生成AIで作った文章や画像を、社外向けの資料や広告、ホームページにそのまま使ってよいのか。社員が「〇〇風に」と指示して作った画像が、だれかの作品に似ていたらどうなるのか。業務でAIを使う場面が増えるほど、どこからが著作権侵害になるのか、その基準がわからずに不安を感じる担当者は多いのではないでしょうか。総務省の『令和8年版 情報通信白書』でも、日本の企業が生成AIの活用で懸念するリスクとして「著作権等の権利を侵害する可能性がある」が31.3%にのぼり、「社内情報の漏洩などのセキュリティリスクがある」(46.4%)、「出力結果の精度に問題がある」(35.3%)に次ぐ3番目に挙がっています(出典:総務省『令和8年版 情報通信白書』)。

そこで本記事では、文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」と著作権法の条文をもとに、AIの著作権侵害の基準を、類似性と依拠性という2つの要件から整理します。あわせて、侵害にならないケース、学習の段階の考え方、AIで作ったものに著作権はあるのか、侵害したときに企業が受けうる措置、利用規約と補償の確かめ方、業務別の判断の早見表、社内ルールに入れる項目、指摘を受けたときの初動までをまとめました。個別の事案の判断は弁護士などの専門家に相談することを前提に、社内で何を決めておけばよいかを知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

この記事でわかること

  • 侵害になる2つの基準がわかる
  • 業務別のリスクの高さがわかる
  • 社内ルールのひな形が手に入る
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AIの著作権侵害の基準とは|企業が押さえる全体像

AIの著作権リスクの全体像

AIと著作権の話は、論点が多く複雑に見えます。侵害の基準を見る前に、まずは文化庁の整理に沿って全体像をつかんでおきましょう。

「学習」と「生成・利用」の2つの段階に分けて考える

文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月、文化審議会 著作権分科会 法制度小委員会)は、AIと著作権の関係を「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」に分けて考える必要があるとしています。2つの段階では行われる行為が違い、関係する著作権法の条文も違うためです。さらに、AIで作ったもの(AI生成物)が著作物にあたるかどうかも、別の問題として分けて考えます。

論点 主な行為 関係する主な条文 企業の立場で起きやすいこと
AI開発・学習段階 著作物を集めて学習用のデータを作り、AIを開発する 第30条の4(享受を目的としない利用) 自社でAIに追加学習させる、社内文書を検索させる仕組み(RAG)を作る
生成・利用段階 AIで文章や画像を作り、公開・販売する 通常の著作権侵害と同じ基準(類似性と依拠性) 作ったものを広告・資料・商品に使う
AI生成物の著作物性 AIで作ったものが著作物として守られるか 第2条第1項第1号(著作物の定義) 作ったものを他社にまねされたときに権利を主張できるか

AIを開発するのではなく、業務で使う企業にとって中心になるのは、生成・利用段階です。AIで作ること自体よりも、作ったものを社外に出す場面で著作権のリスクが大きくなると覚えておきましょう。

企業が負う3つの著作権リスク

業務でAIを使う企業が向き合う著作権のリスクは、大きく次の3つに分けられます。

リスク 内容 この記事で扱う章
他人の著作権を侵害する AIで作ったものが既存の作品に似ていて、差止めや損害賠償を求められる 侵害の基準・侵害したときの措置
自社の制作物が守られない AIに任せきりで作ったものは著作物にあたらず、まねされても権利を主張しにくい AI生成物の著作権
契約・利用規約に反する AIサービスの規約や、取引先・外注先との契約に反した使い方をしてしまう 利用規約と補償・企業がとるべき対策

文化庁の「考え方」の位置づけ

著作権法の解釈は、本来、個別の事案ごとに裁判所が判断するものです。文化庁の「考え方」は、AIと著作権を直接扱った裁判例がまだ少ないなかで、国の審議会が現行法の解釈についての一定の考え方を示したもので、それ自体に法的な拘束力はないと明記されています(出典:文化庁「AIと著作権について」)。

本記事もこの「考え方」と、文化庁が2024年7月にまとめた「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」をもとに説明します。社内のルールを決めるときの目安として使い、具体的な制作物や取引の判断は、弁護士など専門家の確認を受けるようにしてください。

AIの著作権侵害の基準|類似性と依拠性で判断する

著作権侵害になる基準

AIで作ったものをSNSに載せる、資料や商品に使うといった生成・利用段階は、AIを使わない場合と同じ基準で著作権侵害かどうかが判断されます。業務でAIを使う企業にとって、もっとも身近な著作権リスクです。

侵害には「類似性」と「依拠性」の両方が必要

文化庁の「考え方」によると、AIで作ったものに既存の著作物との「類似性」と「依拠性」が両方認められ、権利制限規定(許諾なく使える例外)にもあたらない場合に、著作権侵害になります。反対に、どちらか一方でも認められなければ、既存の著作物の著作権侵害にはなりません(出典:文化庁「AIと著作権に関する考え方について【概要】」)。

要件 意味 AIを使うときに気をつける点
類似性 既存の著作物と、創作的な表現が共通していること 出力が特定の作品に似ていないか、公開の前に確かめる
依拠性 既存の著作物をもとにして作ったこと 作品名や作者名を指示に入れると、依拠性が認められやすくなる

類似性|アイデアではなく表現が似ているか

著作権法が守るのは、思想や感情を創作的に「表現」したものです。ありふれた表現や、アイデア、事実、テーマそのものは守られません。たとえば「AIが人間と共に働く未来」というテーマが同じでも、文章の具体的な言い回しや構成が違えば、類似性は否定される方向になります。

一方で、キャラクターの特徴的な姿や、文章の特徴的な一節がそのまま出力された場合は、類似性が認められやすくなります。どこまでが似ているといえるかは、作品ごとに判断されます。

依拠性|AIの場合は使う人が知らなくても認められうる

AIを使わない創作では、作った人が既存の作品を知っていたかどうかが依拠性の分かれ目になります。AIの場合、「考え方」は次のように整理しています。

場面 依拠性の考え方
使う人が既存の作品を知っていて、似たものを作らせた 依拠性が認められると考えられる
その作品がAIの学習データに含まれていた 使う人が作品を知らなくても、通常は依拠性があったと推認される
学習データに含まれているか不明 使う人が作品に接することができたことや、高い類似性があることなどから、依拠性が推認されうる

つまり、「その作品を知らなかった」というだけでは、AIで作ったものの侵害を否定できない場合があります。ただし、そのAIが学習した作品の表現をそのまま出力する状態になっていないことを使う側が示せれば、依拠性がないと判断される場合もあるとされています。

侵害にならないケース|偶然の一致・アイデア・例外の規定

類似性と依拠性のどちらかが欠ければ、侵害にはなりません。また、両方がそろっていても、著作権法の権利制限規定にあたる使い方なら許諾はいりません。企業の担当者が知っておきたいのは、次のような場合です。

ケース 侵害にならない理由 業務で使うときの注意
既存の作品を知らず、学習データにも含まれていないのに、偶然似た 依拠性がない 学習データに含まれていれば、使う人が知らなくても依拠性が推認されうるため、「偶然」と言い切るのは難しい
テーマ・アイデア・作風が共通するだけ 表現が共通しておらず、類似性がない 特定の作者の少数の作品群は、表現まで共通していることがある
ありふれた表現、事実やデータが同じ 創作的な表現にあたらない 言い回しや構成まで同じなら、類似性が認められることがある
個人が私的に楽しむために作る 私的使用のための複製(第30条) 会社の業務のための利用は、私的使用の範囲に含まれないと考えられている
他人の文章を引用して自社の記事に載せる 引用(第32条) 自社の文章が主で引用が従になっている、引用部分がはっきり分かれている、出所を示している(第48条)といった条件が必要

業務でAIを使う場合、私的使用の例外に頼ることはできません。社外に出すものは、類似性と依拠性の両面から確かめておくのが基本です(出典:e-Gov法令検索「著作権法」)。

「生成」と「利用」は分けて判断される

AIで作る行為と、作ったものを使う行為は、場面ごとに分けて判断されます。個人が私的に使うために作る場合(第30条第1項)や、権利者の許諾を得て使うことを前提に社内で検討する過程で作る場合(第30条の3)は、それぞれの範囲内であれば許諾なく行えます。

しかし、作ったものをインターネットで配信する、印刷して配る、販売するといった利用は、これらの例外の範囲を超えることが多くなります(出典:文化庁「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」)。社内の検討で作ったものを、そのまま社外向けに転用するときは、改めて確認が必要です。

「〇〇風」の作風・画風はどこまで許されるか

作風や画風は、それ自体がアイデアにとどまる場合は著作権で守られず、作風が共通していても侵害にはなりません。ただし、特定の作者の少数の作品群は、作風だけでなく創作的な表現まで共通していることがあります。そうした表現が、AIで作ったものから直接感じ取れる場合は、生成や利用が侵害になりえます。

業務で使う場合は、作者名や作品名、キャラクター名を指示に入れて「〇〇風」を狙う使い方は避けるのが無難です。著作権の問題にならない場合でも、商標やパブリシティ権、取引先や消費者からの信用といった別の問題が起きることがあります。

そのまま写さなくても侵害になる|複製と翻案のちがい

著作権侵害というと、既存の作品をそのまま写すこと(複製)だけを思い浮かべがちですが、著作権法が著作者に認めている権利はそれだけではありません。第21条が複製する権利を、第27条が「翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利」を定めています(出典:著作権法)。つまり、元の作品に手を加えて別の表現に作り変えた場合でも、元の作品の創作的な表現が残っていれば翻案にあたり、許諾なく行えば侵害になりえます。

業務でとくに気をつけたいのは、次の3つの使い方です。いずれも「加工したから自社のものになる」とは言えません。他人の作品を入力して作り変える使い方は、出来上がりが元と違って見えても、元の表現が残っていれば翻案として侵害になりえます。

使い方 気をつける点
他人の画像を読み込ませて作り変える(画像から画像を作る使い方) 元の画像の構図や描き込みが残れば、複製または翻案にあたりえる。元の画像の権利を確かめてから入力する
他社の記事や資料をAIに書き直させる 言い回しを変えても、文章の流れや具体的な表現が残れば翻案にあたりえる。事実やデータだけを参考にし、文章は自分たちの言葉で書く
既存のキャラクターや作品を題材に手を加える 翻案に加えて、著作者の意に反する改変として同一性保持権(第20条)の問題も起きる。権利者の許諾なく公開しない

また、許諾を得て作り変えたものであっても、その二次的著作物を使うには、元の作品の著作者の権利が別に働きます(第28条)。元の作品を提供した側と、作り変えたものをどこまで使えるかを取り決めておきましょう。

侵害の責任を負うのはだれか|使う人とAIの事業者

AIで作ったものが侵害にあたる場合、原則として責任を負うのは、そのAIで侵害物を作ったり使ったりした人(AI利用者)です。社員が業務で作った場合は、会社も責任を問われることがあります(侵害したときの措置の章で説明します)。

一方、文化庁の「考え方」の概要は、既存の判例からすると、次のような要素によっては、AIの開発や提供を行う事業者も侵害の主体として責任を負う可能性があるとしています。

要素 事業者の責任への影響
特定の生成AIを使うと、侵害物が高い頻度で作られる 責任を負う可能性を高める
事業者が、類似物が作られる可能性の高さを知りながら、抑える措置を取っていない 責任を負う可能性を高める
事業者が、類似物が作られないようにする措置を取っている 責任を負う可能性を低める

また、利用者が類似物を作らせようとする指示を出した結果として侵害物ができた場合でも、そのAIが侵害物を高い頻度で作るものでなければ、事業者が侵害の主体と評価される可能性は低いとされています。「AIが作ったから」という理由で、使う側の責任が事業者に移るわけではない点に注意しましょう。

学習段階の著作権|著作権法第30条の4の考え方

学習段階と第30条の4

AIの学習に他人の著作物を使ってよいかは、著作権法第30条の4が中心になります。AIを開発しない企業には関係が薄いように見えますが、追加学習や社内データの検索の仕組みを作るときには、この段階の著作権リスクも関わってきます。

情報解析のための利用は、原則として許諾がいらない

著作権法第30条の4は、著作物に表現された思想や感情を「自ら享受し又は他人に享受させること」を目的としない利用であれば、必要と認められる限度で、著作権者の許諾なく利用できると定めています。AIの学習のような情報解析は、その例として条文に挙げられています(出典:e-Gov法令検索「著作権法」)。

ここでいう「享受」とは、文章を読む、音楽を聴く、映画を見る、プログラムを実行するといった、著作物から知的・精神的な満足を得ることを指します。AIの学習のために著作物を集めて複製する行為は、通常はこの享受を目的としないため、許諾がなくても行えると考えられています。

享受の目的があると第30条の4は使えない

ただし、享受を目的とする利用や、情報解析が主な目的でも享受の目的が併存している場合には、第30条の4は適用されません。非営利や研究の目的であっても同じです。文化庁の「考え方」は、次のような場合を例に挙げています。

場面 第30条の4が適用されないと考えられる例
追加学習(ファインチューニング) 意図的な「過学習」などにより、学習データの著作物と創作的な表現が共通するものを出力させることを目的とした学習
検索拡張生成(RAG) 既存の著作物の創作的な表現の全部または一部を、AIに出力させることを目的としたデータの収集
特定の作者の作品群 少量の作品からなる作品群の、共通する創作的な表現を出力させるために行う追加学習

なお、RAGなどで第30条の4が適用されない場合でも、第47条の5(情報処理の結果の提供に付随する軽微な利用)の要件を満たす範囲では、許諾なく利用できる場合があるとされています(出典:文化庁「AIと著作権に関する考え方について【概要】」)。

著作権者の利益を不当に害する場合(ただし書き)

第30条の4には、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」というただし書きがあります。著作物の利用の市場とぶつかるか、将来の販路を妨げるかといった観点から判断されます。

「考え方」は、情報解析に使える形で有償で提供されているデータベースを、対価を払わずに情報解析のために複製する場合を例に挙げています。また、robots.txt への記述やIDとパスワードによる認証で、AIの学習のための収集を制限しているサイトについて、その措置を回避して収集する行為も、事情によってはただし書きにあたりうるとしています。

自社でAIを学習させる・社内データを検索させるときの注意

業務で使うAIに社内のマニュアルや過去の資料を読ませる、自社の素材で追加学習させるといった使い方は、今後さらに増えていくと考えられます。自社の資料だけを使うなら問題になりにくい一方で、外部から購入した資料や、取引先から受け取った資料、ネット上の記事をまとめて取り込む場合は注意が必要です。

他人の著作物を取り込むときは、それを「そのまま出力させる」目的になっていないかを、仕組みを作る前に確かめることが大切です。データの購入契約や利用規約で、AIへの取り込みが制限されていないかもあわせて確認しましょう。社内データを使った仕組みの作り方は 社内AIチャットボットの構築方法 でも解説しています。

AI生成物の著作権|認められる場合と権利の帰属

AI生成物の著作権

次に、自社がAIで作ったものに著作権が認められるかを見ていきます。他人の権利を侵害するかどうかとは別の問題です。

AIが自律的に作ったものは著作物にあたらない

著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定めています(第2条第1項第1号)。文化庁の「考え方」は、人が指示を与えずに、または簡単な指示を与えるだけで、生成のボタンを押してAIが作ったものは著作物にあたらないとしています。また、著作者になれるのは人(自然人または法人)だけで、AI自体が著作者になることはありません。

一方で、人が思想や感情を表現するための「道具」としてAIを使ったと認められれば著作物にあたり、AIを使った人が著作者になると考えられます。道具として使ったといえるかは、人に「創作意図」があるか、「創作的寄与」と認められる行為をしたかで判断されます。

創作的寄与と判断される要素

AI生成物に著作物性があるかは、個々のAI生成物ごとに、使う人の行為がどの程度積み重なっているかを総合的に考えて判断されます。「考え方」が挙げている要素は次のとおりです。

要素 考え方
指示・入力の内容 創作的な表現を具体的に示す詳しい指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高める。長い指示でも、アイデアを示すだけなら影響しない
生成の試行回数 回数が多いこと自体は影響しない。出力を見て指示を直しながら試行を重ねた場合は、著作物性が認められる場合もある
複数の生成物からの選択 選ぶだけの行為は影響しない
人による加筆・修正 人が創作的な表現といえる加筆・修正を加えた部分は、通常、著作物性が認められる

自社の権利として守りたい制作物ほど、AIの出力に人が手を入れ、その過程を記録しておくことが大切です。

社員がAIで作ったものの権利は会社に帰属するか

AIで作ったものが著作物にあたる場合、だれの権利になるかは通常の著作物と同じ考え方になります。著作権法第15条は、会社の発意にもとづいて社員が職務上作り、会社の名義で公表する著作物は、契約や勤務規則に別の定めがない限り、会社を著作者とすると定めています(職務著作)。プログラムの著作物は、会社の名義で公表しなくても会社が著作者になります。

社外の制作会社やフリーランスに頼んだものは、職務著作にはあたりません。成果物の著作権を自社に移すかどうかは、契約で決める必要があります。

著作権がない=自由に使えない、ではない

AIで作ったものに著作権が認められなくても、そのものを使えなくなるわけではありません。困るのは、他社に同じものをまねされたときに、著作権を根拠に止めにくい点です。ロゴや商品のデザイン、キャラクターなど、自社だけで使い続けたいものをAIで作るときは、人の手で仕上げる、商標や意匠など別の権利で守れないかを検討する、といった備えが考えられます。

反対に、AIで作ったものに著作権があっても、既存の作品に似ていれば他人の権利を侵害する可能性は残ります。「自社に著作権があるか」と「他人の著作権を侵害していないか」は、別々に確かめましょう。

著作権侵害をしたときに企業が受けうる措置

侵害したときの措置

AIで作ったものが他人の著作権を侵害していた場合、企業はどのような措置を受ける可能性があるのでしょうか。法律上の措置と、取引や信用への影響に分けて整理します。

措置 根拠 故意・過失との関係
差止請求(使用の停止・予防、侵害物の廃棄など) 著作権法第112条 故意・過失がなくても請求されうる
損害賠償請求 民法の不法行為(損害額の推定は著作権法第114条) 故意または過失が必要
不当利得の返還請求 民法 故意・過失がなくても、使用料相当額などの返還が認められうる
刑事罰 著作権法第119条・第124条 故意が必要

差止請求|知らなかった場合でも止められる

著作権者は、侵害する者や侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止や予防を求めることができます(第112条)。文化庁の「考え方」によると、差止請求は故意や過失の有無を問わず認められます。AIで作った画像を使った広告やパンフレットの配布の停止、ウェブサイトからの削除、在庫の廃棄などを求められる可能性があります。

さらに、一定の場合には、権利者がAIの開発事業者に対して、学習用のデータセットから侵害された著作物を除くよう求めたり、AIの事業者に侵害を防ぐための措置(特定の指示では生成しないようにするなど)を求めたりできるとされています(出典:文化庁「AIと著作権に関する考え方について【概要】」)。

損害賠償と不当利得の返還

損害賠償を求められるのは、侵害した側に故意または過失がある場合です。「考え方」は、使う人が既存の作品を知らなかったなどの事情で故意も過失も認められない場合は、差止請求にとどまり、損害賠償や刑事罰の対象にはならないと考えられるとしています。ただし、その場合でも、使用料に相当する額などの不当利得の返還が認められることはありうるとしています。

刑事罰と、会社も罰せられる両罰規定

故意に著作権を侵害した者は、10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方に処せられると定められています(第119条第1項)。さらに、社員が会社の業務に関して侵害した場合は、行為をした本人に加えて、会社にも3億円以下の罰金刑が科されうる両罰規定があります(第124条)。多くの場合は権利者の告訴が必要な親告罪ですが(第123条)、例外もあります。

社員の行為で会社が負う民事の責任

社員が業務の中でAIを使い、他人の著作権を侵害して損害を与えた場合、会社は社員を使う立場として、損害賠償の責任を負うことがあります(民法第715条の使用者責任)。条文には、会社が社員の選任や事業の監督に相当の注意をしていた場合は責任を負わないという定めもあります(出典:e-Gov法令検索「民法」)。

会社として監督していたと説明できるよう、AIの利用ルールを定め、研修で伝え、公開前の確認の記録を残しておくことが、トラブルの予防と説明の両方に役立ちます。外注先が作ったものを自社の名前で公開した場合も、差止めの対象は公開している自社になりうるため、外注先との契約での取り決めが欠かせません。

信用の低下と取引への影響

法律上の措置に至らなくても、似ているという指摘がSNSなどで広がれば、広告やキャンペーンの取り下げ、作り直しの費用、取引先からの信用の低下につながります。企業にとっての著作権リスクは、裁判になるかどうかよりも、公開したものを取り下げる手間と信用の損失として表れやすいものです。

業務別に見るAIの著作権侵害リスクと判断の早見表

業務別のリスクの高さ

同じAIでも、何を作り、どこで使うかで著作権のリスクの高さは大きく変わります。企業での主な使い方ごとにリスクの目安をまとめたので、自社の使い方がどこにあたるかを確かめてみましょう。

使い方 リスクの目安 理由と確かめること
社内の議事録・下書き・アイデア出し 低い 社内で完結し、公開しない。社外に転用するときに改めて確認する
社内向けの資料・マニュアル 低い〜中 他社の資料や書籍を読み込ませて作った場合は、元の文章に似ていないか確かめる
ブログ・ホームページの文章 中 公開される。特定の記事や書籍の言い回しに似ていないか、事実が正しいかを確かめる
広告・バナー・パンフレットの画像 高い 多くの人の目に触れ、似ているかどうかが一目でわかる。キャラクターや有名な作品に似ていないか確かめる
動画・音楽・ナレーション 高い 既存の曲や映像、特定の人の声に似ていないか確かめる。著作権のほかに実演や音源の権利も関わる
ロゴ・商品デザイン・キャラクター 高い 長く使い、自社で守りたいもの。既存の作品との類似に加え、自社の権利として守れるかも確かめる
販売する商品・納品物そのもの 高い 取引先や消費者に渡る。契約上の保証や説明の責任も生じる

文章(記事・資料・翻訳)

文章のAIは、学習した文章をそのまま出力することは多くありませんが、特定の記事や書籍の要約・書き換えを指示すると、元の文章の表現に近い出力になりやすくなります。他社の記事を読み込ませて「書き直して」と指示する使い方は避け、公開する文章は特徴的な一節が既存の文章と同じになっていないかを検索で確かめましょう。他人の文章を翻訳して公開する場合は、翻訳権(第27条)が関わるため、AIを使わない場合と同じく許諾が必要になるのが原則です。

画像・デザイン・動画

画像は、似ているかどうかが一目でわかるため、指摘を受けやすい分野です。既存の画像を入力して作り直させる使い方(画像から画像を作る機能)は、入力した画像に似たものを作る目的であれば、第30条の4が適用されず許諾が必要になる場合があります。人物の写真を使う場合は、肖像権やパブリシティ権にも気をつけましょう。画像やバナーの制作を外部に頼む場合の注意点は AIデザイン制作代行とは で解説しています。

音楽・音声

AIで作った曲も、既存の曲のメロディや歌詞と表現が共通し、依拠性があれば侵害になりうる点は、文章や画像と同じです。音楽や音声では、作詞・作曲の著作権に加えて、歌手や演奏者の実演、音源(レコード)に関する権利(著作隣接権)も関わります。文化庁は、俳優や声優などの声を含む実演・レコードとAIとの関係について、今後も議論を続けるとしています(出典:文化庁「AIと著作権に関する考え方について【概要】」)。

特定の歌手やナレーターの声に似せた音声は、著作権の問題にならなくても、パブリシティ権などの別の問題になることがあります。広告や動画のBGM・ナレーションにAIを使う場合は、「〇〇の声で」「〇〇の曲のように」といった指示を避け、商用で使えるかを規約で確かめましょう。

プログラムのコード

プログラムも著作物です。AIが出したコードが、公開されているソフトウェアのコードとほぼ同じになることもあります。その場合、元のコードのライセンス(利用条件)に従う必要が出てきます。自社の製品や納品物に入れるコードは、レビューの段階でライセンスの確認も行うようにしましょう。

社内利用と対外利用で確認の深さを変える

すべての出力を同じ深さで確かめようとすると、AIを使う意味が薄れてしまいます。社内で使うものは軽い確認にとどめ、社外に出すもの、長く使うもの、お金をもらって渡すものほど確認を厚くする、という分け方が現実的です。リスクの高さに合わせて確認の手間を変えることで、企業はAIの便利さと著作権の安全を両立しやすくなります。

用途と公開範囲で決める確認の早見表

どこまで確かめればよいか迷ったときは、作るものの種類と、だれの目に触れるかの組み合わせで決めると判断がぶれません。公開前に、自社の制作物が表のどこにあたるかを当てはめてみてください。

公開の範囲 文章 画像・動画・音楽 プログラムのコード
社内だけ(議事録・下書き) 作った人が読み返す 作った人が、特定の作品に似ていないかを見る 通常のレビュー
取引先など限られた社外(提案書・見積もりの添付) 特徴的な一節を検索で確かめる 画像検索などで類似を確かめる レビューにライセンスの確認を加える
不特定多数(ホームページ・広告・SNS) 検索に加え、作った人以外が確認する 類似の検索に加え、作った人以外が確認する 公開するコードはライセンスの表示まで確かめる
販売・納品・長く使うもの(商品・ロゴ) 上の確認に加え、作った過程の記録を残す 上の確認と記録に加え、商標・意匠の調査も検討する 上の確認と記録に加え、契約での保証の範囲を確かめる

表の下の段ほど、判断に迷ったときに専門家へ相談する価値が高くなります。社内ルールにこの表を添えておくと、社員が自分で確認の深さを決められるようになります。

生成AIサービスの利用規約と補償の確かめ方

利用規約と補償の確かめ方

侵害の基準を押さえていても、使うAIサービスの規約によっては、商用で使えない、入力した内容が学習に使われる、といった別の問題が起きます。導入する前と、規約が改定されたときに確かめたい点をまとめます。

商用利用の可否と生成物の権利

まず、作ったものを広告や商品など商用で使ってよいか、生成物の権利をだれのものと定めているかを確かめます。同じサービスでも、無料の個人向けプランと法人向けプランで条件が違うことがあります。

気をつけたいのは、規約の書き方と著作権法の扱いは別だという点です。規約で生成物の権利が利用者のものとされていても、他人の著作権を侵害していないことまで保証されるわけではありません。著作物にあたるかどうかも、前の章で見た創作的寄与の有無で判断されます。

入力データの扱いと学習への利用

入力した文章や画像が、サービスの改善のための学習に使われるか、使われない設定ができるか、どのくらいの期間保存されるかを確かめます。取引先から預かった資料や、他人の著作物を入力することを禁じる条項が入っていることもあります。

入力データの扱いは、著作権だけでなく情報漏洩の対策とも関わります。各サービスの学習させない設定の手順は 生成AIの情報漏洩対策|原因・社内ルールのひな形・学習させない設定 でまとめています。

権利侵害の補償の有無と条件

一部の事業者は、法人向けの有料サービスで、生成物が第三者から著作権侵害で訴えられた場合に、利用者を守る方針を公表しています。たとえばMicrosoftは2023年9月、商用の顧客が同社のCopilotやその出力を使ったことで著作権侵害の訴えを受けた場合に、顧客を防御し、不利な判決や和解で生じる費用を負担すると発表しました(出典:Microsoft On the Issues)。

ただし、こうした補償には、製品に組み込まれたフィルターなどの安全機能を使うこと、侵害するものを作ろうとしないこと、権利を持たない素材を入力しないことといった条件が付いています。補償があるから確認がいらない、ということにはなりません。対象のプランや条件は変わることがあるため、契約の前に最新の規約で確かめましょう。

規約で確かめる項目の一覧

導入の前に、次の6つの項目を規約や契約書で確かめ、社内の「使ってよいサービス」の一覧に結果を残しておきましょう。

項目 確かめること
商用利用 生成物を広告・商品・納品物に使ってよいか。プランによる違いはあるか
生成物の権利 生成物の権利をだれのものとしているか。事業者が生成物を使う権利を持つか
入力データの扱い 入力が学習に使われるか、使わない設定ができるか、保存の期間
禁止事項 他人の著作物の入力、特定の人物やキャラクターの生成などを禁じているか
補償 権利侵害の訴えを受けたときに事業者が補償するか。その対象と条件
改定と準拠法 規約が改定されたときの知らせ方、どの国の法律が適用されるか

AIと著作権をめぐる国内外の動き

国内外の動き

AIと著作権の扱いは、国内の訴訟や海外の制度づくりによって変わっていく途中にあります。企業として押さえておきたい動きを紹介します。

国内|報道機関が生成AIの事業者を提訴

2025年8月7日、読売新聞の東京・大阪・西部の3本社は、生成AIを使った検索サービスを提供する米国の新興企業パープレキシティが記事を無断で利用しているとして、記事の利用の差止めなどを求めて提訴したと報じています。日本の大手報道機関としては初めての提訴とされています(出典:読売新聞オンライン)。AIの開発・提供をする事業者と、コンテンツを作る権利者との間の議論は続いており、今後の裁判所の判断によって、実務の考え方が具体的になっていくと考えられます。

米国|人による創作的な関与がある部分だけを保護

米国著作権局は2025年1月、AIと著作権に関する報告書の第2部で、生成AIの出力が著作権で守られるのは、人が十分な表現の要素を決めた場合に限られるとの結論を示しました。人が作った作品が出力の中に認められる場合や、人が出力を創作的に配置・修正した場合は含まれますが、プロンプトを入力しただけでは足りないとしています(出典:U.S. Copyright Office)。人の創作的な関与を重視する点は、日本の「考え方」と共通しています。

EU|AI法で汎用AIの提供者に著作権の方針を求める

EUのAI法(Regulation (EU) 2024/1689)第53条は、汎用AIモデルの提供者に対し、EUの著作権法を守るための方針を定めること、学習に使ったコンテンツの十分に詳しい概要を公開することを求めています(出典:EUR-Lex)。主に提供者向けの義務ですが、使う側の企業にとっても、学習データについての情報が手に入りやすくなる動きといえます。

海外で使うときは現地の法律を確かめる

AIの学習や生成物の扱いは国ごとに違い、日本の第30条の4のような規定がない国もあります。AIで作ったものを海外の市場で使う、海外の取引先に納めるといった場合は、日本の考え方がそのまま通じるとは限りません。現地の法律に詳しい専門家に確認しましょう。

AIの著作権リスクに企業がとるべき対策

企業がとるべき対策

文化庁の「チェックリスト&ガイダンス」は、業務でAIを使う企業(AI利用者)が著作権のリスクを減らすための方策を挙げています。これをもとに、企業がとるべき対策を7つにまとめました。どれも大きな費用をかけずに始められるものです。

対策1:使うAIサービスの利用規約と学習データの情報を確かめる

AIサービスの利用規約には、他人の著作物の入力を禁じるなど、著作権を侵害するおそれのある使い方を制限する条項が入っていることがあります。生成物の権利の扱い、商用で使えるか、権利侵害の請求を受けたときにサービス側が補償するかといった点も、サービスやプランによって違います。確かめる項目は規約で確かめる項目の一覧にまとめています。

また、AIの開発者や提供者が学習データについて公開している情報は、そのAIを使うリスクの高さを判断する材料になります。規約は改定されることがあるため、導入するときだけでなく、定期的に見直す担当を決めておきましょう。

対策2:作品名・作者名・キャラクター名を指示に入れない

「チェックリスト&ガイダンス」は、既存の著作物そのものや、作品の題名、キャラクター名などの固有名詞を指示に入れると、使う人が既存の作品を知っていたことを示す事情となり、依拠性が認められやすくなるとしています。業務では、特定の作品や作者をまねる指示をしないことを、ルールとして明文化しておきましょう。

対策3:入力する素材の権利を確かめる

AIに入力する画像や文章が他人の著作物である場合、それと似たものを作る目的で入力すると、許諾が必要になる場合があります。入力に使う素材は、自社で作ったもの、権利者から許諾を得たもの、利用条件が明確な素材に限るのが安全です。取引先から預かった資料は、著作権に加えて秘密保持の約束もあるため、入力してよいかを契約で確かめましょう。

対策4:公開の前に既存の作品と似ていないか確かめる

類似性がなければ、著作権侵害にはなりません。そのため、AIで作ったものを使う前に、まず既存の作品と似ていないかを確かめることが必要とされています。文化庁の「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」でも、利用に先立って既存の著作物と類似していないかを確認することが必要とされ、その方法として「インターネット検索(文章検索・画像検索)の活用など」が挙げられています(出典:文化庁『AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス』)。文章なら特徴のある一文をそのまま検索し、画像なら画像そのものを手がかりに探す検索(逆画像検索)を使います。広告やロゴなど社外に出すものは、作った人とは別の人が類似を確かめる手順にしておくと、見落としを減らせます。

対策5:プロンプトと生成の過程を記録する

使ったAIサービス、日時、入力した指示や素材、人が加えた修正を残しておくと、依拠性がないことや、自社に創作的寄与があることを説明する材料になります。取引先にAIで作ったものを納める場合も、AIを使ったことや、類似の確認をしたことを説明できるようにしておくことが望まれます。

対策6:社員に著作権の基本を教える

「チェックリスト&ガイダンス」は、AI生成物が他人の著作権を侵害するかという問題と、AI生成物に著作権があるかという問題を混同するなど、理解が不十分なために不適切な使い方が起きないよう、社員の著作権の理解を確認しておく必要があるとしています。ルールを配るだけでなく、具体的な例を使った研修とセットで伝えましょう。社員教育の組み立て方は 生成AIの社員教育の進め方 で解説しています。

対策7:外注先・委託先がAIを使うときの取り決め

記事やデザイン、プログラムの制作を外部に頼む場合、外注先がAIを使っているかどうかで確認すべき点が変わります。AIを使うかどうかとその範囲、類似の確認の方法、成果物の著作権の移転、第三者から権利侵害の請求を受けたときの責任の分け方を、契約の前に取り決めておきましょう。文章の制作を外部に頼む場合の確認点は AIライティングとは|ツール比較と代行の費用相場・選び方 でも紹介しています。

対策8:AIを使ったことと確認したことを説明できるようにする

文化庁の「チェックリスト&ガイダンス」は、業務で生成物を使う場合、関係する相手に対して、AIを利用した生成物であることやその著作物性について適切に説明することが求められるとしています。あわせて、既存の著作物と類似したものになっていないことについて、インターネット検索などの可能な確認措置を行っていることを説明できるようにしておくことが望まれるとしています(出典:文化庁『AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス』)。

社外に出すものや取引先に納めるものについては、AIを使ったかどうかを伝えるか、どの範囲で伝えるかを社内で決めておきましょう。制作を請け負う立場であれば、AIの使用の可否と表示の扱いを契約で取り決めます。なお、日本の著作権法には、AIで作ったことの表示を義務づける規定はありません。EUのAI法のように、生成物であることの開示を求める制度がある地域に向けて使う場合は、現地の決まりを確かめる必要があります。

著作権の社内ルールの作り方|入れる項目とひな形

著作権の社内ルール

総務省の『令和8年版 情報通信白書』によると、生成AIのリスクへの取り組みとして「全社的な指針やガイドラインを整備している」と答えた日本の企業は41.1%でした(出典:総務省『令和8年版 情報通信白書』)。ここでは、生成AIの社内ルールに加える著作権の項目と、ひな形を紹介します。

社内ルールに入れる7つの項目

項目 決めること
使ってよいサービス 利用規約・商用利用の可否・生成物の権利の扱いを確かめたサービスに限る
禁止する指示 作品名・作者名・キャラクター名・他社のブランド名を使って似たものを作らせない
入力してよい素材 自社の素材、許諾を得た素材、利用条件が明確な素材に限る
公開前の確認 社外に出すものは、類似の確認と、作った人以外の確認を必須にする
記録 社外に出すものは、使ったサービス・日時・指示・修正を残す
相談と報告 迷ったときの相談先、似ていると指摘されたときの報告先を決める
見直し 規約の改定や新しい公的な資料に合わせて、定期的に見直す

そのまま使える著作権の条文のひな形

生成AIの利用規程に、著作権の条文として加える場合のひな形です。〔 〕の部分を自社に合わせて書き換えてください。

条 条文
(使ってよいサービス) 業務で生成物を社外に出す目的で使ってよい生成AIは、〔管理部門〕が利用規約・商用利用の可否・生成物の権利の扱いを確認し、別表に載せたサービスに限る。
(禁止する使い方) 他人の作品名・作者名・キャラクター名・他社のブランド名を指示に入れて、それらに似たものを作らせてはならない。他人の画像や文章を入力して、それに似たものを作らせてはならない。
(入力する素材) 生成AIに入力する画像・文章などの素材は、当社が作成したもの、権利者から許諾を得たもの、または利用条件で認められたものに限る。
(公開前の確認) 生成物を社外に出すときは、作成者が既存の作品と似ていないかを検索などで確かめ、〔確認者〕の確認を受ける。似ていると判断したものは使わない。
(記録) 社外に出す生成物は、使ったサービス、日時、指示・入力した素材、人が加えた修正を〔保存場所〕に〔保存期間〕保存する。
(報告) 生成物が他人の権利を侵害していると指摘を受けた、またはそのおそれに気づいたときは、使用を止め、直ちに〔報告先〕に報告する。

ひな形は一般的な例です。自社の業種や取引の形に合わせた条文にするときは、弁護士などの専門家の確認を受けると安心です。

公開前のセルフチェック

AIで作ったものを社外に出す前に、次の7つを確かめましょう。1つでも「いいえ」があれば、使う前に見直すか、担当者に相談します。どこまで深く確かめるかは、用途と公開範囲で決める確認の早見表で決めます。

No. 確かめること
1 会社が認めたAIサービスで作ったか
2 作品名・作者名・キャラクター名などを指示に入れていないか
3 入力した素材は、自社のものか許諾を得たものか
4 他人の画像や文章を入力して作り変えたものではないか
5 検索(文章検索・逆画像検索)で、既存の作品と似ていないことを確かめたか
6 作った人とは別の人が確認したか
7 使ったサービス・指示・修正の記録を残したか

情報漏洩のルールと合わせて1つの規程にする

生成AIの社内ルールには、著作権のほかに、入力してよい情報の区分や学習させない設定など、情報漏洩を防ぐための決まりも必要です。規程が分かれていると社員が読まなくなるため、著作権の条文は、生成AIの利用規程の中に加える形がおすすめです。著作権は「作ったものを出すとき」、情報漏洩は「情報を入れるとき」と、確かめる場面を分けて書くと、社員が迷いにくくなります。情報漏洩の対策と利用規程のひな形は 生成AIの情報漏洩対策|原因・社内ルールのひな形・学習させない設定 で解説しています。

著作権侵害を指摘されたとき・自社の著作物が使われたとき

指摘を受けたときの対応

「チェックリスト&ガイダンス」は、著作権侵害が起きた場合の対応(事案の共有、利用の停止、権利者への対応、原因の解明、再発の防止など)を、あらかじめ想定しておくことが望ましいとしています。

指摘を受けたときの初動

01

指摘の内容と対象を整理する

どの制作物の、どの部分が、どの作品に似ていると言われているのかを整理します。指摘を受けた日時と相手、やり取りの記録を残しておきます。

02

公開・配布を止めるかを判断する

被害の広がりを防ぐため、ウェブサイトへの掲載や配布を一時的に止めることを検討します。止めるかどうかと相手への伝え方は、弁護士とも相談しながら決めます。

03

作ったときの記録を集める

使ったAIサービス、日時、指示や入力した素材、人が加えた修正、公開前の確認の記録を集めます。依拠性や創作的寄与を説明する材料になります。

04

弁護士に相談してから回答する

類似性や依拠性の判断は専門的です。相手への回答や、謝罪・使用料の支払いなどの対応は、弁護士に相談してから決めます。使ったAIサービスに補償の制度がある場合は、その窓口への連絡も検討します。

05

原因を調べ、ルールを見直す

指示の出し方、素材、確認の手順のどこに原因があったかを調べ、社内ルールと研修の内容を見直します。

自社の著作物がAIに使われたとき

反対に、自社の記事や画像がAIの学習に使われる、AIの出力に自社の作品に似たものが出てくるといった、権利を持つ側の悩みもあります。文化庁の「チェックリスト&ガイダンス」の第2部は、権利者向けに、自社の権利を守るための取り組みを紹介しています。

たとえば、自社のサイトの内容をAIの学習のために集められたくない場合は、robots.txt への記述などでクローラの収集を制限する方法があります。AIの出力に自社の作品に似たものが出てきた場合は、作った人や公開している人に対して、差止めなどを求められる場合があります。具体的な対応は、専門家に相談しましょう。

主な相談先

相談先 向いている相談
知的財産に詳しい弁護士 指摘を受けたときの対応、契約書や社内ルールの確認、個別の制作物の判断
文化庁の相談窓口 文化芸術活動に関する法律相談窓口など(文化庁)
AIサービスの提供者 利用規約の解釈、権利侵害の請求を受けたときの補償の有無

指摘を受けてから相談先を探すと、対応が遅れて企業の信用への影響が大きくなりがちです。報告先と相談する弁護士を、AIを使い始める前に決めておくことが、いちばん手軽な備えになります。

社内ルールと研修を自社で進めるか外部に頼むか

自社で進めるか外部に頼むか

使うAIサービスを絞り、ひな形をもとにルールを作るのであれば、社内だけでも始められます。一方で、ルールを決めても社員に定着しない、AIを業務の仕組みに組み込みたいといった場合は、外部の支援を使うと早く形にできます。法律の判断は弁護士に、AIの使い方のルールや研修、仕組みづくりは導入支援の会社に、と役割を分けて頼むのがおすすめです。支援会社の選び方は AI導入支援とは?おすすめ会社の比較と選び方 で詳しく解説しています。

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AIの著作権侵害に関するよくある質問

よくある質問
Q. AIで作った画像や文章は、会社の広告やホームページに使えますか?
使えないわけではありません。ただし、既存の作品と似ていないかを公開の前に確かめ、使ったAIサービスの利用規約で商用利用が認められているかを確認しましょう。特定の作品名や作者名を指示に入れて作ったものは、使わないのが無難です。
Q. 類似性と依拠性のどちらか一方があれば、著作権侵害になりますか?
なりません。文化庁の「考え方」では、既存の著作物との類似性と依拠性の両方が認められ、権利制限規定にもあたらない場合に著作権侵害になるとされています。どちらか一方でも認められなければ、既存の著作物の著作権侵害にはなりません。
Q. 偶然似てしまった場合も、著作権侵害になりますか?
既存の作品を知らず、その作品がAIの学習データにも含まれていなければ、依拠性がなく侵害にはなりません。ただし、学習データに含まれていた場合は、使う人が作品を知らなくても通常は依拠性が推認されるため、「偶然」と主張するのは簡単ではありません。公開の前に類似を確かめておくことが大切です。
Q. 「〇〇風に」と指示して作るのは著作権侵害になりますか?
作風や画風がアイデアにとどまるなら、共通していても侵害にはなりません。ただし、特定の作者の作品の創作的な表現まで似ている場合は侵害になりえます。作者名や作品名を指示に入れると依拠性も認められやすくなるため、業務では避けましょう。
Q. AIで作ったものの著作権は会社のものになりますか?
AIに任せきりで作ったものは、著作物にあたらないと考えられています。人が創作的寄与をして著作物にあたる場合で、社員が職務として作り会社の名義で公表するものなどは、契約や勤務規則に別の定めがない限り会社が著作者になります(著作権法第15条)。
Q. AIで作ったロゴは、商標や著作権で守れますか?
AIに任せきりで作ったロゴは、著作物にあたらず著作権で守れない可能性があります。商標は著作権とは別の制度で、特許庁に出願して登録を受けることで守る仕組みです。どちらの場合も、既存のロゴや登録商標と似ていないかを事前に調べておきましょう。長く使うロゴは、人の手で仕上げたうえで、弁理士などの専門家に相談すると安心です。
Q. AIで作ったものに、著作権表示やAIを使ったことの表示は必要ですか?
日本の著作権法では、著作権は作った時点で発生し、©などの表示や登録は必要ありません(第17条第2項)。AIで作ったことを表示することも、著作権法上の義務ではありません。ただし、使うAIサービスの規約、取引先との契約、海外の法律で表示を求められる場合があるため、それぞれ確かめましょう。
Q. 社内だけで使うなら、著作権を気にしなくてよいですか?
リスクは低くなりますが、なくなるわけではありません。権利者の許諾を得て使うことを前提に社内で検討する過程で作る場合などは、許諾なく行える範囲があります。ただし、検討の範囲を超えて資料として配る、社外に転用するといった場合は、改めて確認が必要です。
Q. 侵害だと知らずに使っていた場合も、責任を問われますか?
故意も過失もない場合、文化庁の「考え方」では、損害賠償や刑事罰の対象にはならず、差止請求にとどまると考えられるとしています。ただし、使用料に相当する額などの不当利得の返還が認められることはありえます。過失の有無は事案ごとに判断されます。
Q. 他社の記事や資料をAIに読み込ませて要約させてもよいですか?
文化庁の「チェックリスト&ガイダンス」では、指示のために著作物をAIに入力することには、原則として第30条の4が適用されると考えられるとしています。ただし、入力した文章に似たものを作る目的の場合は適用されないことがあります。要約を社外に公開する場合や、元の文章の表現が残った書き換えを自社の記事として出す場合は、元の著作物の権利を侵害するおそれがあります。
Q. AIで作った音楽やナレーションを動画に使ってもよいですか?
使うAIサービスの規約で商用利用が認められ、既存の曲や特定の人の声に似ていなければ、使える場合があります。音楽や音声は、作詞・作曲の著作権のほか、歌手や演奏者、音源に関する権利も関わります。特定の曲名や人の名前を指示に入れて作ったものは、使わないようにしましょう。
Q. 著作権の社内ルールは、情報漏洩のルールと分けて作るべきですか?
1つの生成AIの利用規程にまとめるのがおすすめです。情報漏洩は「入力するとき」、著作権は「作ったものを社外に出すとき」と、確かめる場面を分けて書くと伝わりやすくなります。
Q. AIサービスの利用規約で、とくに確かめるべき点は何ですか?
商用利用の可否、生成物の権利の扱い、入力データが学習に使われるか、他人の著作物の入力を禁じる条項の有無、権利侵害の請求を受けたときにサービス側が補償するかどうかです。補償には条件が付くことが多いため、内容まで確かめましょう。規約は改定されるため、定期的に見直すことも大切です。

まとめ

まとめ

AIの著作権侵害の基準と、企業が押さえておきたいポイントを、6つにまとめます。

01
AIと著作権は「学習」「生成・利用」「生成物の著作物性」の3つに分けて考える
02
著作権侵害には、既存の作品との類似性と依拠性の両方が必要。AIでは使う人が作品を知らなくても依拠性が推認されうる
03
AIに任せきりで作ったものは著作物にあたらない。守りたい制作物は人が手を入れ、過程を記録する
04
作品名や作者名を指示に入れず、社外に出すもの・長く使うものほど公開前の類似の確認を厚くする
05
使うAIサービスの規約で、商用利用・入力データの扱い・補償の条件を確かめる
06
著作権の条文は生成AIの利用規程に加え、指摘を受けたときの初動と相談先を決めておく

文化庁の「考え方」は、今後の裁判例や技術の変化に合わせて見直されることが予定されています。AIの著作権侵害の基準も、裁判所の判断が積み重なるにつれて具体的になっていくはずです。社内のルールも一度作って終わりにせず、公的な資料の更新に合わせて見直していきましょう。生成AIの情報漏洩の対策は 生成AIの情報漏洩対策、社員への教育は 生成AIの社員教育の進め方 もあわせてご覧ください。