OCR 本人確認書類の認識精度 約2割向上、ランニングコスト 約1/2(2026年4月)
請求・査定 2. 東京海上日動火災保険|火災保険の請求画像の加工と使い回しを検知 機械学習・画像解析 数値の公表なし(2026年9月)
請求・査定 3. 三井住友海上・あいおいニッセイ同和損保|生成AIで作られた損害画像を検知 画像解析 数値の公表なし(2026年8月)
引受 4. チューリッヒ生命保険|12体のAIエージェントで新契約を査定 マルチAIエージェント 自動査定率を60%へ向上させることを目標(2026年6月)
引受 5. 明治安田生命保険|AIのリスク予測を引受査定に組み合わせ 機械学習 数値の公表なし(約130万件のデータでモデルを構築)(2025年1月)
全社活用 6. ライフネット生命保険|生成AIの全社利用から、AIエージェントを全部門へ 生成AI・AIエージェント 数値の公表なし(社内の生成AI利用率100%)(2026年8月)
社内照会 7. 損害保険ジャパン|照会への回答案を生成AIで作成 生成AI AIが回答できる照会で業務時間 約4割削減(トライアル)(2025年7月)
社内照会 8. 三井住友海上火災保険|社員の声で業務特化型LLMを開発 生成AI 数値の公表なし(約1.2万人のフィードバックを学習)(2025年4月)
コンタクトセンター 9. 東京海上日動火災保険|回答案の提示と記録の自動化 音声のテキスト化・生成AI お客さま向けの応対時間 最大約30%削減など(見込み)(2026年3月)
募集文書 10. あいおいニッセイ同和損害保険|募集文書の点検に生成AI 生成AI 初期点検の時間を半分、約4,000時間分の効率化(見込み)(2024年11月)
代理店支援 11. 損害保険ジャパン|代理店の業務品質の評価で生成AIが一次判定 生成AI 数値の公表なし(2026年1月)
営業支援 12. 明治安田生命保険|営業職員向けのデジタル秘書 生成AI等 数値の公表なし(対象は約36,000人を超える営業職員)(2025年1月)

事例の選び方と、数字の読み方

載せたのは、2024年10月以降に発表された国内の事例で、導入した保険会社やベンダーが自ら公表しているものだけです。数字は出典のページにあるものをそのまま書き、丸めたり足し合わせたりしていません。見込みや目標、トライアルの段階の数字には、そのことを書いています。

今回の条件で数字まで確かめられた事例は、大手の保険会社が中心です。従業員数は12件とも発表の中で示されていないため、各事例の表では「公表なし」としています。規模の違う会社がどう当てはめればよいかは、代理店・中堅・大手で変わる最初の一歩で整理しました。

自社で事例を調べるときも、同じ見方が役に立ちます。数字が実績か見込みか、何件・何人を対象にした数字か、いつの発表かの3つを、発表した会社のページで確かめてから社内の資料に使いましょう。

保険金の請求・査定でのAI活用事例

保険金の請求・査定でのAI活用事例

保険金や給付金の支払いでは、診断書や本人確認書類、修理の見積書のように、様式の違う書類と画像を大量に扱います。ここでは、書類の読み取りと、届いた画像が本物かどうかの確認にAIを使った3件を紹介します。どの事例も、AIは材料をそろえる役にとどめ、支払うかどうかの最終判断は担当者が行っています。

保険金の請求・査定でのAI活用事例

第一生命|機器の保守期限を機に、書類の読み取りを生成AIへ切り替え

会社 第一生命保険株式会社
規模 公表なし
業務 保険金・給付金の支払いや各種契約手続きでの書類の読み取り
AIの種類・ツール 生成AI・AI-OCR(Microsoft Azure の Azure OpenAI と Azure Document Intelligence、富士フイルムビジネスイノベーションの独自開発AI-OCR)
効果 免許証等の本人確認書類の帳票認識・文字認識精度が約2割向上。ランニングコストを約1/2に削減
発表 2026年4月
出典 第一生命 ニュースリリース(2026年4月28日)

第一生命保険は2020年7月から、保険金・給付金の支払いや契約の手続きでAI-OCRによる業務の自動化を進めてきました。ところが、社内に置いた従来の仕組みはハードウェアの保守期限を迎え、作り替えが必要になっていました。

そこで、Microsoft Azure 上の「Azure OpenAI」と「Azure Document Intelligence」を使うクラウドの仕組みに切り替え、2026年4月24日から業務で使い始めました。定型の帳票と非定型の帳票で読み取りの方法を使い分け、LLMによる読み取りと人の点検を組み合わせています。

免許証などの本人確認書類の認識の精度は約2割上がり、クラウドに移したことで運用にかかる費用は約1/2になりました。

参考になる点:機器や契約の更新の時期は、読み取りの仕組みを生成AIで見直すよい機会になります。

東京海上日動|火災保険の請求画像から、生成AIの加工と使い回しを探す

会社 東京海上日動火災保険株式会社
規模 公表なし
業務 火災保険の保険金支払での不正請求の検知
AIの種類・ツール 機械学習・画像解析(Shift Technology 社と連携)
効果 数値の公表なし
発表 2026年9月
出典 東京海上日動 ニュースリリース(2026年9月30日)

東京海上日動火災保険は、事故の写真や見積書をデータで出せるようにして、請求の手続きを便利にしてきました。その一方で、写真の改ざんに加え、生成AIで精巧な画像を作ることも容易になり、不正請求の手口がさらに巧妙になることを懸念していました。

同社は2022年からShift Technology社と組み、契約内容や事故の申告に気象データなどの外部データも加えて、不正請求の兆候を早くつかむ仕組みを使ってきました。2023年からは請求書類の整合性の確認にも広げ、2026年7月には複数の請求で同じ画像や似た画像が使われていないかを調べる機能を、9月には生成AIによる作成・加工が疑われる画像を見つける機能を加えています。

検知の結果は支払いの可否を機械的に決めるものではなく、状況を確かめる際の参考情報として使い、最終的な判断は従来どおり担当者が行います。

参考になる点:不正の検知は一度で作り込まず、手口の変化に合わせて機能を足していく前提で設計しておくと長く使えます。

三井住友海上・あいおいニッセイ同和損保|生成AIで作られた損害写真を見抜く

会社 三井住友海上火災保険株式会社、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社。共同開発はテックユニオン株式会社
規模 公表なし
業務 保険金の支払いでの損害立証資料(損害状況写真、修理見積書、領収書など)の確認
AIの種類・ツール 画像解析(画像の電子的な特徴と付随情報を、複数の検知技術で多層的に分析する機能)
効果 数値の公表なし
発表 2026年8月
出典 三井住友海上・あいおいニッセイ同和損保・テックユニオン ニュースリリース(2026年8月3日)

画像生成AIの広がりで、本物かどうかの見極めが難しい偽の画像を簡単に作れるようになりました。損害保険でも、これを悪用した不正請求のリスクが表に出始めています。損害の資料をWebで受け取る機会が増え、生成AI以外の手口である画像の改変や流用への備えも必要になっていました。

両社はテックユニオンと共同で、損害状況の写真や修理見積書、領収書などの画像を対象に、生成AIによる作成・加工や改変・流用の可能性がある画像を見つける機能を開発しました。2026年8月から、両社の保険金の支払い業務に導入しています。両社は、国内の保険会社として初めての導入だとしています(両社調べ)。

検知の結果は損害サポート部門の参考情報として使い、支払いの最終判断は従来どおり担当者が行います。お客さまの請求の手続きは変わらず、新たな負担もないとしています。

参考になる点:検知の結果を判断ではなく参考情報と位置づけると、お客さまの手続きを変えずに確認だけを厚くできます。

引受審査でのAI活用事例

引受審査でのAI活用事例

引受は、申し込まれた保険を引き受けるか、どの条件で引き受けるかを決める業務です。査定の観点ごとにAIを分ける方法と、従来の基準にAIの予測を足す方法の2件を並べます。保険料率の算定にAIを使った国内の公式事例は、今回の条件では見つかりませんでした。

引受審査でのAI活用事例

チューリッヒ生命|12体のAIエージェントが、新契約の査定を分担

会社 チューリッヒ生命保険株式会社
規模 公表なし
業務 新契約の査定(医務査定・環境査定・モラル査定(不正検知)を含む総合査定)
AIの種類・ツール マルチAIエージェント(新契約査定システム「New Business 2.0」)
効果 自動査定率を60%に向上させることを目指す(導入時点での目標)。手動査定の案件でも査定業務に要する時間の短縮を目標に掲げている
発表 2026年6月
出典 チューリッヒ生命 プレスリリース(2026年6月25日)、同(2026年7月17日)

チューリッヒ生命保険では、複雑な案件を手作業で査定する担当者の負担が大きく、査定の期間が長くなると、保険募集人やお客さまの満足度が下がることが課題になっていました。

そこで2026年7月1日から、新契約の査定システム「New Business 2.0」の導入を始めました。医務査定・環境査定・モラル査定(不正検知)などの分野に特化した12体のAIエージェントを組み込み、総合査定に対応させています。同社は生命保険業界で初めての取り組みだとしており、このシステムは「Insurance Asia Awards 2026」の「AI Initiative of the Year」を受賞しました。

同社は自動査定率を60%に上げることを目標に掲げています(導入時点での目標)。手動で査定する案件でも査定業務の時間を短縮することを目指していますが、短縮の幅は2本の発表で表現が異なるため、ここでは割合を示していません。

参考になる点:審査を確認の観点ごとに分けると、AIに任せる範囲を一つずつ決めやすくなります。

明治安田生命|約130万件の健診データで、引き受けられる人を広げる

会社 明治安田生命保険相互会社(東京都千代田区)
規模 公表なし
業務 生命保険の引受査定(「循環器病 対策Pro」が対象)
AIの種類・ツール 機械学習(独自のリスク予測「健活未来予測モデル」)
効果 数値の公表なし(約130万件のデータでモデルを構築。より多くのお客さまの引き受けが可能になったとしている)
発表 2025年1月
出典 明治安田 ニュースリリース(2025年1月21日)

明治安田生命保険の引受では、これまで傷病歴や現在の健康状態をもとに判断する、医学的な査定の方法を使ってきました。

2025年1月6日に発売した「循環器病 対策Pro」を対象に、AIを使った独自のリスク予測「健活未来予測モデル」を、この医学的な査定に組み合わせました。モデルは、同社の保険に加入しているお客さまの匿名化したデータ約130万件の健診情報と過去の病気の罹患歴をもとに、機械学習で作っています。対象は、健康診断書を出した契約年齢50歳以上の契約です。

これにより、今まで以上に正確できめ細かな査定ができるようになり、より多くのお客さまを引き受けられるようになったとしています。

参考になる点:AIを従来の基準の置き換えではなく、組み合わせる形で使うと、引受の判断を説明しやすくなります。

社内照会・コンタクトセンターでのAI活用事例

社内照会・コンタクトセンターでのAI活用事例

商品の規定や事務の手続きを社員が普段の言葉で質問すると、生成AIがマニュアルを調べて回答案と参照先を示す。保険のAI活用でいちばん広がっているのが、この社内照会です。同じ仕組みは、オペレーターがお客さまに答えるコンタクトセンターにも使われています。オンライン専業の生命保険会社の全社導入から、大手損保の照会対応、年約700万件の窓口まで4件を並べます。

社内照会・コンタクトセンターでのAI活用事例

ライフネット生命|社員全員が生成AIを使う会社が、次にAIエージェントを全部門へ

会社 ライフネット生命保険株式会社(東京都千代田区)
規模 公表なし
業務 各部門の業務プロセスの自動化(全部門)
AIの種類・ツール 生成AI・AIエージェント(Googleの技術をもとに自社開発)
効果 数値の公表なし(社内の生成AI利用率は100%。2026年3月31日時点の総合職正社員(休職者を除く)のうち、自社開発のLLMツールまたはGoogle Workspace with Gemini の利用経験者の割合)
発表 2026年8月
出典 ライフネット生命 ニュースリリース(2026年8月25日)

オンラインで保険を販売するライフネット生命保険では、社内の生成AIの利用率がすでに100%に達し、全社員が日常的にAIを使う状態ができていました。一方で、人がそのつど指示を出すチャット型のAIでは、複雑な定型業務の自動化には限界があったとしています。

そこで、Googleの技術をもとに自社でAIエージェントを開発し、2026年7月末に全部門への導入を終えました。複数のシステムや条件分岐をまたぐ業務を、自動かつ自律的に終わらせることを目指す仕組みです。自社開発にしたことで、金融機関に求められるセキュリティの水準も独自に満たせたとしています。

2026年7月からは全部門を対象にした研修も始め、部門ごとに指名した推進の担当者が、自部門の業務の流れをAIエージェントで設計できるようにしています。

参考になる点:まず全社員が生成AIを使える状態をつくり、そのうえで部門ごとの自動化へ進む順番は、専任の組織が小さい会社でも取り入れやすい進め方です。

損保ジャパン|年67万件の照会に、生成AIが回答案と根拠を並べる

会社 損害保険ジャパン株式会社
規模 公表なし
業務 代理店と営業店、営業店と本社の間の照会への回答
AIの種類・ツール 生成AI(照会回答支援システム「おしそんLLM」。エンジニア中心の内製チームで開発)
効果 トライアルで、「おしそんLLM」が回答可能な照会(全体の約6割相当)に対して約4割の業務時間削減効果
発表 2025年7月
出典 損保ジャパン ニュースリリース(2025年7月1日)

損害保険ジャパンは2017年から、Q&Aを横断して検索し、解決できなければそのまま本社に照会できるナレッジ検索システム「教えて!SOMPO」を使ってきました。ただ、そこでの照会は年間67万件に上り、回答の負担を軽くすることが新たな課題になっていました。

2023年から、マニュアルやQ&Aのデータをもとに回答案を作る「おしそんLLM」をエンジニア中心の内製チームで開発し、2024年度に一部の営業店と本社で試しました。画面には回答案と参照先の資料が並び、回答する社員が内容を確かめたうえで答えます。

トライアルでは、AIが答えられる照会(全体の約6割相当)で約4割の業務時間の削減効果が認められ、2025年6月に全国の営業店と本社へ広げました。

参考になる点:回答案と一緒に根拠の資料を表示しておくと、確かめる人が誤りに気づきやすくなります。

三井住友海上|約1.2万人の社員の声で、照会に答えるAIを育てる

会社 三井住友海上火災保険株式会社。共同開発は日本電気株式会社
規模 公表なし
業務 損害保険の商品規定や事務手続きのルールの社内照会への回答
AIの種類・ツール 生成AI(NECの「cotomi」をベースにした業務特化型LLM。社内の生成AI基盤「MS-Assistant」、Azure OpenAI Service)
効果 数値の公表なし(約1.2万人の社員のフィードバックを分析・学習)
発表 2025年4月
出典 三井住友海上・NEC ニュースリリース(2025年4月23日)

三井住友海上火災保険は2023年10月、全社員が使う生成AIの基盤「MS-Assistant」に、商品規定や事務手続きのルールの照会に自動で答える機能を加えていました。次の課題は、回答の精度を上げることでした。

NECの生成AI「cotomi」をもとに業務に特化したLLMを共同で開発し、2025年4月22日から運用を始めました。約1.2万人の社員のフィードバックを分析・学習し、文書の検索などに使える仕組みにしています。ハルシネーションに備え、適切な利用のルールも全社員に周知しています。

このLLMとAzure OpenAI Serviceの照会支援機能を組み合わせて回答の精度が上がったことを確かめ、全社に広げました。今後は保険代理店のシステムでの生成AIの活用も検討するとしています。

参考になる点:使う人の評価を集める仕組みを最初から入れておくと、使いながら回答の精度を上げられます。

東京海上日動|年約700万件の窓口で、通話中のAIが回答案を出す

会社 東京海上日動火災保険株式会社。運用は株式会社東京海上日動コミュニケーションズ
規模 公表なし
業務 お客さま・代理店向けのコンタクトセンター
AIの種類・ツール 音声のテキスト化・生成AI(ツール名は公表なし)
効果 東京海上日動コミュニケーションズで、お客さま向けの応対時間 最大約30%・年間約58,000時間、代理店向け 最大約10%・年間約32,000時間の削減を想定(見込み。24年度の入電件数に基づく算出)
発表 2026年3月
出典 東京海上日動 ニュースリリース(2026年3月4日)

東京海上日動火災保険のコンタクトセンターには、お客さまと保険代理店から年間約700万件の問い合わせが寄せられます。応対の品質をそろえることに加え、オペレーターがより専門性の高い問い合わせに集中できる体制づくりが課題でした。

2026年3月から、東京海上日動コミュニケーションズが担うコンタクトセンターの主要業務にAIを導入しました。通話の内容をリアルタイムで文字にして問い合わせの内容を読み取り、オペレーターに回答案を示します。通話の要約や記録の作成も自動にし、入電から終話後の管理業務までをAIが支えます。

年間約200万件超の入電がある同社では、お客さま向けで1件あたり約5分・年間約70万件、代理店向けで1件あたり約1.5分・年間約130万件をもとに、応対時間の削減を見込んでいます。将来はAIエージェントによる24時間365日の自動応対を目指すとしています。

参考になる点:効果を「1件あたりの短縮時間×件数」で先に見積もっておくと、AIの導入後に答え合わせができます。

募集・営業・代理店支援でのAI活用事例

募集・営業・代理店支援でのAI活用事例

募集文書の点検、保険代理店の評価、営業職員の支援でも、AIは下読みや一次判定を出し、人が確かめる形で使われています。保険業法の意向把握・確認のルールがかかる領域なので、お客さまに出す前に人が確かめる手順を外していないかが共通の見どころです。

募集・営業・代理店支援でのAI活用事例

あいおいニッセイ同和損保|年約8,000件の募集文書の点検に生成AI

会社 あいおいニッセイ同和損害保険株式会社(東京都渋谷区)。共同開発は株式会社野村総合研究所
規模 公表なし
業務 保険募集文書の審査・点検
AIの種類・ツール 生成AI(Claude 3.5 Sonnet、AWS)
効果 年間約8,000件申請される保険募集文書の初期点検業務にかかる時間を半分に圧縮し、約4,000時間分の効率化(見込み)
発表 2024年11月
出典 あいおいニッセイ同和損保 ニュースリリース(2024年11月22日)

あいおいニッセイ同和損害保険では、パンフレットなどの保険募集文書を、専門の審査部門が複数の担当者の目視で審査しています。作成した部署との間で修正のやり取りが多く、審査が終わるまでに多くの時間がかかっていました。

そこで野村総合研究所と共同で、生成AIで募集文書を点検するツールを開発し、2024年12月から運用を始めると発表しました。会社が決めた点検の項目に沿って、誤字脱字や記載内容の食い違いに加え、保険料に適用する割引率や加入条件の誤りといった保険特有の項目を確かめ、不備の指摘と適切な表現を示します。

初期点検にかかる時間を半分にし、約4,000時間分の効率化につながるとしています。2024年度は審査部門で使い始め、2025年度から営業部支店にも広げる予定と発表していました。

参考になる点:点検の項目が文書になっている業務は、その項目をそのままAIへの指示に使えるため、始めやすい候補になります。

損保ジャパン|代理店の業務品質の評価を、生成AIの一次判定で

会社 損害保険ジャパン株式会社。共同開発は Palantir Technologies Japan 株式会社
規模 公表なし
業務 委託代理店の態勢整備の状況の評価・判定
AIの種類・ツール 生成AI(Palantir Foundry、Palantir AIP)
効果 数値の公表なし
発表 2026年1月
出典 損保ジャパン ニュースリリース(2026年1月21日)

2026年度から、日本損害保険協会が主催する業界共通の「代理店業務品質評価制度」の運用が始まります。損害保険ジャパンでは、保険代理店から出された資料をもとに、決めておいた項目と基準に沿って社員が判定を行ってきました。

同社はPalantir Technologies Japanと組んで評価のシステムを開発し、2025年12月に運用を始めました。資料をシステムに上げると複数の社員が重ねて判定でき、LLMを使った生成AIが一次判定を行って、社員が確かめます。

判定の誤りや結果のばらつきを抑え、判定にかかる作業時間を短くするとしています。保険代理店の自己チェックの結果へのフィードバックの目線をそろえ、代理店との対話や指導の質を上げることも狙いです。

参考になる点:評価や判定の業務では、AIの一次判定を人が確かめる形にすると、担当者による判定のばらつきを抑えやすくなります。

明治安田生命|営業職員約36,000人に、AIのデジタル秘書を

会社 明治安田生命保険相互会社(東京都千代田区)。パートナーはアクセンチュア株式会社
規模 公表なし(対象は約36,000人を超える営業職員)
業務 営業職員の業務の効率化・高度化の支援
AIの種類・ツール 生成AI等(「デジタル秘書 MYパレット」)
効果 数値の公表なし
発表 2025年1月
出典 明治安田 ニュースリリース(2025年1月16日)

明治安田生命保険は、10年計画「MY Mutual Way 2030」のもとで「人とデジタルの効果的な融合」を重点方針の一つに掲げ、生成AIの個別業務での活用を進めてきました。一方で、ハルシネーションなどのリスクや急速な技術の進展に対応するには、自社の知見・人財・基盤がまだ十分ではないとしていました。

そこで2025年1月、アクセンチュアと包括的なパートナーシップ契約を結びました。取り組みの例に挙げたのが、生成AIなどで全従業員の業務を支える「デジタル秘書」の開発で、約36,000人を超える営業職員向けの「デジタル秘書 MYパレット」から順次展開するとしています。

契約期間は2029年度末までの約5年間、投資の規模は現時点で約300億円を想定し、DX・AI関連で中核を担う人財300名超の育成もめざすとしています。

参考になる点:全社の仕組みを一度に作らず、人数の多い職種向けの道具から順に広げると、現場の慣れ方を見ながら進められます。

12件の事例から見える、成果が出る進め方

12件の事例から見える、成果が出る進め方

12件は大手の保険会社が中心ですが、並べてみると、規模に関係なく真似できる進め方が見えてきます。12件に共通するのは、AIの結果をそのまま使わず、人が確かめる場所を先に決めていることです。

12件の事例から見える、成果が出る進め方

成果が出ている業務に共通する4つの特徴

特徴 事例から見えること 小さな会社での始め方
文書がそろっている 照会の回答や募集文書の点検は、マニュアルや点検の項目がすでにあった(事例7・8・10) 商品資料や手続きのマニュアルを調べて答える社内向けの検索から
最後の判断は人 支払い・評価・回答のどれも、AIの結果を人が確かめてから使っている(事例2・3・7・11) AIの出力をだれが、どこで確かめるかを先に決める
件数が多い 効果の数字を出している事例は、件数と1件あたりの時間から算出している(事例9・10) 今の件数と1件あたりの時間を、試す前に測っておく
使いながら直している 社員の声や手口の変化に合わせて機能を足している(事例2・8) 使った人の評価を月ごとに集め、指示文や参照する資料を直す

社内に広げられた会社がしていること

試したあとに社内へ広がるかどうかは、進め方の差で分かれます。公表されている事例から読み取れる共通点は、次の5つです。

していること 具体的な中身
進める担当を決める 部門ごとに推進の担当を置き、現場の業務からAIの使い道を決めている(事例6)
測る数字を先に決める 件数と1件あたりの時間をもとに、効果を先に見積もっている(事例9・事例10)
範囲を絞って試す 一部の営業店や部署で試し、効果を確かめてから全国へ広げている(事例7)
使う人を育てる 研修を用意し、部門の担当者が業務の流れを自分で設計できるようにしている(事例6)
使いながら直す 社員の評価や不正の手口の変化に合わせて、参照する資料や機能を足している(事例8・事例2)

12件の「参考になる点」を一覧で見る

各事例の最後に書いた「参考になる点」を、自社に当てはめやすいよう1つの表にまとめました。自社の業務に近い行から読んでください。

事例 業務 自社に持ち帰れる要点
1. 第一生命 書類の読み取り 機器や契約の更新の時期に、読み取りの仕組みを生成AIで見直す
2. 東京海上日動 不正請求の検知 手口の変化に合わせて機能を足していく前提で設計する
3. 三井住友海上・あいおいニッセイ同和損保 請求画像の確認 検知の結果は参考情報と位置づけ、お客さまの手続きは変えない
4. チューリッヒ生命 新契約の査定 審査を確認の観点ごとに分け、AIに任せる範囲を一つずつ決める
5. 明治安田生命 引受のリスク予測 従来の基準を置き換えず、AIの予測を組み合わせる
6. ライフネット生命 全部門の業務 全員が生成AIを使える状態をつくってから、部門ごとの自動化へ進む
7. 損保ジャパン 社内照会 回答案と一緒に根拠の資料を画面に出す
8. 三井住友海上 社内照会 使う人の評価を集める仕組みを最初から入れておく
9. 東京海上日動 コンタクトセンター 効果を「1件あたりの短縮時間×件数」で先に見積もる
10. あいおいニッセイ同和損保 募集文書の点検 文書になっている点検項目を、そのままAIへの指示に使う
11. 損保ジャパン 代理店の評価 AIの一次判定を人が確かめ、判定のばらつきを抑える
12. 明治安田生命 営業職員の支援 人数の多い職種向けの道具から順に広げる

止まりやすい進め方と、その避け方

失敗を公表する会社はほとんどないため、ここでは金融庁の資料に寄せられた課題と、事例から読み取れる進め方の違いをもとに、止まりやすい形をまとめます。

止まりやすい形 何が起きるか 避け方
道具を先に決める 使い道を探すところから始まり、効果を測る数字が決まらない どの作業を置き換えるかを先に決め、件数と時間を測ってから道具を選ぶ
コンプライアンス部門への相談が後回し 本番の直前で機微情報の扱いや募集のルールに引っかかり、作り直しになる 対象業務を決めた段階で相談し、入れてよい情報と人が確かめる場所を書面にする
AIの判定をそのまま結果にする 支払いや引受の理由を説明できず、誤りに気づく手前の仕組みがなくなる AIは一次判定までとし、最終の判断と記録は人が担う形で設計する
基幹システムとの接続から始める 準備が重くなり、効果を確かめる前に止まる すでにある文書を読ませるだけで成り立つ業務から始め、接続はあとに回す
参照させる資料が古いまま 古い規程をもとに、もっともらしい誤りを返す 約款・規程・マニュアルの最新版を1か所に寄せてからつなぐ

金融庁の資料には、データの品質の問題(古い社内規程が残っていたなど)で、社内の文書を調べて答える仕組み(RAG)を試しても精度が上がらなかったという声が載っています。

保険でAIを活用する5つのメリット

保険でAIを活用する5つのメリット

公式に発表された事例から読み取れる、保険でAIを活用するメリットを5つに整理しました。どれも、業務の量と、お客さまを待たせる時間に直接かかわる効果です。

保険でAIを活用する5つのメリット

1件あたりの時間が短くなり、お客さまの待ち時間も縮む

照会への回答や書類の入力、通話の後処理、査定の確認作業をAIが支えることで、1件あたりの時間が短くなります。社内の作業が早くなれば、保険金の支払いや引受の結果を待つお客さまの時間も短くできます。調べる、写す、まとめるといった作業をAIに任せれば、空いた時間を、お客さまへの説明や難しい案件の判断のように、人にしかできない仕事に回せます(事例9)。

担当者による品質のばらつきがそろう

経験によって回答や点検、評価の質がばらつく業務は、AIが同じ基準で回答案や指摘を出すことで、品質をそろえやすくなります。代理店の業務品質の評価に生成AIの一次判定を入れた事例のように、人によって見方が変わりやすい仕事ほど効果が出ます(事例11)。確かめる観点をAIに渡しておくと、だれが担当しても同じ順番で確認が進み、引き継ぎや新任の立ち上がりも早くなります。

人を増やさずに、件数の波をさばける

保険金の請求は、台風や地震のあとに一度に集まります。人の数で備えると、平常時は余り、災害時は足りません。AIで一次処理と回答案の作成を支えておくと、件数が一時的に増えても、担当者の人数を変えずに回せる幅が広がります。件数そのものが大きい業務では、1件あたりの短縮が小さくても合計は大きくなります(事例9)。

見落としやすい不正や書類の誤りを先に拾える

人の目だけでは気づきにくい不正請求の兆候や、募集文書の割引率・加入条件の誤りを、AIが先に拾えます。生成AIで作られた損害写真のように、目で見ただけでは判断が難しい材料も出てきており、機械で疑わしいものを絞ってから人が確かめる形が現実的になっています(事例2・事例3・事例10)。AIの役目は白黒をつけることではなく、人が確かめるべき案件を手前で絞ることです。

ベテランの判断の手順が、社内に形として残る

査定や引受の判断には、規程に書かれていない見方が残りがちです。AIに渡す指示文や参照する資料を作る過程で、どの順番で何を見るかを言葉にすることになり、結果としてベテランの手順が社内の資料として残ります。査定の観点ごとにAIエージェントを分けた事例でも、医務・環境・モラルといった確認の観点を切り分けたうえでAIに割り当てています(事例4)。

保険でAIを使うときのリスクと注意点

保険でAIを使うときのリスクと注意点

保険は扱う情報も判断の重さも、ほかの業種より慎重さが求められます。保険業務でAIを使い始める前に押さえておきたい論点を、個人情報、人の確認、誤回答と偏り、システム、法令の順に並べます。

保険でAIを使うときのリスクと注意点

個人情報の扱いは、入れてよい情報の区分から決める

保険では、病歴や健康状態のように、金融分野のガイドラインで「機微(センシティブ)情報」とされる情報を扱います。機微情報は、法令等に基づく場合や、本人の同意に基づいて業務に必要な範囲で使う場合などを除いて、取得・利用・第三者提供を行わないことが原則です(出典:個人情報保護委員会・金融庁「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」)。外部の生成AIサービスに入れる情報は、使い始める前に次のように分けておくと、現場で迷いません。

区分 情報の例 扱いの目安
入れない 病歴・健康状態などの機微情報、お客さまを特定できる氏名・連絡先・証券番号 外部のサービスには入れない。使う場合は法令・ガイドライン・同意の範囲を確かめ、社内のルールで決める
条件つき 代理店や取引先の情報、社内の未公表の資料 入力した内容が学習に使われない契約・設定の環境に限って使う
入れてよい 公開済みの約款・パンフレット、個人を含まない社内マニュアル 回答の根拠として参照させてよい

区分は一度決めて終わりではなく、使う業務が増えるたびに見直しましょう。社内ルールのひな形は 生成AIの情報漏洩対策 にまとめています。

AIの判断結果は、人が確かめて記録に残す

引受や支払いの判断にAIを使う場合は、理由を説明できるかが問われます。金融庁は、重要な判断にAIを使う場合、どのデータで学習したか、どのデータを参照したか、どのような指示が与えられたか、出力の記録とモニタリングが機能しているかといった観点から、金融機関自身が判断の合理性を検証・説明できるようにする必要があるとしています。

金融庁の資料では、誤りがゼロにはならない前提で人がレビューする手順を組み込み、社員が生成AIの結果をもとにお客さまや代理店に答えるときは、必ず社員が内容を判断してから使うようにしている先があるとされています。AIは一次判定までとし、だれが、どこで確かめ、何を記録に残すかを、使い始める前に決めておきましょう。

不正検知で守りたい運用のルール

不正検知は、誤って印を付けたときにお客さまへの影響が大きい領域です。公表されている事例をもとに、運用で決めておきたいことを並べます。

決めておくこと 事例から見えること
検知の結果の位置づけ 支払いの可否を決めるものではなく、担当者が確かめる際の参考情報とする(事例3・事例2)
お客さまの手続き 検知を入れても請求の手続きを変えず、新たな負担をかけない(事例3)
機能の足し方 外部データ、書類の整合性、画像の使い回し、生成AIによる加工と、手口に合わせて段階的に足す(事例2)
学習データの集め方 不正の件数は少ないため、自社のデータだけでは足りないことがある。専門の製品やベンダーとの連携を検討する

金融庁の資料にも、不正案件に関する学習データを集めたくても実際の不正案件の発生件数が少なく、自社のデータだけでは不十分だという金融機関の声が載っています(出典:金融庁『AIディスカッションペーパー(第1.1版)』2026年3月)。疑わしい案件に印を付けたあと、だれがどの順で確かめるかを決めてから入れることが大切です。

誤回答や偏りに備える作り方

生成AIは、事実と違う内容をもっともらしく答えることがあります。金融庁の資料には、学習データや参照する資料に古い情報が多く混ざっていると、ハルシネーションが起きやすいという声が載っています。根拠となる文書を回答に含める、見つからないときはその旨を答えさせる、といった作り方も挙がっています。

偏りにも注意が必要です。同じ資料では、学習データが足りない、または特定の地域や属性に偏っていると、特定の属性を持つお客さまに不公平な扱いをするリスクが高まると指摘されています。生成AIでも、指示文や参照するデータが偏りの原因になりえます。引受や支払いのようにお客さまの不利益に直結する業務では、判定の結果を属性ごとに見比べる確認を、定期的な点検の項目に入れておきましょう。

データの準備も見落とせません。同じアンケートでは、約半数の金融機関が「モデル構築等のために十分な学習データの確保」と「学習データの品質管理」を課題に挙げています。

既存のシステムとデータにつながるか

保険でAIの活用がつまずきやすいのは、モデルの精度よりも手前の部分です。契約や請求のデータが基幹システムの中にあって、取り出すだけで開発が必要になる。約款やマニュアルが部署ごとのフォルダに分かれていて、どれが最新版か分からない。こうした状態では、AIにつなぐ前の準備で時間と費用が膨らみます。最初の1業務は、基幹システムに手を入れずに済む範囲から選び、つなぎ込みが必要な業務は効果を確かめたあとに回しましょう。

関連する法令・指針の確認先

AIを入れても、保険の募集や個人情報に関するルールはそのまま適用されます。導入の前に、少なくとも次の4つを、コンプライアンスの担当者と一緒に確かめておきましょう。

ルール 主な内容 AIを使うときに確かめること
保険業法
第294条・第294条の2・第294条の3
2016年5月施行の改正で、お客さまへの情報提供義務、意向把握・確認義務、保険募集人の体制整備義務が入った AIで提案書や面談の記録を作るときも、意向を聞き取り、確かめた記録を人が残せるか
保険会社向けの総合的な監督指針 意向把握・確認の具体的な方法は、取り扱う商品や募集の形を踏まえた保険会社・代理店の創意工夫によるとしている(2017年2月の金融庁などの資料での説明) AIを組み込んだ募集の手順が、自社の意向把握・確認の方法と合っているか。最新の版の該当箇所はコンプライアンス部門で確かめる
金融分野における個人情報保護に関するガイドライン 機微情報は、法令等に基づく場合や本人の同意に基づき業務遂行上必要な範囲などを除いて、取得・利用・第三者提供をしない 病歴や健康状態を外部のAIサービスに送らない設計になっているか
金融庁『AIディスカッションペーパー』 既存の法令等はAIを使っているかどうかに関わらず適用される。モニタリング上の目線や具体的な対応を求める文書ではない 課題と取り組みの例を、社内ルールづくりの参考にする

出典:金融庁ほか『改正保険業法の施行後の保険代理店における対応状況等について』2017年2月、個人情報保護委員会・金融庁「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」、金融庁『AIディスカッションペーパー(第1.1版)』

銀行や証券のAI活用との違い

銀行や証券でのAI活用と比べると、保険には3つの違いがあります。まず、病歴や健康状態という機微情報を業務の中心で扱うため、外部のAIサービスに何を渡せるかの線引きが厳しくなります。次に、引受や支払いの判断がお客さまの不利益に直結するため、判断の理由を説明できる作りが欠かせません。

3つ目は、保険募集人や保険代理店という社外の担い手を介して売る形が多いことです。社内で使う仕組みをそのまま保険代理店に広げるには、委託元としての指導の範囲や、代理店に渡してよい資料の線引きを決めておく必要があります。

保険会社・代理店がAI導入を進める手順

保険会社・代理店がAI導入を進める手順

大手の保険会社のように専任の組織を作らなくても、1つの業務からAIの活用を始められます。流れは次の4つです。

保険会社・代理店がAI導入を進める手順

01

始める部門と業務を1つ決める

部門別のチェックで候補を絞り、今の件数と1件あたりの時間を測ります。

02

小さな範囲で試し、数字で確かめる

一部の部署や担当者でAIを試し、先に決めた基準で本番に進むかを判断します。

03

本番に向けて使い方のルールを整える

AIに入れてよい情報、確かめる人と場所、記録の残し方を書面にし、手順書と研修を用意します。

04

定着させ、隣の業務に広げる

効果を毎月測り、同じ仕組みを使える業務に広げていきます。

対象業務の洗い出しと、部門ごとの優先順位

査定・引受・顧客対応・社内照会の4つの部門について、当てはまる項目の数を数えてみてください。当てはまる数がいちばん多い部門が、最初の候補です。

部門 当てはまるか確かめること 最初の一歩の例
保険金の請求・査定 書類の入力や転記に時間がかかっている/診断書・見積書など様式の違う書類が多い/請求の画像を人の目だけで確かめている 書類の読み取り(AI-OCR)か、請求画像の確認の補助
引受・審査 複雑な案件の確認で査定期間が延びている/確認の観点(医務・環境・モラルなど)が文書で決まっている/過去の契約や健診のデータが整理されて残っている 確認の観点を1つ選び、AIに任せる範囲を決めて試す
顧客対応・コンタクトセンター 同じ種類の問い合わせがくり返し来る/回答のもとになるマニュアルやFAQがある/通話後の記録づくりに時間がかかっている オペレーター向けの回答案や、通話の要約
社内照会・募集支援 社内や代理店からの照会に答える担当者が決まっている/募集文書の点検項目が文書になっている/面談の記録や案内文の作成に時間がかかっている 社内向けの規定検索、募集文書の点検、面談記録の要約

保険でのAI活用の効果は、ツールの性能よりも、対象の業務の手順と元になる文書がどれだけ整っているかで決まります。候補の部門が決まったら、準備状況のセルフチェックで具体的な業務を1つに絞りましょう。

代理店・中堅・大手で変わる最初の一歩

保険会社と保険代理店では、規模によって最初に選びやすい業務と体制が変わります。事例に出てくるのは大手が中心ですが、進め方そのものは小さな会社にも当てはめられます。

規模 最初に選びやすい業務 体制の例 気をつけたいこと
保険代理店 取り扱う保険会社ごとの商品資料や手続きを調べる社内向けの検索、面談の記録の要約、案内文や更新のお知らせの下書き 代表者か事務の担当者が、既製の生成AIツールで試す お客さまに出す前に募集人が確かめる。お客さまの情報は外部のツールに入れない
中堅の保険会社・大型の代理店 社内や代理店からの照会への回答案、募集文書の点検、通話の要約 部門ごとに推進の担当を決める(事例6) 試す範囲と、本番に進むかを決める数字を先に書き出す
大手の保険会社 引受・支払い・不正検知のように、基幹のシステムやデータとつなぐ仕組み 専任の組織と外部のパートナーを組み合わせる(事例12) データの整備と、判断の理由を説明できる設計に時間がかかる

保険代理店では、取り扱う保険会社が用意している資料やシステムとの関係も確かめておきましょう。金融庁などが保険代理店100先に行ったヒアリングでは、小規模な代理店は保険会社などから提供された定型の社内規則をアレンジして使い、募集管理の業務を店主自らか全員で担う傾向が見られました(出典:金融庁ほか『改正保険業法の施行後の保険代理店における対応状況等について』2017年2月)。AIの使い方のルールも、委託元の保険会社の定めと合わせて決めるのが現実的です。

小さく試す前に決めておく、評価の物差し

試す前に、今の件数と1件あたりの時間を測っておかないと、効果があったかを判断できません。そのうえで、一部の部署や担当者に絞ってAIを試し、「どの数字がどこまで良くなったら本番に進むか」「どうなったらやめるか」を先に決めておきます。損保ジャパンも、一部の営業店と本社で試して効果を確かめてから全国に広げています(事例7)。

保険では、時間の削減だけでなく、支払いまでの日数や点検の見落としのように、お客さまや募集の品質にかかわる効果も大きくなります。業務ごとの指標の例は次のとおりです。

業務 主な指標 あわせて見る指標
社内照会・代理店照会 1件あたりの回答時間、月の照会件数 回答の差し戻し・訂正の件数
コンタクトセンター 1件あたりの応対時間と後処理の時間 応対品質の評価、転送の件数
保険金の請求・査定 請求から支払いまでの日数、入力の時間 入力の誤りの件数、追加の確認に回した件数
募集文書の点検 1件あたりの点検時間、審査が終わるまでの日数 修正のやり取りの回数、点検後に見つかった誤り
全社での利用 使った社員の割合、業務ごとの利用回数 使った人の評価、困りごとの件数

1つの業務で追う指標は、主な指標1つと、あわせて見る指標1〜2つに絞ると、毎月の記録が続けやすくなります。保険のAI活用は、数字で効果を示せた業務から次の業務へ広がります。

削減時間をお金に直す試算の例

削減時間は「1件あたりに減る時間 × 月の件数」で出し、1時間あたりの人件費をかけてお金に直してから月の費用と比べます。東京海上日動の見込みも、1件あたりの時間と年間の件数から出されています(事例9)。業務ごとの計算の例は次のとおりです。数字はすべて計算の流れを示すための仮の値なので、自社の件数と時間に置き換えて使ってください。

業務(仮の値) 1件あたりに減る時間 × 月の件数 月に減る時間 お金に直す(時給3,000円)
社内照会の回答
1件20分
8分 × 1,000件 8,000分(約133時間) 約40万円
通話後の記録づくり
1件5分
2分 × 3,000件 6,000分(100時間) 30万円
請求書類の入力
1件10分
4分 × 800件 3,200分(約53時間) 約16万円
募集文書の初期点検
1件40分
20分 × 50件 1,000分(約17時間) 5万円

ここから、ツールの利用料や保守費などの月の費用を引いた額が、月の効果の目安です。減った時間をそのまま人件費の削減と見なせるとは限らないため、空いた時間を何に回すかも、あわせて決めておきましょう。事例の数字を自社に当てはめるときも、発表の数字をそのまま使わず、自社の件数と時間で計算し直してください。

現場に定着させるための運用づくり

AIを入れても、使う人が使い方を知らなければ、業務にかかる時間は減りません。保険の現場でAIの活用を続けるには、研修と運用の形を決めておくことが大切です。研修の中身を「全員に配るもの」と「業務ごとに教えるもの」に分けると組みやすくなります。

対象 教えること 形
全社員 何に使えるか/入れてはいけない情報/出力をそのまま使わないこと 説明会と、いつでも見返せる手順書
業務の担当者 自分の業務での指示文の書き方/参照させる資料の置き場/直し方 業務ごとの短い勉強会と、使いながらの伴走
募集人・代理店 お客さまに出す前に確かめる手順/お客さまの情報を入れない範囲 委託元の手順書に沿った案内
管理者・コンプライアンス 利用の記録の見方/誤りが出たときの止め方 記録の確認を定例の議題に入れる

本番に入ったあとは、減った時間と誤りの件数を毎月測り、使った人の評価を集めて、指示文や参照させる資料を直していきます。社内の照会がうまくいったら代理店からの照会へ、文書の点検がうまくいったら募集文書の作成の支援へと、同じ仕組みを使える業務に広げると、2つ目以降の手間が小さくなります。

そのまま使える指示文(プロンプト)の例

最初の1業務を決めたら、短い指示文から試すのが早道です。保険の仕事でよく使う3つを、お客さまの個人情報を入れずに試せる形で挙げます。

場面 指示文の例 確かめること
社内照会の回答案 添付した約款と社内Q&Aだけを根拠に、次の照会への回答案を作ってください。根拠にした箇所を引用し、書かれていないことは「資料に記載なし」と答えてください。照会:(本文) 引用された箇所が本当にその資料にあるか
面談メモの要約 次の面談メモを、ご意向・ご提案した内容・宿題の3つに分けて箇条書きにしてください。メモに書かれていない推測は加えないでください。メモ:(本文) 意向の聞き取りの記録として足りているか
募集文書の下読み 次の案内文を、割引率・加入条件・注意書きの3点について、添付した商品概要と突き合わせて、違う箇所と根拠を表にしてください 指摘の根拠が商品概要の記載と一致しているか

指示文には、根拠にする資料と、書かれていないときの答え方を必ず入れておきます。お客さまに出す文面は、募集人が確かめてから使ってください。

自社に合う活用領域を選ぶセルフチェック

自社に合う活用領域を選ぶセルフチェック

候補の業務が決まったら、契約や開発に進む前に、準備状況、費用の考え方、相談先への質問の3つを確かめておきましょう。ここで決めた形が、そのまま運用の形になります。

自社に合う活用領域を選ぶセルフチェック

業務量・書類の種類・既存システムから見る向き不向き

候補の業務について、対象業務・データ・社内ルール・体制の4つの観点で確かめます。「はい」が多いほど、効果が出やすい状態です。「いいえ」が付いた設問は、右の列を先に済ませてから進みましょう。

観点 確かめること 「いいえ」のときにすること
対象業務 同じ種類の照会や書類が、毎日・毎月くり返し発生している 件数の多い別の業務を候補にする
対象業務 1件あたりの時間と月の件数が、だいたい分かっている 2〜4週間、件数と時間を記録する
データ 答えや判断のもとになるマニュアル・規程・過去の記録がある 先にマニュアルやFAQを整える
データ 参照させる約款・規程の最新版が1か所にまとまっている 古い版を外し、置き場を1つに決める
データ 使うデータを、基幹システムに手を入れずに取り出せる 取り出しに開発が要る業務は、2つ目以降に回す
社内ルール 機微情報を使わずに済むか、使う場合の扱いを決められる コンプライアンス部門と情報の区分を決める
社内ルール お客さまに直接出す前に、人が確かめる手順を挟める 社員向けの使い方から始める
体制 AIの出力を確かめる担当者を、社内で決められる 確かめる人を決めるまで本番に進まない
体制 試す範囲と、本番に進むかを決める数字を書き出せる 試す前に、進む・やめるの基準を決める

「いいえ」が1つでも残る業務は、AIを入れる前の準備から始めたほうが、結果的に早く効果が出ます。

外部の支援を使うときの費用の考え方

AIの費用は、最初に一度かかる構築費と、毎月かかり続ける運用保守費(ツールやAPIの利用料、保守・改善)に分けて見ると比べやすくなります。始め方ごとの目安は次のとおりです。

始め方 構築費の目安 月額の目安 向いている使い方
既製の生成AIツールを使う 0〜30万円程度 数万円〜 文書の作成・要約、社内での試用
社内の文書を調べて答える仕組みを作る 50万〜500万円程度 数万〜数十万円 社内照会、代理店からの照会
業務のシステムとつなぐ・専用に作る 数百万円〜 数十万円〜 書類の読み取りと入力、査定の支援

金額は保険業界に限らない一般的な目安で、依頼する業務の条件や範囲によって変わります。初期の費用だけでなく、2〜3年の総額で比べましょう。工程ごとの内訳は AI導入の費用相場 にまとめています。

PR|AIBUILDERZ AI導入支援サービス

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AIBUILDERZ|AI導入支援サービス

システム構築は成果報酬型。AI研修から導入・構築・定着まで一気通貫で支援

AIBUILDERZ

AI研修からシステムの導入・構築・定着まで、一気通貫で支援するサービスです。業務アプリの構築費は事前にいただかず、実際に稼働させ、効果をご確認いただいてからお支払いが始まります。成果報酬型での対応は、当社が小規模と定義するシステムが対象です。

  • 業種・規模を問わず支援どの業務からAIやシステムに置き換えるかを一緒に決め、効果の大きい業務から順に進めます。
  • システム構築は成果報酬型業務アプリの構築費は事前にいただきません。稼働させ、効果をご確認いただいてからお支払いが始まります。
  • AI導入の効果を可視化置き換える業務を一覧にし、導入前後の時間から、空いた時間とかからなくなった費用を毎月記録します。
  • 小さく始めて、リスクを管理影響の小さい業務から始め、AIの実行結果は担当者が確認・承認してから反映します。

当社のAI導入支援サービス「AIBUILDERZ」では、業務の洗い出しと可視化、対象業務の選定、ツールの選定、全体研修から始めます。業務効率化のシステムの構築は成果報酬型で、業務アプリの構築費は事前にいただかず、実際に稼働させ、効果をご確認いただいてからお支払いが始まります。どの業務から始めると効果が大きいかは、無料診断でご相談いただけます。

導入支援会社に確認しておきたい質問リスト

相談先は、大きく4種類に分かれます。どこに頼むかで、できることと気をつける点が変わります。

相談先 得意なこと 気をつけたいこと
保険業界向けのシステム会社 保険の基幹システムとの連携、大きな開発 費用と期間が大きくなりやすい
AI製品のベンダー 不正検知やOCRなど、特定の機能の製品 自社の業務に合わせられる範囲が限られる
AI導入支援の会社 業務の洗い出しから、ツール選び・構築・研修まで 保険の業務への理解を確かめる必要がある
研修の会社 社員が生成AIを使えるようにする 仕組みづくりは別に考える必要がある

保険のAI活用の相談先を比べるときは、金額に加えて、次の質問への答え方を見てください。答えがあいまいなところは、契約の前にはっきりさせておきましょう。

観点 相談先に確かめる質問
データの扱い 機微情報や個人情報は、どこに保存され、AIの学習に使われるのか
データの扱い 海外のサーバーを使う場合、データがどの国で扱われるのか
データの扱い ツールやサーバーの契約は自社名義にできるか。作ったものの権利はどちらにあるか
説明責任 AIの出力を、だれがどこで確かめる設計にするのか
説明責任 回答の根拠(参照した資料)を画面に出せるか
説明責任 利用の記録は残るか。監査のときに出せるか
運用体制 規程やマニュアルが変わったとき、だれがどのように参照する資料を更新するのか
運用体制 導入後に社内で直せるよう、手順書や研修まで含まれるか
運用体制 効果をどの数字で測るか。AIの導入前の数字をいっしょに測ってくれるか

金融庁のアンケートでも、従来型AI・生成AIのいずれでも、適切な外部事業者の選択を課題に挙げた先が4割強ありました。同じ資料には、外部事業者に過度に頼ることの弊害を指摘する声も載っています。人の確認を省くことを売りにする提案や、どのデータをどこに送るのかを説明できない提案は、見送ったほうが安全です。相談先の比べ方は AI導入支援の比較と選び方 もあわせてご覧ください。

保険のAI活用がこれから進む方向

保険のAI活用がこれから進む方向

2026年に公表された取り組みを並べると、保険のAI活用が次にどこへ向かうかが見えてきます。保険会社と保険代理店のどちらにも関わる動きを、3つに分けて整理します。

保険のAI活用がこれから進む方向

1つの業務のAIから、複数のAIが分担する形へ

これまでは1つの業務に1つのAIを当てる形が中心でした。2026年に入ってからは、査定の観点ごとにAIエージェントを分けて総合査定に対応させる仕組みや、全部門にAIエージェントを広げる例が公表されています(事例4・事例6)。1業務ずつ試した会社ほど、指示文と資料の整え方が社内に残り、2つ目以降を早く作れるようになります。

社内向けの仕組みが、代理店や募集の現場へ広がる

最初に動いたのは、社内照会や文書の点検のように、社内で完結する業務でした。そこで作った仕組みは、代理店からの照会への回答や、募集文書の作成の支援にも使えます。代理店の業務品質の評価に生成AIの一次判定を入れた例や、代理店のシステムでの生成AIの活用を検討する例は、その延長にあります(事例11・事例8)。社外の担い手に広げるときは、渡してよい資料と、お客さまに出す前の確認の手順を決めておく必要があります。

商品設計と保険料率の算定へは、データが整った会社から

リスクの傾向の分析を、新しい商品の設計や保険料の水準の検討に使う動きもあります。ただしこの領域は、長い期間のデータと、結果の妥当性を確かめる数理の専門家が必要で、商品の内容や料率を変えるときには所定の手続きも伴います。

文書を扱う業務から始めてデータの整え方を社内に残した会社が、次にこの段階へ進む、という順番になりそうです。商品や料率にAIを使うかどうかは、技術より、データと検証の体制がそろっているかで決まります。

保険のAI活用に関するよくある質問

保険のAI活用に関するよくある質問

保険のAI活用に関するよくある質問

Q. 中小規模の保険代理店でもAIは使えますか?
使えます。取り扱う保険会社ごとの商品や手続きの資料を調べて答える社内向けの検索、面談の記録の要約、お客さまへの案内文や更新のお知らせの下書きなどは、既製の生成AIツールで小さく始められます。金融庁も、専門の人材が限られる小規模な金融機関でも、学習済みの生成AIは比較的容易に導入できるとしています。お客さまに出す前に募集人が確かめる手順を挟むこと、どの資料を使ってよいかを委託元の保険会社のルールで確かめることが前提です。
Q. AI導入は何から始めればよいですか?
マニュアルや点検の項目がすでにあり、お客さまに直接出さない業務から始めるのがおすすめです。社内や代理店からの照会への回答案、募集文書の点検、通話の要約などがこれにあたります。始める前に今の件数と1件あたりの時間を測り、本番に進むかを決める数字を書き出しておくと、効果を判断しやすくなります。
Q. 個人情報を扱う業務でAIは使えますか?
使い方を決めれば使えます。病歴や健康状態は、金融分野のガイドラインで機微(センシティブ)情報とされ、取得や利用が原則として制限されています。お客さまを特定できる契約情報も含めて、外部のAIサービスに入れる情報を「入れない・条件つき・入れてよい」に分けて書面で決め、まずはお客さまの情報を入れずに使える業務から始めるのが安全です。入力した内容が学習に使われない契約・設定になっているかも、相談先に確かめましょう。
Q. 導入にかかる費用はどう考えればよいですか?
始め方で大きく変わります。既製の生成AIツールを社内で試すだけなら月数万円から、社内の文書を調べて答える仕組みを作るなら構築費50万〜500万円程度、業務のシステムとつなぐ場合は数百万円からが一般的な目安です。外部の支援を使う場合は、業務の洗い出しと設計に数十万円、その後の運用に月十数万円からを見ておくとよいでしょう。初期の費用だけでなく、運用保守費を含めた2〜3年の総額と、減らせる時間をお金に直した額を並べて比べることが大切です。
Q. 導入効果はどのように測りますか?
試す前に、対象の業務の件数と1件あたりの時間を測っておき、AIの導入後と比べます。削減時間は「1件あたりに減る時間 × 件数」で出し、人件費をかけてお金に直してから費用と比べるとわかりやすくなります。保険では、支払いまでの日数や点検後に見つかった誤りの件数のように、品質にかかわる指標もあわせて見ましょう。
Q. 保険業界でAIが使われやすい業務は何ですか?
今回の12件では、社内照会への回答、募集文書の点検、コンタクトセンターの回答案、保険金の請求書類や画像の確認、引受の査定に使われていました。始めやすいのは、マニュアルや点検の項目がすでにあり、お客さまに直接出さない社内照会や文書の点検です。
Q. 保険の査定はAIだけで完結できますか?
公表されている事例では、AIは判断の材料をそろえる役にとどめ、最終的な判断は担当者が行う形が基本です。自動査定の割合を高める取り組みはありますが、判断の理由をお客さまに説明できることや公平さを保つことが求められるため、人が確かめて記録を残す仕組みと組み合わせましょう。
Q. 導入までの期間はどれくらいですか?
既製のツールを社内で試すだけなら数週間、社内の文書を調べて答える仕組みを作るなら数か月程度、業務のシステムとつなぐ場合は半年以上を目安に考えておくとよいでしょう。業務の範囲やデータの整い方、社内のルールづくりやコンプライアンス部門の確認にかかる時間で大きく変わります。
Q. 生命保険と損害保険で、AIの使い方は違いますか?
共通する部分も多いですが、今回の12件では、損害保険で損害の写真や見積書の確認、不正請求の検知、代理店の支援が、生命保険で引受の査定や営業職員の支援、給付金の書類の読み取りが目立ちました。社内の照会やコンタクトセンターでの活用は、どちらにも共通しています。
Q. 導入前に確認すべき法令・ガイドラインは何ですか?
主に、募集のルールを定めた保険業法(意向の把握などを求める第294条の2など)、機微情報の扱いを定めた「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」、保険会社向けの監督指針の3つです。金融庁の『AIディスカッションペーパー』は、モニタリング上の目線や金融機関に求める具体的な対応を示すものではないと位置づけられていますが、課題と取り組みの例が整理されており、社内ルールを作るときの参考になります。

まとめ

まとめ

保険のAI活用事例12件から、押さえておきたい点を5つにまとめます。

まとめ

01
金融庁のアンケートでは回答先の9割以上がAIを活用しており、保険会社も請求・査定、引受、社内照会、コンタクトセンター、募集でAIを使い始めている
02
2024年10月以降の公式事例12件は、マニュアルや請求の画像など、社内にある文書とデータの活用から始めている
03
支払いや引受、評価の最終判断は人が持ち、AIは判断の材料をそろえる役にとどめている
04
機微情報の扱い、人が確かめる場所、保険業法や監督指針との関係を、使い始める前に書面で決める
05
セルフチェックで最初の1業務を選び、件数と時間で効果を試算・測定してから活用を広げる

事例から持ち帰る判断のポイント

AIの活用を始めるときに、最初に決めることは3つです。どの業務から始めるか、AIの出力をだれがどこで確かめるか、効果をどの数字で測るかです。保険のAI活用は、この3つで形が決まります。この3つが決まっていれば、ツールや相談先は後から選べます。迷ったら、社内の照会や文書づくりのように、文書がそろっていてお客さまに直接出ない業務を1つ選びましょう。

業務を選んだら、今の件数と1件あたりの時間を測り、外部の生成AIに入れてよい情報の区分をコンプライアンス部門と決めておきます。そのうえで、試す範囲と、本番に進むかを判断する数字を書き出してください。社内向けの仕組みの作り方は 社内AIチャットボットの構築方法、全体の費用は AI導入の費用相場 もあわせてご覧ください。