人手が足りず、今の面積を維持するだけで精一杯。ベテランの勘に頼ってきた生育の見極めや防除の判断を、次の世代にどう引き継げばよいか分からない。農業でもAIが使えると聞くものの、自分の経営のどこで役に立つのか、費用に見合うのかが見えない。農業のAI活用を考え始めた経営者や産地の担当者から、よく聞かれる悩みです。農林水産省の資料でも、基幹的農業従事者は今後20年間で約4分の1(2023年の116万人から30万人)にまで減ると見込まれています(出典:農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」2026年10月)。

そこで本記事では、農業のAI活用でできることを10の分野に分けて整理し、農林水産省の白書や資料で公開されている事例8件、実証で確かめられた効果、導入の課題とよくある失敗、作物別の最初の一手、費用を回収できるかの試算の仕方と使える支援制度までをまとめました。自分の経営で、どの作業からAIを試せばよいかを考える材料にしてください。

この記事でわかること

  • AIでできる10分野がわかる
  • 公的資料の事例8件で効果を知る
  • 作物別に最初の一手を選べる
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農業のAI活用とは|スマート農業との違い

農業のAI活用とは

まずは、農業のAI活用が何を指すのかと、よく一緒に使われる「スマート農業」「農業DX」との関係を整理しておきましょう。

農業のAI活用とは

農業のAI活用とは、作物の画像や気象、土壌、作業の記録、出荷の実績といったデータをAIに読み取らせ、生育の見極めや病害虫の発見、収量の予測、機械の自動運転などに役立てることです。人の目や経験で行ってきた判断を、データにもとづいて助けたり、機械に任せたりするのが基本の考え方です。

最近は、文章を作る生成AIを、作業日誌の整理や販促の文章づくり、制度の調べものに使う農業者も増えています。

スマート農業との関係

農林水産省は、スマート農業を「ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用する農業」と説明しています(出典:農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」)。AIはスマート農業を形づくる技術の1つで、ドローンやセンサー、自動運転の農機が集めたデータを分析し、判断につなげる役割を担います。

農業DX・アグリテックとの違い

似た言葉との違いは、次のように整理できます。

言葉 指すもの 主な範囲
農業のAI活用 データをAIで分析し、判断や作業に役立てること 生育・病害虫・収量・機械・経営・事務
スマート農業 ロボット・AI・IoTなどの先端技術を使う農業 主に生産の現場
農業DX デジタル技術とデータで、経営や仕組みそのものを変えること 生産から流通・販売・行政の手続きまで
アグリテック 農業と技術を組み合わせた製品・サービスや産業 技術を提供する企業の側から見た呼び方

農林水産省は、農業や食関連産業のデジタル化の方向性を「農業DX構想2.0」(2024年2月)にまとめています。

AIが得意なこと・苦手なこと

AIが得意なのは、たくさんの画像や数字から決まった傾向を見つけること、同じ基準で休まず見続けることです。一方で、過去のデータにない異常気象や新しい病気には弱く、品目や地域、栽培方法が変わると精度が落ちることもあります。AIは人の判断を置き換えるものではなく、判断を早く正確にするための道具として位置づけることが大切です。

農業でAI活用が求められる背景

AI活用が求められる背景

農業でAIの活用が急がれているのには、一時的な流行ではない、次のような理由があります。

担い手の減少と高齢化

農林業センサスによると、ふだん仕事として主に自営農業に従事している基幹的農業従事者は、2020年の136.3万人から2025年には103.6万人に減りました。2025年の平均年齢は67.7歳で、65歳以上が72.1万人と約7割を占めます(出典:農林水産省「農業労働力に関する統計」)。同じ面積を少ない人数で耕し続けるには、1人あたりの作業できる面積を広げる工夫が欠かせません。

熟練者の技術を引き継ぎにくい

葉の色や果実の張りを見て施肥や収穫の時期を決める判断は、長年の経験に支えられています。ベテランが引退すると、その判断の基準も一緒に失われがちです。画像やセンサーのデータとして記録し、AIで同じ基準を再現できれば、経験の浅い人でも判断しやすくなります。

気候の変化と資材の高騰

高温や大雨が増え、これまでの経験則どおりに生育や収量を読むことが難しくなっています。肥料や燃料の価格も上がり、必要な場所に必要な量だけを使う管理が求められるようになりました。データにもとづいて施肥や防除の量を決めるAIの活用は、収量の安定とコストの削減の両方に関わります。

国がスマート農業を後押ししている

2024年10月には「スマート農業技術活用促進法」(農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律)が施行されました。スマート農業技術の活用と生産方式の見直しに取り組む農業者や、技術を開発・供給する事業者の計画を国が認定し、税制や融資で支援する仕組みです(出典:農林水産省「スマート農業技術活用促進法」)。

数字で見る農業のAI・スマート農業の現状

数字で見る現状

農業でのAIやスマート農業の広がりを、農林水産省の公表している数字で確かめておきましょう。

スマート農業技術を使った面積は約2割

2025年4月に閣議決定された食料・農業・農村基本計画では、スマート農業技術を活用した面積の割合を、2024年の約20%から2030年に50%へ引き上げる目標が掲げられました。農家のデータ活用の割合は58.5%(2024年2月)、スマート農機の出荷台数の割合は25%(2023年)です(出典:農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」)。

指標 現状 2030年の目標
スマート農業技術を活用した面積の割合 約20%(2024年) 50%
スマート農機の出荷台数の割合 25%(2023年) 50%
農家のデータ活用の割合(参考指標) 58.5%(2024年2月) −

ドローンの散布面積は119.6万ha

現場で最も広がっている技術の1つが農業用ドローンです。農薬などの散布面積は2024年度に119.6万haとなり、近年急速に広がっています(出典:農林水産省『令和7年度 食料・農業・農村白書』)。

スマート農業技術活用促進法の認定は300件を超えた

スマート農業技術活用促進法にもとづく認定は、農業者などの「生産方式革新実施計画」が232件(2026年9月17日時点)、技術を開発・供給する事業者の「開発供給実施計画」が69件(2026年9月25日時点)となりました。キャベツやブロッコリーの自動収穫機、アスパラガスのAI自動収穫ロボットなど、AIを組み込んだ技術も含まれています(出典:農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」)。

農業のAI活用でできること10分野

AI活用でできること10分野

農業のAI活用は、大きく次の10の分野に分けられます。まず一覧で全体を見て、自分の経営の困りごとに近いものから読み進めてください。

分野 AIが使うデータ 主な効果 始めやすさ
生育診断・収穫適期の判定 作物の画像、衛星・ドローンの画像 見回りの手間を減らす、判断のばらつきを減らす 始めやすい
病害虫の診断・発生の予測 葉や果実の画像、気象、土壌の分析値 早く見つける、防除の量を適正にする 始めやすい
収量・出荷量の予測 生育データ、気象、過去の出荷実績 人手や資材、出荷先の手配を前もって決める データがあれば中程度
環境制御(施設園芸) 温度・湿度・CO2・日射・土壌水分 品質と収量を安定させる、資材のむだを減らす 機器の導入が必要
ロボット・自動運転の農機 位置情報、カメラの画像 収穫・除草・運搬の重労働を減らす 投資が大きい
選果・品質の検査 コンベアを流れる農産物の画像 選別の手間と、判定のばらつきを減らす 選果場・出荷施設向け
畜産・酪農の個体管理 牛に付けたセンサー、牛舎のカメラの映像 発情や体調の変化に早く気づく 機器の導入が必要
鳥獣害の対策 わなやほ場の周りのカメラの画像 見回りの回数を減らす、出没に早く気づく カメラの設置が必要
経営管理・販売 作業記録、収支、市況 原価や収益を見える化し、売り方を見直す 始めやすい
生成AIによる記録・事務・販促 日誌、メモ、商品の情報 書類づくりや発信の手間を減らす すぐ始められる

生育診断・収穫適期の判定

スマートフォンやカメラで撮った作物の画像、ドローンや人工衛星の画像から、葉の色や草丈、果実の大きさや色づきを読み取り、生育の状態や収穫の適期を判定します。広いほ場の生育のばらつきを地図で示し、追肥が必要な場所だけに肥料をまく「可変施肥」にも使われます。

病害虫の診断・発生の予測

葉の画像から病気や害虫の候補を示す診断アプリや、気象や土壌のデータから発生のしやすさを予測する仕組みがあります。農研機構が運営する農業データ連携基盤「WAGRI」でも、スマートフォンで撮った画像から病害を判定するプログラムが民間事業者に提供されています(出典:農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」)。最終的な防除の判断は、普及指導員やJAの営農指導員とも相談しながら行いましょう。

収量・出荷量の予測

生育のデータと気象、過去の出荷の実績から、いつ・どれだけ収穫できるかを予測します。収穫の山が早めに読めれば、作業する人の手配や予冷庫・物流の確保、出荷先との数量の調整を前もって進められます。契約取引が多い経営体や、産地全体で出荷をまとめるJA・出荷組合で効果が出やすい分野です。

環境制御(施設園芸)

ハウスの温度・湿度・CO2濃度・日射量・土壌水分などをセンサーで測り、換気や暖房、かん水、施肥を自動で制御します。過去の栽培データをもとに制御の設定を見直すことで、品質と収量の安定や、燃料・肥料のむだの削減につながります。

ロボット・自動運転の農機

自動運転のトラクターや直進アシストの田植機、ドローンによる散布、カメラで作物を見分ける収穫ロボットや選果機、除草ロボットなどです。人手が集中する収穫や除草、運搬の負担を減らせます。国は果樹・茶の収穫・運搬作業の労働時間を60%減らす技術などを、2030年度までに実用化する目標を示しています。

選果・品質の検査

コンベアを流れる果実や野菜をカメラで撮り、大きさや色づき、傷、形をAIが見分けて等級ごとに仕分ける選果機があります。人の目に頼っていた選別の負担が減り、担当する人による判定のばらつきも抑えられます。1戸の農家で入れるより、JAの選果場や出荷施設、加工の工場のように、多くの量を扱う場所に向いた分野です。

畜産・酪農の個体管理

牛の首や足に付けたセンサーで歩いた量や反すうの時間を測り、AIが発情の兆しや体調の変化を知らせる仕組みがあります。牛舎のカメラの映像から、分娩が近い牛や動きの少ない牛を見つける製品もあります。夜間の見回りの負担を減らし、種付けの時期や病気の兆しを見逃しにくくなるのが主な効果です。

鳥獣害の対策

わなやほ場の周りに置いたカメラの画像から、AIがイノシシやシカなどの動物を見分け、スマートフォンに知らせる仕組みです。わなにかかったときや動物が近づいたときだけ通知が届けば、毎日の見回りの回数を減らせます。鳥獣被害の対策は地域ぐるみで進めることが多いため、まずは市町村の担当の窓口に、地域で使っている仕組みがあるかを聞いてみましょう。

経営管理・販売

ほ場ごとの作業時間や資材、収量を営農管理アプリで記録し、品目別・ほ場別の原価や収益を見える化します。市場の入荷量や価格の推移をあわせて見れば、出荷の時期や販売先を見直す判断材料になります。過去の市況や気象から、価格や需要の動きを予測するサービスも出てきています。

生成AIによる記録・事務・販促

ChatGPTなどの生成AIは、専用の機器がなくても今日から使えます。作業日誌のメモを整える、補助金の申請書の下書きをつくる、直売所のPOPや通販の商品説明、SNSの投稿文を考えるといった使い方が身近です。使い方の詳細は、下の「生成AIの農業での使い方」で紹介します。

【公的資料より】農業のAI活用事例8選

農業のAI活用事例8選

ここでは、農林水産省の白書や資料に載っている事例から、AIやデータの分析を使った取組を8件選びました。まず一覧で全体をつかんでください。

取組の主体 地域・品目 使った技術
香川県グリーン農業コンソーシアム 香川県・ブロッコリー AIで土壌病害の発病リスクを評価するアプリ
西三河農業協同組合 愛知県・きゅうり 環境制御、生育データから産地の出荷量を予測
しかりべつ高原野菜出荷組合 加工キャベツ部会 北海道・キャベツ 精密出荷予測システム
ジェイエイフーズみやざき 宮崎県・ホウレンソウなど クラウド型生産管理とAIの予測
百目木営農組合 千葉県・水稲 直進アシスト田植機、AIを使った生育管理システム
Farmers Villa Ume 鹿児島県・ピーマン 複合環境制御装置とデータの共有
果実堂 熊本県・ベビーリーフ 過去の栽培データにもとづく複合環境制御
テラスマイル 宮崎県・ピーマンの産地など 営農データを一元化・分析する経営管理クラウド

香川県グリーン農業コンソーシアム|AIで土壌病害の発病リスクを評価

ブロッコリーなどの根こぶ病に対し、農研機構を代表とする研究プロジェクトで開発されたアプリ「HeSo+(ヘソプラス)」を使い、ほ場ごとの発病リスクをAIで評価しています。菌の密度や土壌のpHなどを入力すると、リスクに応じた対策が示されます。2022年度の実証では、過剰に防除しているほ場が全体の13%程度あることが分かり、2023年度には発病リスクの高いほ場に前もって土壌改良などを行い、収量に影響が出ない程度に発生を抑えました(出典:農林水産省『令和6年度 食料・農業・農村白書』特集3)。

西三河農業協同組合|きゅうりの出荷量を産地で予測

愛知県西尾市の西三河農業協同組合は、ハウス内の温度や湿度、CO2濃度を集めて保温や遮光を自動で制御し、生育とエネルギー使用量の最適化を進めています。2〜3週間かかっていた土壌分析も、簡易分析器の導入で短時間で確かめられるようになりました。さらに、生産者ごとの生育データから、組合全体の出荷量を予測するモデルづくりに取り組んでいます(出典:農林水産省『令和6年度 食料・農業・農村白書』特集3)。

しかりべつ高原野菜出荷組合|出荷予測を作業員と物流の手配に生かす

北海道鹿追町の加工キャベツ部会は、「精密出荷予測システム」で得た収穫時期・収穫量のデータを、作業受託や集出荷を担うJAと共有しています。作業員の計画的な手配や、物流・予冷庫の手配に生かしてコストを減らすとともに、栽培履歴の分析を産地全体の肥培管理に役立てています。スマート農業技術活用促進法の生産方式革新実施計画の認定事例です(出典:農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」)。

ジェイエイフーズみやざき|半日かかっていた作業が30分に

宮崎県西都市のジェイエイフーズみやざきは、クラウド型の生産管理システムでほ場の位置や面積、生育の情報をまとめて管理し、収穫時期や生産量を予測して、冷凍加工工場の稼働計画やほ場の作付計画をつくっています。スマート農業実証プロジェクトでは、収穫データや生育管理の予測データとAIの予測を組み合わせることで、半日かかっていた作業が30分に短くなったと報告されています(出典:農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」)。

百目木営農組合|AIの生育管理システムで適正な施肥へ

千葉県袖ケ浦市の農事組合法人百目木(どうめき)営農組合は、離農した農地を引き受けて規模を広げるなかで、田植えの時期に人手が集中することに悩んでいました。直進アシスト機能付きの田植機を使った直播栽培に切り替え、AIを活用した生育管理システムで栽培データを県内のほかの農業者と共有し、ほ場ごとに適正な施肥を行えるようにする計画です(出典:農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」)。

Farmers Villa Ume|ピーマンの環境制御データをほかの生産者と共有

鹿児島県志布志市の株式会社Farmers Villa Umeは、ピーマンのハウス栽培で複合環境制御装置と極少量培地栽培を組み合わせ、台風の時期にも栽培できる耐候性ハウスで作期を延ばしています。装置で得た土壌水分や温湿度、日射量のデータをほかの生産者と共有・分析し、適正な肥培管理で収益性を高める取組です(出典:農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」)。

果実堂|過去の栽培データで高温障害のリスクを減らす

熊本県益城町の株式会社果実堂は、約70haで有機栽培のベビーリーフを生産しています。過去の栽培データをもとに肥培管理を行う複合環境制御装置と、換気窓の大きい自動開閉式のハウスを組み合わせ、高温障害などのリスクを減らして品質と収量を高めることを目指しています。作業のマニュアル化も進め、若い人が働きやすい環境づくりにもつなげています(出典:農林水産省『令和7年度 食料・農業・農村白書』)。

テラスマイル|熟練者のノウハウを見える化し単収20%向上

宮崎県宮崎市のテラスマイル株式会社は、営農管理システムやセンサー、農機に散らばったデータを一元化・分析する経営管理クラウドを、大規模農業法人などに提供しています。導入したピーマンの産地では、見える化した熟練生産者のノウハウをもとに生産を進め、基本的な栽培をパートの従業員に任せられるようになり、平均の単収が20%向上しました(出典:農林水産省『令和6年度 食料・農業・農村白書』特集3)。

8件に共通するのは、機械やAIを入れること自体ではなく、集めたデータを、人の手配や施肥の判断など次の作業の決め方につなげている点です。ほかの業種も含めた中小企業の事例は 中小企業のAI導入事例 でまとめています。

海外の農業のAI活用の動向

海外の農業のAI活用の動向

海外でも、労働力の不足や生産性の向上という日本と同じ課題に向き合い、自国の農業の形や気候に合わせて重点の分野を選び、AIを含むスマート農業技術の開発と現場への普及を進めています。農林水産省『令和7年度 食料・農業・農村白書』のコラムから、主な4か国の方向性を見ておきましょう(出典:農林水産省『令和7年度 食料・農業・農村白書』)。

国 進め方の中心 重点の分野
米国 民間企業 大規模なほ場に合う省力化、施肥量の調整などの精密農業
中国 政府(国家戦略) データ基盤の整備と、幅広い分野の自動化・デジタル化
韓国 政府 施設園芸を中心とした環境制御。人材育成と組み合わせる
イスラエル 民間企業 乾燥地に合う節水型のスマートかんがい

米国|民間企業が精密農業を引っぱる

米国では民間企業が中心となり、大規模なほ場に合った省力化や、施肥量をほ場の状態に合わせて変える精密農業の技術開発が進んでいます。1経営体あたりの面積が広いため、1台の機械や1つの仕組みを入れたときの効果が大きく、投資しやすい構造になっています。

中国|政府が主導してデータ基盤から整える

中国では政府が国家戦略のもとで、データ基盤の整備とあわせて、幅広い分野の自動化・デジタル化を進めています。個々の農業者が機械を選ぶ前に、データを集めて使える土台を国の側で用意する進め方です。

韓国|施設園芸の環境制御を人材育成とセットで広げる

韓国でも政府が中心となり、施設園芸を軸に、環境制御の技術の導入を人材育成と組み合わせて後押ししています。機器を入れるだけでは使いこなせないという課題に、育成の仕組みを合わせて答えている形です。

イスラエル|水の制約を節水かんがいの技術で越える

イスラエルでは民間企業が中心となり、乾燥地に合った節水型のスマートかんがいなどの技術開発・普及が進んでいます。水が足りないという最も重い制約から技術を選んでいる例です。

日本の経営が海外の動きから見習える点

4か国に共通するのは、自国の農業の形と気候から重点の分野を絞り、そこに開発と普及を集めている点です。日本では1経営体あたりの面積が米国より小さく、施設園芸や中山間地域のように条件も地域で大きく違います。海外で成果が出た技術をそのまま持ち込むのではなく、自分の経営でいちばん重い制約(人手・水・燃料・技術の継承)を1つ決めて、そこに効く分野から試す進め方が現実的です。

農業でAIを活用するメリット|実証で確かめられた効果

メリットと実証の効果

農林水産省は2019年度から全国217地区で「スマート農業実証プロジェクト」を行い、生産現場での効果を確かめてきました。その結果から、農業でAIやスマート農業技術を使うメリットを見ていきます。

作業時間を短くできる

実証プロジェクトでは、平均の作業時間が農薬散布用ドローンで61%、自動水管理システムで80%、直進アシスト田植機で18%短くなりました(出典:農林水産省『令和6年度 食料・農業・農村白書』特集3)。見回りや散布のように時間のかかる作業ほど、短縮の効果が大きく出やすいといえます。

技術 平均の作業時間の短縮
自動水管理システム 80%
農薬散布用ドローン 61%
直進アシスト田植機 18%

収量・品質を高められる

水田作では、総労働時間が平均で9%減り、単収が平均で9%増えました。環境や生産のデータを栽培管理に使うことで、収量や品質が上がる効果が、さまざまな品目で確かめられています(出典:同上)。

経験の浅い人も戦力になる

自動で操作できる農機は、熟練者に近い速さと精度で作業できるため、農作業のハードルを下げます。実証では、岐阜県の集落営農法人で経理を担当していた女性がオペレーターとして活躍するようになり、経営面積が164haから196haに広がった例や、宮崎県で学生アルバイトもラジコン草刈機で作業に加わった例があります(出典:農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」)。

技術をデータとして引き継げる

ベテランの判断をデータとして残しておけば、後継者や従業員に技術を伝えやすくなります。前の章のテラスマイルの事例のように、熟練者のノウハウを見える化して、パートの従業員に栽培を任せられるようになった産地もあります。

農薬・肥料のむだと環境への負荷を減らせる

発生のリスクや生育のばらつきに合わせて防除や施肥を行えば、必要以上に使っていた資材を減らせます。香川県の事例では、過剰に防除していたほ場が13%程度あることがAIのリスク評価で分かりました。資材の費用を抑えるだけでなく、化学農薬・化学肥料を減らす取組にもつながります。

天候の変化に合わせて早めに動ける

高温や大雨が続く年は、例年の経験どおりに作業の時期を決めても外れやすくなります。気象と生育のデータを毎日そろえて見ておけば、収穫や防除、換気の時期を前倒しする判断を早めに下せます。前の章の果実堂の事例も、過去の栽培データを使って高温障害のリスクを減らそうとする取組です。

農業のAI活用の課題・デメリットと対策

課題・デメリットと対策

実証プロジェクトでは、効果と同時にいくつかの課題も明らかになりました。始める前に、主な課題と対策を押さえておきましょう。

導入の費用が高い

ドローンやロボット、環境制御の機器は、数十万円から数百万円の投資になることが多く、使う面積や日数が少ないと元を取りにくくなります。対策は、機械を「所有」するのではなく「利用」することです。ドローン散布の代行や農機のレンタル・シェアリングなどを行う農業支援サービス事業者は、2025年に6,316経営体と、2020年から615経営体増えています(出典:農林水産省『令和7年度 食料・農業・農村白書』)。

使いこなせる人がいない

機械やアプリを入れても、データを見て判断に生かせる人がいなければ効果は出ません。最初は1つの作業と1人の担当者に絞り、販売店やサービス事業者の操作研修を受けながら慣れていくのが現実的です。都道府県の普及指導センターも、スマート農業の相談先になります。

今の栽培方法のままでは効果が出にくい

静岡県の株式会社鈴生は、ブロッコリーの自動収穫機などで全体の作業時間を55%減らしましたが、花蕾を傷つけたり大きさのそろわない株まで収穫したりして、歩留まりが下がりました。機械収穫に向いた品種を選び、生育の早い株は先に手で収穫するなど作業の方法を見直して、収穫量を改善しています(出典:農林水産省『令和6年度 食料・農業・農村白書』特集3)。機械やAIに合わせて、畝の幅や樹形、品種、作業の順番まで見直すことが大切です。

通信環境とデータがそろっていない

山間のほ場では電波が届かず、センサーやカメラのデータを送れないことがあります。また、AIで予測するには、過去の作業記録や収量の実績がそろっている必要があります。機器を選ぶ前に、ほ場の通信状況と、手元にどんなデータが何年分あるかを確かめておきましょう。

AIの判定や予測は外れることがある

AIは過去のデータにない天候や病気には弱く、品目や地域が変わると精度が落ちることもあります。病害虫の診断は「早く気づくための一次の確認」とし、防除の最終判断は人が行う、収量の予測は現場の見回りで補正する、といった使い方にすると失敗を防げます。

よくある失敗の4つのパターン

導入したのに使われなくなる例には、よく似た形があります。始める前に、次の4つに当てはまっていないかを見ておきましょう。

失敗のパターン 起きやすいこと 避け方
機器を先に選ぶ 何の数字を良くしたいのかが決まっておらず、効果を判断できない 困っている作業と、測る数字を先に決める
一度に全部を入れる 操作に慣れる前に繁忙期に入り、使われなくなる 1棟・1品目から始め、農閑期のうちに慣れておく
データを集めるだけで終わる センサーの数字を見ても、作業の決め方が変わらない 数字がどうなったら何を変えるかを、先に決めておく
担当者が1人に偏る その人が休むと止まり、辞めると使えなくなる 操作の手順を書き残し、2人目にも教えておく

農業でAI活用を始める進め方6ステップ

始める進め方6ステップ

農業でAI活用を始めるときは、次の6つのステップで進めると、投資のむだを防ぎやすくなります。

01

一番困っている作業を1つ決める

年間の作業暦を広げ、人手がかかる、ベテランしか判断できない、読みを外しやすい作業を書き出します。そのなかから、効果を数字で確かめやすいものを1つ選びます。

02

今の作業時間・収量・資材の量を測る

対象の作業にかかっている時間、収量、使っている農薬や肥料の量を記録しておきます。導入後の効果を比べるための基準になります。

03

手元のデータと通信環境を確かめる

作業記録、出荷の実績、ほ場の写真など、使えるデータが何年分あるかを確かめます。ほ場で電波が届くかもあわせて確認します。

04

買う・借りる・頼むを比べる

機器を購入するか、レンタルやシェアリングにするか、作業ごと農業支援サービスに任せるかを比べます。対象になりそうな国や自治体の支援制度も、この段階で調べておきます。

05

1棟・1品目・1ほ場で試す

対象を絞って1シーズン試し、手順2で測った数字と比べます。AIの判定が現場の感覚と合っているかも、ベテランと一緒に確かめます。

06

効果を確かめて広げる

効果が出たら、ほかのハウスや品目、作業へ広げます。効果が出なかった場合は、栽培方法やデータの集め方を見直してから次を判断します。

最初から全体をスマート化しようとせず、1つの作業で効果を数字で確かめてから広げることが、投資をむだにしない近道です。

経営の規模別の始め方

経営の規模によって、始めやすい入り方は変わります。

経営の形 始めやすいこと 次の段階
家族経営 生成AIや無料・低価格の診断アプリ、ドローン散布の代行 営農管理アプリで作業と収支を記録する
農業法人 営農管理アプリで原価を見える化、ハウス1棟の環境制御 自動運転の農機、収量・出荷の予測
JA・出荷組合・産地 生産者のデータを集めて出荷量を予測 作業受託や物流の計画と予測をつなぐ

作物別の最初の一手の早見表

何を作っているかによっても、最初に試しやすいことは変わります。手順1で作業を選ぶときの参考にしてください。右の列は、試したあとに比べたい数字です。

作物・経営 最初に試しやすいこと 比べたい数字
水稲 ドローン散布の代行、水田の水位を見るセンサー 見回りと散布にかかる時間
露地野菜 営農管理アプリでほ場ごとの作業と収量を記録、生育の画像診断 ほ場ごとの作業時間と収量
施設園芸(トマト・きゅうり・いちごなど) ハウス1棟の環境モニタリング(温度・湿度・CO2) 収量、燃料・肥料の使用量
果樹 病害虫の画像診断アプリ、生成AIでの作業記録の整理 防除の回数、見回りの時間
畜産・酪農 発情や体調の変化を知らせるセンサー 夜間の見回りの時間、種付けの記録
直売・通販が多い経営 生成AIで商品説明やSNSの投稿の下書き 発信にかかる時間、問い合わせの数

AIで効果が出やすい作業かのセルフチェック

AIを試したい作業について、次の6つを確かめてみてください。当てはまるものが多いほど、効果が出やすい作業です。

# 確かめること
1 毎シーズン、同じ作業に多くの時間や人手がかかっている
2 判断できる人が限られ、その人がいないと作業が止まる
3 作業記録や出荷の実績が、2〜3年分以上残っている
4 判断を誤ったときの損失(病気の広がり、値崩れなど)が大きい
5 効果を時間・収量・資材の量で測れる
6 試す作業の担当者を1人決められる

農業のAI活用の費用と使える支援制度

費用と使える支援制度

農業のAI活用にかかる費用は、使う技術によって大きく変わります。あわせて、国の支援制度も確かめておきましょう。

技術別の費用の目安

製品やほ場の条件で幅がありますが、おおよその目安は次のとおりです。正確な金額は、複数の販売店やサービス事業者から見積もりを取って比べましょう。

技術 費用の目安
生成AI・診断アプリ・営農管理アプリ 無料〜月数千円程度から
環境モニタリング(センサーとクラウド) 年数万円程度から
ドローンと画像解析 数十万円程度から
複合環境制御・自動運転の農機・ロボット 数百万円程度から
自社向けのAIの開発 数百万円程度から(目的とデータの量で変わる)

農業に限らない、AI導入全体の費用の考え方は AI導入の費用相場 で解説しています。

費用を回収できるかの試算の仕方

入れる価値があるかは、機器の値段だけでは決められません。次の式に自分の経営の数字を入れて、1年あたりの効果と費用を比べてみてください。

手順 計算式
1. 減らせる時間をお金に換える 減らせる作業時間(時間/年)× 1時間あたりの人件費
2. 増える売上を見込む 増える収量(kg/年)× 出荷の単価
3. 減らせる資材費を出す 減らせる農薬・肥料・燃料の量 × それぞれの単価
4. 1年あたりの費用を出す 機器の購入費 ÷ 使う年数 + 年間の利用料・保守費・通信費
5. 比べる (1 + 2 + 3)÷ 4 が1を超えるか

手順2と3は、導入前はあくまで見込みです。1棟・1ほ場で1シーズン試したあとに、実際の数字で置き換えると判断の精度が上がります。家族経営では人件費を払っていないことも多いため、手順1は「減った時間でほかの作業や面積をどれだけ増やせるか」で考えるのも一つの方法です。機器の値段だけで判断せず、使う年数で割った1年あたりの費用と、減らせる時間や資材を並べて比べることが大切です。

スマート農業技術活用促進法の税制・融資

生産方式革新実施計画の認定を受けると、必要な機械等を取得したときに特別償却(機械等32%、建物等16%。2027年3月末まで)を受けられるほか、日本政策金融公庫から償還期限25年以内の長期・低利の融資を受けられます。ドローンによる農薬散布の航空法の手続きがワンストップになる特例もあります(出典:農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」)。

国の予算と中山間地域の支援

農林水産省は、スマート農業技術の導入やそれに合わせた栽培体系への転換、農業支援サービスの育成などを、補助事業でも支援しています。中山間地域等直接支払交付金では、2025年度からスマート農業技術による省力化の取組に「スマート農業加算」(10aあたり5,000円、上限200万円/年)が設けられました(出典:農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」、農林水産省「中山間地域等直接支払制度」)。補助事業は年度や公募の回ごとに内容が変わるため、農林水産省のスマート農業のページや、都道府県・市町村の窓口で最新の情報を確かめましょう。

中小企業向けの補助金も対象になることがある

農業法人は、ものづくり補助金やデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)など、中小企業向けの補助金の対象になる場合があります。営農管理のソフトや事務の効率化のツールを入れるときは、デジタル化・AI導入補助金の公式サイトも確認してください。補助金の種類と選び方は AI導入に使える補助金・助成金ガイド でまとめています。補助金ありきで機器を選ばず、先に解決したい作業と効果の測り方を決めておきましょう。

生成AIの農業での使い方

生成AIの農業での使い方

ChatGPTやClaude、Geminiなどの生成AIは、機器を買わずにパソコンやスマートフォンからすぐに試せます。農業の現場では、次のような使い方が身近です。

作業日誌・記録の整理

音声で吹き込んだメモや走り書きを、日付・ほ場・作業・資材の量をそろえた表に整えます。手書きの記録の写真から文字を起こして、表計算ソフトに入れる下準備にも使えます。

販促・発信の文章づくり

直売所のPOP、通販の商品説明、SNSの投稿、産地や生産者の紹介文などの下書きをつくります。品種の特徴やこだわりを箇条で伝えるだけで、いくつかの案を出してくれるため、発信の手間を減らせます。

書類・マニュアルづくりと調べもの

補助金の申請書の構成づくり、新人向けの作業手順書、外国人の従業員向けの説明の翻訳などに使えます。ただし、生成AIはもっともらしい誤りを答えることがあります。農薬の使用基準や制度の要件は、必ずラベルや公式の資料で確かめてから使いましょう。

農業に特化した生成AIの開発も進む

農研機構では、AIによる施設栽培の環境制御や、普及指導員の指導業務を支える対話型の生成AIなど、農業に特化した基本のAIモデルの開発・実証が進められています(出典:農林水産省『令和7年度 食料・農業・農村白書』)。

情報の扱いに気をつける

取引先の名前や価格、従業員の個人情報をそのまま入力すると、サービスの設定によってはAIの学習に使われることがあります。入力してよい情報を決め、学習に使わない設定を確かめてから使いましょう。具体的な対策は 生成AIの情報漏洩対策 で解説しています。

農業のAI活用の相談先と選び方

相談先と選び方

農業のAI活用は、相談先によって得意な分野が違います。困りごとに合わせて相談先を選びましょう。

PR|AIBUILDERZ AI導入支援サービス

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AIBUILDERZ|AI導入支援サービス

システム構築は成果報酬型。AI研修から導入・構築・定着まで一気通貫で支援

AIBUILDERZ

AI研修からシステムの導入・構築・定着まで、一気通貫で支援するサービスです。業務アプリの構築費は事前にいただかず、実際に稼働させ、効果をご確認いただいてからお支払いが始まります。成果報酬型での対応は、当社が小規模と定義するシステムが対象です。

  • 業種・規模を問わず支援どの業務からAIやシステムに置き換えるかを一緒に決め、効果の大きい業務から順に進めます。
  • システム構築は成果報酬型業務アプリの構築費は事前にいただきません。稼働させ、効果をご確認いただいてからお支払いが始まります。
  • AI導入の効果を可視化置き換える業務を一覧にし、導入前後の時間から、空いた時間とかからなくなった費用を毎月記録します。
  • 小さく始めて、リスクを管理影響の小さい業務から始め、AIの実行結果は担当者が確認・承認してから反映します。

普及指導センター・JA

都道府県の普及指導センターやJAの営農指導員は、地域の品目や栽培方法に詳しく、スマート農業の実証や研修の情報も持っています。何から始めるかを考える最初の相談先に向いています。

農機メーカー・販売店

自動運転の農機やドローン、環境制御の機器を入れるときの相談先です。実機の試乗や操作研修、導入後の整備まで任せられます。農林水産省の「農業新技術 製品・サービス集」で、製品を探すこともできます。

農業支援サービス事業者

ドローン散布の代行、農機のレンタル・シェアリング、データの分析や経営の提案などを行う事業者です。機械を持たずにスマート農業を試したいときに向いています。

AI導入支援会社・ITベンダー

事務や販売、経営管理など、ほ場の外の業務をAIで効率化したいときや、手元のデータを集計・分析する仕組みを自社に合わせてつくりたいときの相談先です。農業の現場への理解があるか、試行から始められるかを確かめて選びましょう。AI導入支援会社の比べ方は AI導入支援とは?おすすめ会社の比較と選び方 で解説しています。

困りごと別の相談先の早見表

どこに相談すればよいか迷ったときは、いま一番困っていることから最初の相談先を選ぶと進めやすくなります。

いま困っていること 最初の相談先
何から始めればよいか分からない 普及指導センター・JA
散布や収穫など、機械の作業を楽にしたい 農機メーカー・販売店
機械を買わずに、まず試してみたい 農業支援サービス事業者
産地全体で出荷の量を前もって読みたい JA・出荷組合と、データの分析ができる事業者
記録・事務・販売・経営管理の手間を減らしたい AI導入支援会社・ITベンダー

相談の前にそろえておく情報

相談の前に次の6つをまとめておくと、話が早く進み、提案どうしも比べやすくなります。

# そろえておく情報
1 品目、面積、ハウスの棟数、家畜の頭数
2 一番困っている作業と、いまかかっている時間や人数
3 手元にある記録(作業日誌、出荷の実績、ほ場の写真)と、その年数
4 ほ場や畜舎、ハウスで電波が届くか
5 試す作業を受け持つ担当者
6 かけられる費用の上限と、機器を使う年数の見込み

相談するときに聞いておきたい質問

どの相談先でも、次の質問への答えを比べると、自分の経営に合うかを判断しやすくなります。

# 聞いておきたいこと
1 同じ品目・同じ規模の経営体での導入例はあるか
2 効果を何の数字で、いつ確かめるか
3 1棟・1ほ場など、小さく試すことはできるか
4 集めたデータはだれのものになり、解約後も使えるか
5 操作の研修や、故障・不具合のときの対応はどうなるか
6 税制の特例などの対象になる製品か、その根拠となる公式の資料はどれか

見送ったほうがよい提案

効果を測る方法が決まっていない提案、最初からすべてのほ場や品目での一斉導入を求める提案、補助金を使うこと自体が目的になっている提案は、いったん立ち止まって考えましょう。データの持ち主と解約後の扱いが契約で決まっていない場合は、契約の前に確かめることが大切です。

農業のAI活用の今後

農業のAI活用の今後

国の計画や研究開発の動きから、農業のAI活用のこれからを見ておきましょう。

2030年に向けてスマート化が加速する

国は、スマート農業技術を活用した面積の割合を2030年に50%へ高め、重点的に開発する技術を2030年度までに実用化する目標を掲げています。収穫ロボットが作業しやすい樹形のりんごや、機械で収穫しやすいイチゴなど、スマート農業に対応した品種の開発も進んでいます。

データの連携が広がる

農研機構の農業データ連携基盤「WAGRI」は、2026年3月末時点で126の民間事業者などが利用し、225のAPIが実装されています。気象や農地、市況のデータ、生育・収量の予測や病害虫の判定のプログラムが提供され、これらを使った農業者向けのサービスが増えています(出典:農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」)。

生成AIが経営判断を支える

農業DX構想2.0では、生産や販売のデータが半自動で集まり、生成AIで分析して経営の判断に生かす姿が描かれています。作業の自動化に加えて、記録や分析、計画づくりといった経営の仕事でもAIの出番が増えていくでしょう。

農業のAI活用に関するよくある質問

よくある質問
Q. 農業でAIはどのように活用されていますか?
作物の画像からの生育診断や収穫適期の判定、病害虫の診断と発生の予測、収量・出荷量の予測、ハウスの環境制御、収穫ロボットや自動運転の農機、選果、畜産の個体管理、鳥獣害の対策、経営管理や販売の分析、生成AIによる記録・事務・販促などに使われています。
Q. 小規模な家族経営でもAIを活用できますか?
できます。生成AIや病害虫の診断アプリは無料や低価格で始められます。ドローン散布などは機械を買わず、農業支援サービスに作業を頼む方法もあります。
Q. 農業のAI活用にはどのくらいの費用がかかりますか?
生成AIや診断アプリは無料〜月数千円程度から、環境モニタリングは年数万円程度から、ドローンと画像解析は数十万円程度から、複合環境制御や自動運転の農機は数百万円程度からが目安です。
Q. 費用を回収できるかは、どう判断すればよいですか?
減らせる作業時間の人件費、増える収量の売上、減らせる資材費の合計を、機器の購入費を使う年数で割った額と年間の利用料・保守費の合計と比べます。導入前の数字は見込みのため、1シーズン試したあとの実際の数字で確かめ直しましょう。
Q. 何から始めればよいですか?
一番困っている作業を1つ選び、今の作業時間や収量を測ってから、1棟・1品目・1ほ場で試すのがおすすめです。最初の相談先には、普及指導センターやJAの営農指導員が向いています。
Q. データがなくても始められますか?
始められます。病害虫の診断アプリや生成AIは、過去のデータがなくても使えます。収量の予測のように過去の記録が必要なものは、まず営農管理アプリで作業と収量を記録し、1〜2シーズン分をためてから試すとよいでしょう。
Q. 畜産や酪農でもAIは使えますか?
使えます。牛に付けたセンサーで発情や体調の変化を知らせる仕組みや、牛舎のカメラで分娩の兆しを見つける製品があります。夜間の見回りの負担を減らしたいときに向いています。
Q. 農業のAI活用に使える補助金はありますか?
スマート農業技術活用促進法の税制・融資の特例、農林水産省のスマート農業関係の補助事業、中山間地域のスマート農業加算などがあります。農業法人は、ものづくり補助金やデジタル化・AI導入補助金の対象になる場合もあります。要件は制度や公募の回ごとに変わるため、公式の情報で確かめてください。
Q. パソコンやスマートフォンが苦手でも使えますか?
自動運転の農機や診断アプリは、ボタンや撮影だけで使えるものが増えています。最初は操作の研修がある製品を選び、担当者を1人決めて慣れていくと進めやすくなります。
Q. AIの判定はどのくらい当たりますか?
品目や地域、データの量によって変わります。過去にない天候や新しい病気には弱いため、病害虫の診断は早く気づくための目安とし、最終の判断は人が行いましょう。
Q. 集めたデータはだれのものになりますか?
製品やサービスの契約によって違います。データを持ち出せるか、解約後も使えるか、ほかの目的に使われないかを、契約の前に確かめておきましょう。

まとめ

まとめ

農業のAI活用で押さえておきたい点を、5つにまとめます。

01
基幹的農業従事者は2025年に103.6万人に減り、少ない人数で営農を続ける手段としてAIの活用が欠かせなくなっている
02
AIの活用は、生育診断・病害虫・収量予測・環境制御・ロボット・選果・畜産・鳥獣害・経営管理・生成AIの10の分野に分けて考える
03
実証ではドローンで作業時間61%減、自動水管理で80%減など、はっきりした効果が確かめられている
04
費用が高い・人がいないという課題には、農業支援サービスの利用と栽培方法の見直しで向き合い、1年あたりの効果と費用で回収を見込む
05
作物に合った作業を1つ選び、数字を測ってから小さく試し、効果を確かめて広げる

ほかの業種も含めたAI活用の事例は 中小企業のAI導入事例、中小企業のAI導入の進め方は 中小企業のAI導入ガイド、使える補助金は AI導入に使える補助金・助成金ガイド もあわせてご覧ください。